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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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魔法士と魔道具士と小さな変化

「……飛那ちゃん、ちょっと離れて」


 ベッドに腰掛けて本を読んでいたら、背中合わせにもたれかかってきた人がいた。

 プリンを食べるなら、テーブルで食べればいいのに。

 シーサーペントを追い払って、時を止める魔法を使って、目が覚めてから彼女はずっとこんな調子だ。


 私が丸一日目覚めなかったせいで、飛那ちゃんは相当心配したらしい。

 大切な人の命に神経質になってしまうのは、彼女の育ちが関係してるから仕方ないんだけど。

 離れていると不安になるらしく、かれこれ1週間以上、私のそばをうろちょろしている。

 大分マシになってきたし、気持ちも分かるんだけど、さすがにそろそろ疲れてきた。


「寄りかかられたら重いでしょ? 私は本を読みたいの」

「別にいいじゃん、私はここでプリンが食べたい」

「もう成人した大人なんだから、ベタベタ甘えないのよっ! 飛那ちゃんがそんなんだから、マルコが変な目で『やっぱり二人は……』とか言い出すんじゃないの! ひどい誤解よ! 私はノーマルなイケメンが好きなのに!」

「マルコなんか放っておけばいいのに……」

「とにかく重い! もう元気なんだからひっついて回る必要ないって言ってるでしょ?」

「はいはい……」


 飛那ちゃんは仕方なさそうに、ソファーに座り直してプリンを食べ始めた。

 私が怪我したり、倒れたりする度に、彼女はこんな風に落ち着かなくなる。

 理屈じゃなくて、ただのトラウマ的心配性なのよね。

 そもそも死にかけたのは自分のくせに、私の心配っておかしいんじゃないかしら。


 ああ、そうか。自分のせいだと思ってるから……余計なのか。

 道理で今回は長いと思った。


「……魔道具屋に行ってくる」


 パタンと本を閉じて立ち上がると、飛那ちゃんは食べかけのプリンを丸呑みした。


「じゃあ私も」

「飛那ちゃんはお留守番!」


 そう言うと、彼女は捨てられた子犬みたいな顔になってしまった。

 ああ……たまに本当に面倒な子なのよね。


「百歩譲って、私がお買い物してる間、飛那ちゃんはカフェでコーヒータイム」

「ええー……」


 しぶる彼女はそれでもついてきたので、予定通りカフェに追い出すことにした。

 買い物中もずっと側でどんより心配オーラ出されてたらたまらない。

 魔道具屋の入口をくぐったら、中にすっかり見慣れた髪の長い男がいた。

 ここでの遭遇率、高すぎる。


「……レブラス、おはよう」


 一応、飛那ちゃんを助けてくれた恩人なので、挨拶くらいはしておこうと思う。


「ああ、またここに来たのか……」


 魔道具士で薬師だというちょっと変わった男は、振り返ると小さく息をついた。

 挨拶したんだから、ため息以外を返したらどうなのか。


「2回目の寄港で、また品物が増えたんじゃないかと思って」


 2回目の寄港地、ナーズは既に通り過ぎた。

 船の修繕やら、不足しているものの積み込みやらにてんやわんやの寄港だったので、乗客はほとんど観光出来ずじまいだったのよね。

 

「そうだな、こっちの棚にはナーズ産の魔道具がいくつかあるようだ」

「おおっ、やっぱり? どれどれ……」


 少しは島に下りて見てきたものの、もの珍しいものは珍しい。

 熱心に見ていたら、レブラスが私を見下ろしながら聞いてきた。


「魔道具が、好きなのか?」

「え?」


 好きか嫌いかと言われれば、大好きだ。

 それはもう、魔道具というものの存在、便利さを知ってからは、私はその名の付くものに目がない。

 可愛いのとか、造りが凝ってて芸術品みたいな見た目のものは、特に好きだ。


「好きよ。魔法錬成学とか、魔道力学とかは本で読んだことくらいしかないんだけど。一度本格的に勉強してみたいと思ってるの。この複雑に組まれた魔道具の、一つ一つを分解していった先にある根本を想像するのが楽しいわ」

「……ほう。魔法士は魔道具に興味がないものだと思っていたが」


 力の強い魔法士ほど、魔道具を必要としない。

 魔道具は、基本的に魔力を持たない人間が使えるようにするものだからだ。

 魔法士が魔道具を軽んじるようなところがあるのは、事実だと思う。


「便利だし、みんなが使えるって点では魔法より魔道具の方が優秀よ。私も戦闘にはまず使わないけど……色々恩恵にあやかってる一人だし。魔法士は魔法が使えても、魔道具を作れる人は少ないでしょう? もったいないわよね」


 そう答えたら、レブラスは意味が分からないという顔で聞いてきた。


「もったいないとは、どういう意味だ?」

「だから、魔法士が魔道具を作ることにちゃんと協力的だったら、もっといいものが出来るんじゃないかって話」


 色んな角度から見て、魔道具士と魔法士が協力すれば、今より便利でいいものが出来ると思う。

 常々そう思ってるのだけど、魔法士はどうも魔道具士を下に見てさげすむ人達が多くて、非協力的な気がしてならない。


「……それは、俺も考えていたことがある」

「あら、はじめて気が合ったわね……」


 心から意外だったので、そう言ったのだけど。


「ああ、そうだな」


 さらに意外なことに、肯定された。

 しかも、見間違いじゃない。

 今、少し笑ったよね?


「……レブラスって、笑えたんだ?」

「……俺が? 何の話だ?」


 もしかして自覚なしですか?

 後ろでくすくす笑いはじめたのは、ルーベルだった。


「ね、ルーベル、この人一応人間だったのね? 表情筋が固まったまま機能してないのかと思ってたわ」

「ぷはっ、美威さん、やめてください……!」


 ルーベルはお腹を抱えて笑い出したけど、レブラスは苦虫を噛みつぶしたような顔になっていた。


「ルーベル……」

「はっ! すみません、レブラス様……あんまりおかしくて」


 さして悪いとも思ってない顔で謝るルーベルに、私もちょっとおかしくなってきた。


「ぷっ、ふふ……あははは、だっておかしいわよね、ルーベル」


 この子とレブラスの主従関係は、見た目より距離が近いというか、わりと気やすいものなのかもしれない。

 最初はこんな男の従者なんてかわいそうだと思ってたけど、ルーベルを見ている限り不満そうなところは全然ないし、少し観察しているとレブラスもルーベルをちゃんと気遣ってることが分かった。


 そんな主従関係もいいな、と思えるようになった分、私も最初から比べたら大分この嫌味な男に対しての見方が改善された気がする。

 まあどのみち、嫌味で無愛想で、いちいち言うことにカドがあるところは変わらないんだけど。


 レブラスは笑い合う私とルーベルを、なんとも言えない顔で眺めていた。

 ハイドロ号の魔道具屋は、私にとって結構思い出深い場所になるのだけど、それはまだまだ先の話。


成人の年齢は、国によって違うという設定の話。

東の方は男性18歳、女性16歳であることが多く、西の方に行くと男性は20歳、女性は18歳で成人と呼ぶことが多くなります。


次回、時間はすっ飛んで、ハイドロ号を下船します。

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