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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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南からの報せ

 あまりにも船賃が安いと罠があるってことを、私は前回で学習した。

 今度はお金をケチらないで、高速船に乗ろうと思う。

 問題は、次にどこへ行くかのなのよね。


 季節は夏を通り過ぎてすっかり秋だ。そろそろ夜は冷え込む日も出てくるから、野宿の多い傭兵の身としては、寒い地方へ向かうのは自殺行為。

 よく分からずに北を旅していた頃は、秋口のあまりの冷え込みに凍死するかと思ったこともある。

 よって夏は涼しい北。冬は暖かい南へ向かう。それが私達の基本。


「本当に、東岩まで行くのか?」


 飛那ちゃんが、船着き場から小さめの高速船に乗りこむマキシムさんに、そう尋ねた。

 ジャクリーンさんも一緒に、これから東の地へ旅立つんだって。


 一昨日、飛那ちゃんから師匠の風漸さんの話を聞いたマキシムさんは、早速恩人の墓参りへ行くことを決めたらしい。


「ああ、ジャクリーンは東の地を踏んだことがないしな。しばらく向こうで旅をしてこようかと思ってる」

「そうか……ジャクリーン、もしなんか困ったことがあったら、私の兄様を訪ねるといいよ。連絡はしておくから」

「ええ、『東の賢者』さんでしょ? 覚えておくわ」


 飛那ちゃんは、何かにつけて蒼嵐さんの名前を使いまくってる気がするけど、いいのかしら。

 まぁ、可愛い妹の頼みだったら何でもやる人だろうから、多分いいのよね……

 ゴゾの町の領主と、東の賢者という連絡先がある以上、彼女たちとの付き合いはこれからも続きそうだと私は思った。


 傭兵の夫妻が船着き場から離れて大海へ出て行くのを見送ると、私達は今後の予定について話し合うために、青空食堂に向かった。

 たまに視線を感じるのは、一昨日の夜酒場で暴れたせいよね。

 なんとなく、この町にも居づらくなってきた気がする。ここは物価も高めだし、早いところ次の場所へ行かなくちゃ。


 飛那ちゃんは食堂のテーブルで、蒼嵐さんに手紙を書いていた。


「ついでに、次の目的地のことも書いておこうかと思うんだけど、どこ行くんだ? これから」


 飛那ちゃんが手を止めて言った。

 特に決まってないんだけど、10月って時期を考えると、北はないわね。


「うーん……とりあえず西に渡って、物価の安いところで経済を立て直してから、南かなぁ」

「二人とも、おまたせー」


 マルコが大皿パスタを片手に、戻ってきた。

 たっぷりキノコとゴゾ産野菜のクリームパスタ、食べたかったのよね~。


「じゃあ、多分西の方へ行くって書いていいか?」

「うん、そうね。とりあえずアツアツのうちに食べましょう」


 私は湯気の上がるパスタを自分のお皿に取り分けながら、適当に答えた。 

 どこの場所でもどんな時でも、美味しいものを食べてる時が人類共通の幸せだと思う。


 私が一口目をほおばった時、パサパサっと軽い羽音とともに、一羽の黄色い小鳥がテーブルの上に降り立った。

 頭から伸びた冠羽とほっぺのオレンジがちょっとコミカルな、短いクチバシの小鳥だ。


「あ、俺のメンハトだ」


 マルコがそう言って手を出すと、黄色い小鳥はチョン、と指に乗って消えた。

 封筒にも入っていない一通の手紙がそこに残る。

 

 それを手にとって広げたマルコが、少しの後、珍しく眉をひそめた表情を作った。


「どうひゃひた?」


 パスタを口に詰め込んだまましゃべったら、変な発音になった。

 そんな私をいつもの顔に戻って笑うと、マルコは手紙を元の大きさにたたんだ。

 わざわざメンハトで連絡が来るくらいなんだから、どうでもいいような内容じゃないよね?

 それなのに、ごく普通に自分もパスタをよそって食べ始めたマルコを見て、今度は飛那ちゃんが口を開いた。


「なんかあったのか? メンハトで連絡来るんだから、家族からじゃないのか?」

「いや、家族(ファミリー)と言えば家族(ファミリー)からなんだけど……」

「なんだよ、歯切れ悪いな。放っておいていい内容ならいいけど、なんかあったんじゃないのか?」

「あー……嘘か本当か分からないんだけどね。どうやら、親父が具合悪くなって倒れたらしい」

「え? 親父って……父親か?」


 確かマルコは盗賊団の……跡取りだったっけ?

 

「うん、殺しても死なないくらいパワフルな父親だから、本当かどうか怪しいんだけどね」


 マルコはそう言って笑ったけど、それ、本当だったらどうするの? ……ていうか、そんなこと嘘で連絡よこしたりしないでしょ。


「笑ってる場合じゃないだろう、お前すぐに帰れ」

「えええ……俺、飛那姫ちゃんと一緒にいたい……」

「脳ミソ腐ってんのか?! 親が具合悪いんだろう? 帰れ!」


 ちょっと本気で怒る飛那ちゃんにたじろぎながら、マルコは首を横に振った。


「急に帰ってこいって言われても……俺、追い出されたはずなんだよね。親父はともかくとして、なんか新参の盗賊団が暴れてて困ったことになってるみたいだし。めんどくさいっていうか、情けないっていうか……はぁ。エアーズ盗賊団の名が泣くなあ……」

「じゃあお前、なおさら戻らなきゃだろ?」

「いや、俺が帰ったところで親父みたいには立ち回れないだろうし、そもそも一人前になるまで帰ってくるなって言われたしねぇ」

「マルコ」


 凄んだ声で、飛那ちゃんがマルコを睨んだ。


「人ってのは意外に簡単に死ぬ。さっきまで元気だったヤツが、いきなりいなくなることだって十分あるんだ。わざわざ連絡が来てるんだから、風邪ひいたとかじゃないだろ? 戻れるうちに戻っておけ」


 説得力のある言葉に、マルコは仕方なさそうに肩を落とした。


「あー……分かったよ、飛那姫ちゃん。はぁ。俺、正直戦闘は苦手なんだよなあ……血が流れるのはどうも好きじゃなくって。親父の代わりに抗争の矢面に立つとか出来るとは思えないんだけど……無視も出来ないし、ひとまず帰るしかないかな」

「戦闘? するのか?」

「手紙の内容からして、多分。抗争が激しくなってるみたいだから」

「お前の短剣、筋は悪くないんだけどなぁ……性格の面で確かに戦闘には向かないかもな」

「それ、褒めてくれてるの?」


 二人が話しているうちに、私は自分の分のパスタを食べ終わった。

 まだもの足りない。デザートでも頼もうかな。


「そうだ! 飛那姫ちゃん、もし良かったら俺に雇われてくれませんか?!」

「は?」

「二人がいたら百人力なんだけどなぁ……お願いします!」


 マルコはただ、飛那ちゃんから離れたくないだけな気がするけど。

 なんでもいいから現在進行形で仕事が欲しい私達に、いいタイミングのスカウトだとは思う。


「マルコ、飛那ちゃんを雇いたいなら私を通してちょうだいね……で、いくら出すの?」


 私は、にっこり笑ってマルコに尋ねた。マルコも強ばった笑顔になった。


「……友情割引とかは?」

「3%くらいなら。あと、ここからの旅費、全額支給で」

「……この人、鬼だ……」

「あら? ご不満かしら?」

「いえ……じゃあ俺がここからの道中で稼いだお金、全額渡すってことでどうでしょう?」

「漠然とした金額だけど……まあいいわ。せいぜい稼いでね」


 どうせ西か南に渡らなければいけなかったんだから、この申し出は一石二鳥と言える。

 ラッキー、とか思ってるのはナイショにしておこう。


「こいつの実家が次の目的地? マジか……兄様の手紙、書き直さないと」

「あっ! いやいや! その手紙はもうそのまま送っていいんじゃないかな?!」


 慌てて飛那ちゃんのペンを取り上げたマルコは正しい。

 飛那ちゃんを自分の実家に連れていくとか、確実にアウトでしょう。

 妹関連で蒼嵐さんを敵に回すと、きっと恐ろしいことになると思う。


「手紙はともかくとして、マルコ、私の分の賃金は旅費だけでいいぞ」

「え? どうして?」


 私も意外だったけど、飛那ちゃんが唐突に譲歩した。


「お前には少しばかり借りがあるからな。それを返したい」

「それって、借りを返して綺麗さっぱり縁を切りたい、とか言わないよね??」

「うん、それもいいと思う」

「いやいやいや……俺、恩着せた覚えないし、ちゃんと雇いますから、勘弁して……」

「ちゃんと雇われてやるよ、格安で」


 じゃあ私の分の報酬を上乗せしよう。そう思ったことはナイショ。


「要は盗賊団を一つ壊滅させればいいんだろう?」

「いや、殴りこみかける気はないんだけど……」


 綺麗な笑顔に似合わない毒台詞を吐く飛那ちゃんを、マルコは複雑な顔で見返した。

 もう手遅れだと思う。やる気よ、彼女。


 南の国は結構色んな場所に行ったけど、まだ見ていない場所もある。

 これを機会に盗賊団にちょっと腰を据えて、あちこち旅行してみるのも悪くないかもしれない。

 私はのん気に考えながら、追加のデザートをマルコに注文した。


マルコソ泥の属するエアーズ盗賊団から、帰還願いが届きました。

馬鹿息子ですが、一応跡取りです。


次回は、南の国にたどり着いた飛那姫達の様子からお届けします。

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