プロローグ ~王女生誕~
もうずっと前から、あなたを待っていた気がする。
この乾いた胸に落ちてきた、白い雪の一片のように。
儚くも消えそうで、触れれば壊れそうで。
今はまだもろい存在を、きっと待ち焦がれていた。
恐れを知らぬ曇りなき瞳が、静かに私の姿を映していた。
産まれたばかりの赤子だというのに、確かに目が合った。
(これは、奇跡に近い誕生)
その内に宿る、気高い魂。
私と同質の深淵を宿した、希有な存在。
この子の父である国王ですら、まだ気付いてはいない――。
「まるでお人形のようですね」
后付きの侍女達がため息をもらす。
赤子とは思えぬほど、見目良い姫だった。
艶のある明るい薄茶の髪は、伸ばせばどこまでも陽に映えるだろう。
長いまつげも、花のつぼみのような桜色の唇も。
生きている人のものとも思えぬほど、透き通る白い肌も。
「本当にお可愛らしい姫様ですわ」
王女誕生の報せに駆けつけた人は、皆口々に彼女を褒め称えた。
まごうことなき、至宝の美しさと。
真に賞賛すべきは、その優れた容姿ではないというのに――。
完璧な容貌に隠された、彼女の本質。
今、その輝きに気付いているのは、私だけ。
太陽のごとく強い、魂の光。
秘められた膨大な魔力が謳う、天賦の才。
それこそが、彼女の希少さであり、美しさであるのだ。
見届けなければ。その成長の行方を。
何に代えても守らねば。その本質を。
そう自らに誓って、私は冷えた唇にかすかな笑みを浮かべた。
彼女は特別に、光を浴びて輝いていればいい。
皆に愛され、可愛がられ、育つといい。
やがて開く花が、私の手の中へ落ちてくるその時まで。
誰にも摘ませない。
彼女は私だけのもの。
私だけの、王女なのだから――。
ようこそ『没落の王女』へ。ご縁がありまして大変うれしいです。
この第一章は、主人公子供時代のお話です。
続く第二章は、同じく子供時代。旅の相棒との出会い~旅立ちまで。
メインの章は第三章になります。
女子二人を中心としたライトなファンタジーで、終盤になると恋愛比率多めに。
章ごとに雰囲気が違うので、あらかじめご了承くださいませ。