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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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綺麗さっぱりお忘れください

 私はイーラス・マクウェイン。

 この西の大国プロントウィーグルの第一王子、アレクシス様の侍従兼護衛です。


 私達の乗る白い馬車はゆるゆると速度を落とし、事実上、中立地帯を統治する領主の屋敷の前に止まりました。

 ここ、中立地帯に王はいませんが、領主と呼ばれる統治者がいます。


 視察をかねた審査員の任を得て、傭兵大会に集まった各国の使者は、領主によって丁重にもてなされているのですが。西の大国から来られた我が主、アレクシス様にいたってはそれはもう大変な歓迎のされようです。

 こんな傭兵の大会などに、まさか第一王子が視察に来られるとは思っていなかったのでしょう。先触れを送った際には大変驚かれていたそうです。

 ゴゾが一つの国として認められたように感じられたのか、単純に王子とつながりが出来たことに喜ばれたのか……その辺りは分かりませんが。

 この来訪は王子のただのわがままですと、あえて言う必要もないので黙っておきましょう。


 傭兵大会1日目が終わり、よく整えられた部屋に戻った我が主は、浮かないお顔でした。

 戸口の外に立っているロイヤルガードには気付かれなかった程度だと思いますが、私には分かります。これは、思い切り落胆されているお顔です。


「王子、何度見ても変わりませんよ」


 ソファーに深く腰掛けて、傭兵大会に参加する選手の名簿をパラパラめくっている王子は小さくため息をつかれました。

 私の他に侍従もいない為、大分気を抜かれているご様子です。


「イーラス、彼女は16歳以上……だと思うか?」

「それは……おそらくそうなのでは」

「じゃあ参加資格はあるということだろう? 傭兵同士の腕比べ大会と聞いたら、彼女はやって来ると思ったんだけどな……」

「今日見た限りでは、おりませんでしたね」


 半年ほど前に出会った、傭兵の女剣士が現れることを期待してこの町にやって来た王子ですが、大会1日目の今日は彼女の姿を見つけることは出来ませんでした。

 王子にはお気の毒ですが、私は正直、あの無礼娘がいなくて良かったと思っています。

 見た目こそ我が主に匹敵する造形美の女剣士ですが、なんにせよ言動がひどい。

 王子付きの侍従として、あんな無礼な娘を大切な主に近づけたくはありません。


「この場所は大陸からも遠いですからね。わざわざやってこなくても不思議ではありませんよ」

 

 明らかに気落ちされている王子を、私は複雑な気持ちで眺めました。

 取り繕う必要も無いと思っているのか、子供のようにがっかりしたお顔を隠そうともしません。


(本当に、ご自身でも気付いておられないのでしょうか……)


 女剣士の剣技の凄さに惹かれて、同じ剣士として憧れていると信じ切っておられる王子ですが……彼女と一緒の時に向けられていたまなざしや行動を見る限り、それだけのことでもすまないと私は思っています。

 そして、そのことに王子がずっと気付かなければいいとも思っているのです。


 この6月で22歳になられた王子はもういつご結婚されてもおかしくないお年ですが、未だに持ち上がる縁談に興味を持たず、そういった事の全てを交わされてらっしゃいます。

 どうも幼い頃から女性にちやほやされすぎて、女性不信になっているようなところがあるのでは、と最近では考えているのですが……

 それはそうとして、傭兵などを追っかけている場合ではないのです。早いところ血筋正しい姫を奥方に迎えられ、世代交代に備えて盤石の基礎を築くため、すぐにでもご夫婦で準備をされていただきたい。私は切にそう願っています。


 所詮どれ程に望んだとしても、相手は傭兵。王子のお相手になり得るはずがありません。

 もうこの大会で出会えなければ綺麗さっぱりとお忘れになって、現実に目を向けていただきたいのです。


「明日は準決勝や決勝があるから……観戦に来たりしないだろうか」


 独り言なのか私に向けられたお言葉なのか、判断しかねる口調で王子が呟かれました。


「今日いないのですから、明日だけいるなんてことはないでしょう。それにゴゾの町は広いですから……仮に会場のどこかにいたとしても、何の情報もなく人1人が探し出せるとは思えません」


 そう、この町はかなり広いのです。

 屋外の競技場も千人を越える傭兵が集まってなお、各所で試合が行えるくらいの広さがあります。

 このお祭り騒ぎの中、無礼娘を見つけられるとしたら、選手の中から探し出す位しか方法がなかったのです。


「途中から参加は出来ないそうなので、明日から出場するということもありませんよ。この際あの娘のことはお忘れになって、傭兵同士の戦いを楽しまれることをオススメします」


 私の言葉に頷くことはせず、王子はまた手元の名簿を未練がましくパラパラめくり始められました。

 ですから、何度見ても無駄ですって!


 あの無礼娘が関わってくると、いつもの完璧な王子からは想像もつかないような人間くさい面が垣間見られるようになります。

 私に信頼を寄せて素の感情をさらけ出してくださることがうれしく思える反面、これではいけないと侍従としては思うのです。

 王子にはいつでも完璧でいていただきたい。

 そして将来は、対外的にどんな立場の人間からも文句を言わせないほどに、完璧な王になっていただきたい。


 私はそのためのサポートに、努力を惜しむ気はありません。


 ただ少しだけ、沈んだお顔を見るのがつらく感じることもあり……侍従としてまだまだ心構えが足りないことを痛感するのです。


「明日は見つけられるといいな……」


 ぽつりと漏れた王子の呟きを聞こえなかったふりで、私は壁を向いたままお茶を煎れる手を動かし続けました。


落ち込んでいる主を見て、侍従にも色々思うところがあります。


次回、飛那姫達はバイトへGO。ゴツイ女傭兵が出ます。

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