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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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夢見る一攫千金と夢見る……?

「……なんだこれ?」


 私は情報屋のカウンターの上から一枚の紙を手に取った。

 置かれている色んなチラシの中から、その小さい紙が目に付いたのは偶然だ。


 ここは真国の北の果てにある港町、紋泊(もんどまり)

 南の花島ほどではないにせよ、そこそこ大きい港町だ。

 北に渡る連絡船に乗るためにこの町を訪れた私達は、ついでに仕事をもらいに来たところなのだが……これだけ大きい町のわりに、ギルドには人が少ないように思えた。


「第9回傭兵大会……中立地帯ゴゾの町にて。10月1日~2日開催。エントリー受付中……」


 チラシに書かれているイベントは、どこかで聞いた覚えのあるものだった。傭兵同士が戦って腕比べする大会だったような気がする。確か年齢制限があって、私達には関係ないものだったはずだ。

 中立地帯は治安が良くないから、足を踏み入れたこともない。でもこれ、他の強い傭兵と戦えるってことじゃないのか? なんか楽しそうだな。


「美威、ゴゾって行ったことないよな?」

「何? 今忙しいんだけど……」


 船が出るまでに少しでも稼ごうとペラペラと案件ファイルをめくっていた美威は、私の声かけに面倒くさそうに顔をあげた。


「傭兵大会だって」

「あぁ……聞いたことあるけど、腕比べとか腕自慢とかどうでもいいわ。傭兵に大切なのはお金になるかならないかよ」


 このところの金欠で、美威は機嫌が悪い。いつ何時でも、効率良く金を稼ぐ方法を考えているようだ。

 私が長いこと城下町に留まっていたせいで宿代がかさんでしまったそうだから、一応悪いとは思ってる。


「最終便に乗るまでに、少しでも稼いでおかないと。ああ、もうっ。小さい報酬額のものしかないわね……もっとこう、ドカンと100万ダーツくらい稼げる仕事が欲しいっ!」

「竜討伐にでも行かないと無理じゃないか?」

「この際竜でも異形でもなんでもいいわっ! 喋ってるヒマがあったら飛那ちゃんもいい案件探して!」

「傭兵大会……賞金あるらしいぞ?」


 そう言った瞬間、美威は私の手からチラシをひったくった。


「賞金……総合優勝300万ダーツ、準優勝100万ダーツ、部門TOP賞50万ダーツ……」

「へえ、すごいな、300万ダーツか」

「飛那ちゃん……」

「ん?」

「ゴゾの町に行くわよっ!!」


 目が怖いぞ、美威。


「傭兵大会……うかつだったわ。賞金があるのも知ってたはずなのに、今まで関係なかったからノーマークだった!」

「確か参加資格に年齢制限があったろ? 何歳から出れるんだ?」

「16歳からよ。私も飛那ちゃんももう参加出来る! 二人で賞金全部もらいましょう!」

「開催日、10月1日って書いてあるけど、今から行って間に合うのか?」


 ぴた、と美威が動きを止めた。

 北まで渡るのには何日もかからないだろうけど、中立地帯ってそれなりに遠かった気がする。確か海の真ん中だったんじゃ?

 美威は案件ファイルをカウンターに突っ返すと、足早にギルドを飛び出して行った。

 置いていかれると困るので、私もその後を追う。


「おい美威、待てよ。どこ行く気だ?」

「決まってるでしょ? 中立地帯までの船を探しに行くのよ」


 連絡船ターミナルにたどり着くと、建物の中にはマルコがいた。

 兄様から持たされたでかい荷物を横に下ろして、ベンチでくたばってる。


「マルコ、生きてるか?」


 声をかけると、跳ね起きた。


「生きてますっ! お呼びですか?!」

「……なんだ、生きてたのか」

「なんで残念そうなの……?」

「行き先が変更になるかもしれないぞ。美威が傭兵大会に出たいらしい」

「傭兵大会?」


 反応からして、マルコも大会のことを知らないみたいだ。

 賞金金額の大きさはちょっとしたものだと思うけど、報酬と違って絶対にもらえるってもんでもないし、よく分からない大会とやらにいきなり参加して、そもそもうまくいくんだろうか……

 

(そりゃ、私が参加するのなら剣士としては優勝出来るとは思うけど)


 楽して大金を手に入れようなんて、ちょっと見込みが甘い気もする。

 美威は切符売り場でなんやかやと話していたかと思ったら、チケットを手に戻ってきた。


「間に合うみたい、30日の朝に到着予定だって」

「ギリギリだな」

「ギリギリでも何でも間に合えばいいのよ。乗船代も北に行くより安かったし!」


 ご機嫌な美威に、マルコが不思議そうに聞いた。


「美威ちゃん、結局どこに向かうの?」

「中立地帯のゴゾよ。あ、護衛兼下働きとしてマルコの分もチケット買ったから安心してね」

「中立地帯……に行くのに、北へ行くより船賃が安かったの?」

「そうよ。あんまり大きな船じゃないみたいだけど、それなりに速いって」

「変じゃない? 中立地帯の島は北の3倍以上の距離がありそうなんだけど……」

「格安便に空きがあったのよ。高速船に乗ると高くつくでしょ?」

「それは……お得だったね。でもあんまり安いのもオススメ出来ないなあ……本当に大丈夫なの? その船」

「大丈夫、大丈夫」


 やや不安そうなマルコに、美威は笑って手を振った。

 安いからっていきなり沈んだりはしないだろうけど、船になんかあった時に一番困るの、カナヅチのお前だからな。


「船は第4桟橋からあと1時間しないで出るって。今のうちに食料とか買い出ししておこう」



 一通り必要と思われる買い物をして、私達は桟橋に向かった。停泊している中立地帯行きの船は、古そうな連絡フェリーだった。

 これの前に乗ったのがハイドロマティック号だったから、見た目から何から落差がものすごい。


 私達が乗り込むと、船はすぐに出航した。出だしからかなりの揺れだ。

 美威は早くも船酔い気味になってきたので、早々に部屋で休むことにする。


「え? 俺だけ4等船室? ……で、飛那姫ちゃんと美威ちゃんは2等?」


 部屋に荷物を運び込んだ後に追い出すと、マルコは悲しそうな顔で振り返った。


「そうよ。マルコは雑魚寝部屋ね」

「別に雑魚寝でもいいんだけど……むさいおっさん達と一緒に寝るくらいなら、床でもいいからそっちで寝かせて欲しいなあ」


 美威にそう懇願するマルコを軽く睨みながら、私はドアノブに手をかけた。


「却下だ。お前は同じ部屋には入れない」

「飛那姫ちゃん……俺まさか、いつの間にか危険人物認定されてる? こんなに紳士なのに? 俺のことを誤解してるよっ」

「疑わしきは排除だ」

「疑わしくない! あんなことやそんなことがしたくっても、理性でちゃんと我慢出来ますから……って、おーい」


 目の前でバタン! とドアを閉めて鍵をかけると、私は備え付けのベッドに腰を下ろした。

 出来れば明日の朝メシあたりまで、あいつの顔は見なくていい。

 向かいのベッドに転がった美威が、何か言いたそうにドアの向こうと私を見比べた。


「何だよ?」

「マルコはそりゃバカだし言動も軽いけど……たまにちょっとかわいそうだと思う時があるのよね」

「はあ? なんだ美威、お前あいつの味方するのか?」

「味方って訳じゃないけど……これだけ一緒にいるから、多少情が移ったのかしら。ハイドロ号で飛那ちゃんを助けてくれたり、猫を探してくれたり、城下壁修繕だってあんなに頑張って手伝ってくれたじゃない? 悪いヤツじゃないと思うんだけどな」

「……何が言いたい?」

「あんなに一途なんだから、少しは応えてあげればいいのにって」

「……あり得ん」


 何を言い出すかと思えば。


「冗談キツイぞ。あいつは第一印象からして最悪だった。どう転んでもそういう対象にはならない」

「第一印象が最悪なら、その後の好感度は上がることがあっても下がることはないんじゃないの?」

「そういうこと言うのなら……お前だって、後半はレブラスと仲良くなってたじゃないか」


 ちょっとだけニヤついた顔で人をからかってくる美威に、仕返しのつもりで私は思いついたことを言ってやった。

 美威はきょとん、とした後、嫌そうな目で私を睨んできた。


「ちょっと。それこそ第一印象が最悪過ぎた人を引き合いに出さないでくれる?」

「好感度が上がることはあっても下がることはないんだろ?」

「少しくらい評価が上昇方向に修正されたからって、必ずしもそういうことには繋がらないでしょ?!」

「自分でそう言ったんだろ?! レブラスは顔も悪くないしなっ。イケメン好きだろ?」

「イケメンにもタイプがあるのよ。私は蒼嵐さんみたいな柔らかい感じのイケメンが好きなの! ああいう冷たい感じのは好みじゃないんだからっ」

「え? 兄様?」

「あ、でも蒼嵐さんは顔が良くても……残念なことにシスコンだから、その1点だけで恋愛対象としてはあり得ないわね」


 言い合いながら、なんとなく不毛な気がしてきた。


「……もうこの話はやめよう」

「……そうね」


 お互いの首をしめただけなのは、気のせいだろうか。


「私の運命の人……一体どこにいるのかしら」


 夢見る乙女の顔で、美威がため息まじりにそう呟いた。


北の国から中立地帯の島へ進路変更。

飛那姫にとってマルコは、たかってくる蚊みたいなもの。

虐げられるだけのマルコに、ほんのちょっとだけ同情した美威でした。


次回は、ゴゾの町へたどり着きます。

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