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没落の王女  作者: 津南 優希
第三章 その先の未来へ
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大海蛇vs傭兵

 ハイドロ号が、あの化けヘビの尻尾に押されてナナメってるのは事実だった。

 転覆するほどではないにせよ、なんとかしないとまずい。

 美威に怪我がないことを確認してから、私は甲板に身を低くして立ち上がった。 


 赤紫色のヒラヒラした尻尾の先端が、視界の斜め上、ここから一足で跳べるところに見える。

 通常なら、剣気だけで斬れる距離だ。


(問題はあの硬さなんだけどな……!)


 ウロコがついてない尻尾部分なら斬れるかもしれない。

 私は神楽の中心にある、青い宝石に魔力をこめた。

 青い冥界の炎が召喚されて、剣に宿る。

 こういうの、三度目のなんとかって言うんだっけか?


「これでどうだっ!」


 翻して横薙ぎに払った神楽から、青白い炎が疾風になって飛んだ。

 目標のヒラヒラに到達して燃え上がった瞬間、尻尾が大きくのけぞるような反応を見せた。

 巨大な水音を立ててヒラヒラが海中に戻ると、この10デッキにまで水しぶきが飛んでくる。


「……効いたんじゃないか?」

「うん、効いてた。炎押しで、いけるかも」


 支えを失ってぐらんぐらん揺れている甲板で、私と美威は手応えを感じていた。

 それにしても他の傭兵達は一体何しに出て来たんだか。もうほとんどが戦線離脱している。実質、戦闘要員は私と美威の二人だけか?

 せめてハイドロ号の盾がもう一度展開してくれれば、船が傷つくことを心配しなくていいのに。

 そんなことを考えていたら、船内扉の向こうに見慣れた男が手を振っているのが見えた。


「やっぱりいた! 何やってんの二人とも?!」


 揺れる甲板に立っている(浮いている)美威と私に向かって叫んだのは、マルコだった。

 何しに出てきた、あいつ。


「船ん中戻ってろ! 落ちるぞ!」

「いやいや! それは俺の台詞じゃないかな?! 窓から飛那姫ちゃんが見えた気がして、まさかと思って出てきたんだけど……あの、もしかして戦ってます?」

「あのヘビにエサやりに来たように見えるか?!」

「むしろエサになりに来たように見えますが?」

「……面白くない冗談だ」


 馬鹿としゃべってるヒマはない。

 あいつは放置でいいだろう。


「美威、ちょっと試してくる。さっきのでいいから、落ちたら足場頼むな」

「了解、気をつけて」


 もう一度神楽に青い炎を燃え上がらせると、私はデッキの上から可能な限り高く飛んで化けヘビの頭上に出た。

 さすがに気付かれてたらしく、赤紫の目が私の姿を追ってきた。

 空中では方向転換出来ないので、開いて向かってくる口は避けようがないのだけど。


「これでも食ってろ!!」


 重力に負けて落下が始まったと同時に、冥界の炎をまとった剣を振り下ろす。

 青い炎は化けヘビの口の中めがけて落ちていくと、着弾して一気に燃え上がった。

 耳を塞ぎたくなるような甲高い叫び声をあげて、化けヘビが首をよじった。


(よっしゃ! 炎は効いてる!!)


 下を確認すると、美威が海面を凍らせて足場を作り上げるところだった。

 勢い余って氷ごと沈みかけたけど、なんとか海中に落ちずに着地に成功する。

 揺れる海面から逃げ出すように、私はすぐに船に跳んで戻った。


 後ろから攻撃の気配を感じて跳びながら振り向いたら、ヒラヒラ尻尾が私を追いかけてきていた。

 神楽を構えて臨戦態勢を取ったけど、尻尾は私に届く前に赤い炎に包まれた。


「花火! 花火! もういっちょオマケ花火っ!!」


 燃え上がるときの爆発音から名付けたらしい、美威のふざけた火炎系魔法が尻尾を追撃中だった。

 10デッキに戻ってきた私は、ちょっとやる気になっている相棒にため息をもらす。


「緊迫感ないなぁ……お前のオリジナル魔法」

「言いやすいからいいのよ!」

「もうちょっと強力なの食らわせられないか? 頭に叩き込む隙が欲しい」

「じゃあ……大花火にしとく?」

「名前はなんでもいいから」

「了解」


 ちらりと後ろを見たら、マルコはまだ扉のところにいた。

 魂がぬけたようにこっちを見てるけど、早く奥に引っ込んだ方がいいんじゃないだろうか。


「……ん?」


 マルコの後ろから、知らない男が一人、身を乗り出して甲板に出てきた。

 新しい傭兵か?


「んー……」


 いつの間にか、隣で唸っていた美威の周りに圧縮された魔力の空気層が出来ていた。

 これ、触れると痛いヤツだ。

 私は一歩退(しりぞ)く。


「美威、頭狙って燃やせ。引導は私が渡してやる」

「りょうかーい……」

「近いけど、全力で叩くからな。衝撃波に備えろ」

「オッケー! じゃあ行きます!」


 美威が、標的目掛けて圧縮した魔力を解放した。


「大花火!!」


 巨大な火炎放射器でも浴びせるかのような、紅蓮の炎が化けヘビの頭を包み込んだ。

 炎に抵抗しようと頭を振る化けヘビに追撃するのは、私の役目だ。

 さっきと同じように高く跳躍して、神楽にありったけの魔力を込める。

 バチバチと火花を散らす炎が、青白い軌跡を残して膨れあがる。


「絶界の盾!」


 化けヘビと船の間に、美威が横長の盾を展開するのが見えた。

 船体の上下はカバー出来てないものの、まあ、及第点だろう。


「今度こそ、海に還れよっ……!!」


 ふと、今日は守護魔法がかかってないことを思い出した。

 いや、もう今更だろう。

 美威の炎もまだ燃えていたけど、私は熱を気にせず突っ込んだ。

 燃えさかる神楽を化けヘビの頭に全力で振り下ろす。


 青い炎は頭頂部に到達したと同時に爆燃した。

 剣先が突き刺さった箇所から、ウロコが剥がれ落ちていくのが見て取れた。

 傷口からは、濃い紫色の血が噴き出してくる。


(げっ、血が紫……!)

 

 頭を蹴って船に戻ろうとしたところで、吹き出してきた返り血を浴びてしまい、気持ち悪い気分になる。

 次の瞬間、予想していなかったことが起きた。


(……あれ?)


 なんだか、視界が真っ白になったのだ。

 化けヘビの頭を蹴って飛んだ気がするけれど、そこから先が白い。


「飛那ちゃん……!!」


 悲鳴の様な、美威の声が遠くで聞こえた気がした。


船には有事に備えて傭兵や医師、看護師が乗り込んでいます。

盾のない客船は、危ない海域は通らないように航行します。それでも沈むときは沈みます。

ハイドロ号もラグフィニア海域を航行するのは初でした。


次回は、ピンチを切り抜け……またピンチです。

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