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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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経済危機到来

 紗里真の城下壁整備は大きく破損していた6箇所の修繕が終わって、今日で1ヶ月と6日目。

 町の守りに問題がない安心レベルになった城下壁には、今日も小さい修繕作業を続ける大工や土工が張り付いている。

 工事完了の目処がたったところで、私達もやっとこの町を発つことになった。


 城下壁が直って、周囲の沿道も整備されて、町の人達が喜んでいるのは何よりなんだけど。

 私個人として言わせてもらえば、ぶっちゃけ不満だ。


 城下壁周りのパトロール部隊として、雇われたこの1ヶ月あまり。

 報酬はボランティアに毛が生えた程度だし、宿代はかさむし……飛那ちゃんが宝物庫から換金出来る宝石を「経費」として持ってこなかったら、生活してられなかった。

 要するに赤字! そう、赤字すなわち断腸の思い!!

 まあ、ハイドロ号で貯金を使い切ってしまった経緯はあるんだけど。


「お金……なんか大きい仕事か、臨時収入がないとキツイ……」


 何日後かには北に向かう連絡船に乗る予定だけど、それも予算ギリギリだ。

 飛那ちゃんには是非、宝物庫から換金出来るブツを出してきて欲しい。


「断る」


 おねだりする私に、荷物を背負った飛那ちゃんは間髪入れず答えた。

 私達の経済のピンチなのに、あっさり断ってしまうのが彼女らしい。


「国費を私用で使う気はない。船に乗る金がないなら、北に行かないでしばらく東で働けばいいだろ?」

「それはそうなんだけど……働くにしても今すぐにお金が欲しいの! 時間をかけずにサクッと稼ぎたいのよ!」

「あ、じゃあ俺が道中、どこかで本業の仕事して来ようか?」


 マルコが横から出て来て、ニコニコしながら言った。蒼嵐さんにもらった大きいリュックを背負って、旅の支度は万全なようだ。

 本業って、要するにどっかに盗みに入るってことよね……


「そういう金はいらない」


 マルコを見るなり、飛那ちゃんはささっと離れると歩いて行ってしまった。

 昨日の打ち上げ会で酔っ払ったマルコに絡まれたみたいだから、無理もないわね。


「美威ちゃん、俺なんか飛那姫ちゃんに避けられてる気がするんだけど?」

「あんた……昨日酒場で飛那ちゃんに何したか覚えてないの?」

「え? それ何の話??」

「うわ……最低」

「えええ?!」


 俺、謝ってきた方がいい? とオロオロし出すマルコは放置だ。ちょっとは焦って困るといい。実際大したことはしてないので、ただの八つ当たりなんだけど。

 飛那ちゃんは大きな南門の下から、上にいる大工を呼んでいた。甚五郎だ。

 この1ヶ月あまりで周囲への誤解が解けて、なんとか仲間と打ち解けたみたい。元城大工だけあってかなりの技術を持っていたらしく、新しく入ってきた若い大工達にはリスペクトされているらしい。

 しゃべれないのは不便そうだけど、うまくやっていけそうで良かった。


「私達はもう行くけど、これからも壁のメンテンナンス、よろしく頼むよ」


 飛那ちゃんは降りてきた甚五郎と話し出した。


「本当に、いくらお礼を言っ……俺は、ここで一介の大工として働くような器じゃないからな。本当ならこんなくだらない仕事なんかせず遊んで暮らしたいところだが、どうしてもって言うのなら働いてやらないこともない……ううっ」

「いや、もういいから喋るな。お前」


 思うことと反対のことを口にしてしまう甚五郎を、苦笑いで飛那ちゃんが止める。

 元々気が大きくないせいか、口から出てくるでまかせが余計に強気の大嘘になるみたい。難儀な人ね。


「城下壁の修理も一段落したし、お前のその二枚舌もなんとかしないとな……甚五郎、見晴らしの塔にいる『東の賢者』って知ってるか?」

 

 甚五郎はこくりと頷いた。


「この手紙持って、その東の賢者を訪ねるといいぞ。呪いを解く方法があるかどうかは分からないけど、きっと力になってくれる」


 そう言って飛那ちゃんが差し出した手紙を、甚五郎は潤んだ目で受け取って何度も頭を下げた。


「何から何まで、ありがとう……!」


 短い挨拶とかは、割と出来るみたいなんだけど。

 マトモに話が出来ないのは面倒なことこの上ないだろうから、蒼嵐さんが呪いを解く方法を知っているといいわね。


「さて、じゃあ行きますか」


 そう言って、飛那ちゃんは南門から真正面に見える紗里真城を一度だけ振り返った。

 宝物庫に行くために城に入った時、自分の部屋や玉座の間、たくさん思い出の残っている場所にはまだ行けない、と彼女は言った。

 大丈夫? なんて聞くまでもなく大丈夫じゃない青い顔色を見ただけでも、8歳と10歳の時に彼女が負ったトラウマは、相当根深そうだと思った。

 ただ、庭園の隅に割り込むようにして立っていた大きめの工場らしき建物を粉々にしてきたことで、少しは気が済んだらしい。


 7年ぶりに足を踏み入れたこの地で、元国民のために働くことも出来て、彼女も少しだけ気持ちを清算することが出来たんじゃないかな。

 小さくとも前に進めたのなら、ここに帰って来て良かったと思う。


「おい美威、どっちに行けばいいんだ?」


 お金がないので、節約で馬車には乗らずに徒歩で次の町まで行くことになったんだけど……

 方向音痴の飛那ちゃんを先頭にしておくわけにはいかない。


「そっちじゃない! 右よ、右!」


 真国の北からは、北の国に渡る連絡船が出ている。そこから北経由で歩いて、西に渡って、南に行こうと考えているのだけど。

 出来れば北の港に着くまでに一稼ぎして、北に着いてからも大きい仕事をゲットしたい。

 本格的な冬が来る前に北を抜けなければいけないだろうし、あまり時間的な猶予もないだろう。


 冬前には温かい地方に着いていたいなぁ……と秋めいてきた空を見上げながら、近年一番の深刻な経済危機に頭を悩ませた私は、思わずため息をもらした。


気付けばお財布がカラでした。美威の胃がキリキリしてます。


東の国は完全独立した島国ですので、船がないと他のどの国からもたどり着けません。

北・西間は船がなくてもでかい橋経由で渡れます。瀬戸大橋みたいなものがあると思っていただければ……作者は初めて瀬戸大橋を見た時、そのでかさにびびりました。人間てすごい。すごすぎる。


次回、北の連絡船に乗る予定が……?

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