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【完結】POD Enemy  作者: D-delta
エピソード1 強く生きる雛
2/110

第二話 POD Enemy

2018/11/11 『PODE』の記録内容を変えてみました。

前より読みやすくなっていると思います。

なにか感想や指摘があったら気軽にください。

 サハリン上空。

 晴天で天気の良い空の中を一機の大型輸送ヘリが飛んでいた。その大型輸送ヘリは日本のもので、CH-47チヌークというものだ。

 大型輸送ヘリには自衛隊対特殊災害チームに属する自衛官が乗っていた。そしてこの大型輸送ヘリには多数の武器弾薬や食糧と医薬品が積んである。今は〝敵〟の巣窟と化したサハリンに取り残された人間を救助と保護をするために使う物資だ。


「今一度作戦を確認する。俺達自衛隊はこれからサハリンに向かい、各都市で救助活動を行うと共に『POD Enemy』通称『PODE』の侵攻を阻止する。また、都市一つの救助活動終了を一つの区切りとして北海道の丘珠駐屯地に各種補給と救助者を降ろしに戻る。後は救助活動、各種補給と救助者を降ろすの繰り返しだ。把握出来たな?」


 自衛隊対特殊災害チームの隊長――ゼラニウム1は作戦の確認を終え、隊員それぞれに把握出来たかを訊く。

 そして一番早く「把握出来ました」と返事をしたのは隊長の話を真面目に聞いていたゼラニウム4だ。その他のゼラニウムはゼラニウム4より遅く返事を返す。


「うむ、後少しで作戦地域に入る。もうここは地獄だ、丘珠駐屯地に戻るまで油断するなよ?」


 隊長の言うことに対してゼラニウムたちは「了解」と返した。

 そしてみんなそれぞれ準備を開始する。

 89式小銃の点検をする者もいれば、今から既にガスマスクを付ける者もいた。このガスマスクは敵である『PODE』が有害物質を体内に収めた場合のための物だ。

 周りが準備をしている中でゼラニウム4は既に89式小銃を含む全ての武器のチェックを終え、ガスマスクを付けていた。


「しかし奴ら、本当に身体を再生しちまうんだってな……勝てるのか?」

「奴らのコピーも忘れるなよ。連中『PODE』は地球外生命体なんだからよ」

「畜生、人類が勝てるか不安だぜ」


 ゼラニウム6とゼラニウム7が話をしている。

 その話しをしている隣でゼラニウム4は持ってきたスマートフォンで『PODE』のデータと記録映像を見ていた。

――敵を知っておくのも一つの武器となる。

 そういう考えの下でゼラニウム4はデータを見ていた。


「全て噂通り、情報通りか」


 ゼラニウム4は小声で呟く。

 ゼラニウム4の見ているデータには『PODE』のことに関して詳しく文章が書かれていた。そしてその文章の説明を裏付けるように記録映像がある。

 書かれている文章と記録映像を合わせて、内容を簡潔にするとこうなる。


 この地球外生命体『PODE』は二ヶ月前に北極に落ちたPOD(最初に発見したのがアメリカのため、英語表記)から現れたスライム状の生物である。

 体色は緑一色で見た目から単細胞生物のようにも見えるが、核細胞二つから成る多細胞生物。

 この生物は極めて攻撃性が高いことから敵性があると判断、以後この生物を『POD Enemy』と呼称。略称は『PODE』とする。

 極めて高い攻撃性で有機物無機物関係なく襲って摂取し、消化する。

 摂取された生物または物質は『PODE』の赤い核細胞『ハルバード細胞』によってコピーされ、構造、姿形、特徴が摂取したものとそっくり同じになる。しかし色素や材質は同じにならないため、完全なコピーはされない。このことによって大きさが変わっても防御力は変わらないため、個人火器による対処は十分に可能。

 また『シールド細胞』は『PODE』の身体を保つために使われており、この核細胞を破壊された場合は死に至る。

 オスとメスがあり、生殖は一日に一回のペースで行う。生殖をしたその日の内に子を産み、その生殖スピードはかなり速い。また産んだ子には親のコピー情報が受け継がれない。


「コピー能力を司る赤い核細胞を『ハルバード細胞』と自己再生能力を司る青い核細胞を『シールド細胞』とする……なるほど最強の矛と最強の盾という訳か。しかも生殖スピードのこの速さ。北極近くの国が滅び、ロシア軍とアメリカ軍が苦戦したのも頷ける。しかし産んだ子にコピー情報が引き継がれないのならまだ勝機はあるはず」


 データの文章と実際の記録映像を交互に見て、ぶつぶつとゼラニウム4は呟いた。

 大型輸送ヘリは順調に最初に救助活動を行う都市であるホルムスクに近付きつつあった。


「ん……あれは!」


 しかし順調なのはここまでだった。

 ゼラニウム12が慌てて気付いたように大声で報告した。


「SAM(地対空ミサイル)です!! こっちに飛んできますっ!!」


 ゼラニウム12の大声で一気にざわめき始める。同時に大型輸送ヘリに搭載されたミサイル警報装置が騒ぎ始めた。

 ミサイルが高速で向かってくる。これを操縦だけで回避するのはとてつもなく難しい。


「フレア!」


 パイロットがそう叫ぶと大型輸送ヘリからフレアが放出された。フレアはミサイルをヘリに当てないようにするための囮だ。

 ミサイルはフレアに気を引かれるようにして大型輸送ヘリから離れた。

 そして隊長のゼラニウム1はその一瞬を見た。形はロシアのミサイルだが、しかしその色は緑色で明らかに『PODE』の体色だったのだ。


「まさか『PODE』がロシアの地対空ミサイルをコピーしたというのか!?」


 変な焦りがゼラニウム1に過る。

 もしもサハリンにある全ての地対空ミサイルがコピーされていたら、と。

 そのような状況に陥っているのならばサハリンの上空は既に『PODE』の防空網が完成しているということになる。


「もう一発来ます!!」


 別方向から飛んでくるミサイルを見つけたゼラニウム8が叫んだ。ミサイルはゼラニウムたちの乗る大型輸送ヘリに真っ直ぐ接近してくる。

 ヘリのパイロットもゼラニウムたちも慌てている。さきほどのミサイルは回避出来たが、次のミサイルは回避出来るか分からない。フレアの効果で確実に避けられるという訳ではない。その上、別方向から来るということは地上のあちこちに地対空ミサイルがあるということだ。


「くそ、俺たちは知らぬ間に入って行けない領域に入ってしまったみたいだな」

「先日衛星で上から確認した時は地対空ミサイルなんて無かったってのによ!」

「ロシアの地対空ミサイルを取り込んだ個体がここまで移動してきたっていうのか!?」


 騒ぎ始めるゼラニウムたちを余所にゼラニウム4は落ち着いてヘリの窓から他にミサイルが来ていないか見つめる。

 ゼラニウム4の見つめる先にはミサイルが大型輸送ヘリに飛んでくる姿があった。


「隊長、十一時方向からもミサイルの接近を確認」


 ゼラニウム4が隊長に報告すると同時に他のゼラニウムからも報告が入る。


「六時方向からも来ます!!」

「二時方向からミサイル!」


 一気に飛び込んでくる報告と鳴りっぱなしのミサイル警報装置に隊長は絶望というものを覚えた。いくらフレアがあろうとこれでは回避は不可能だ。

 その上パラシュートを持って来ていない始末。脱出することも不可能だ。

 ミサイルが接近してくる中、大型輸送ヘリは足掻くようにフレアを放出。二発目のミサイルはフレアにおびき寄せられるように外れて行く。

 立て続けにフレアを放出。三発目と四発目のミサイルの回避を成功する。


「フレア! フレア!!」


 ヘリのパイロットが叫ぶ。大型輸送ヘリからフレアが放出される。

 しかし五発目は違った。フレアのタイミングが悪かったのか、ミサイルはフレアを無視して真っ直ぐ大型輸送ヘリに向かって来たのだ。

 標的を見定めているミサイルは大型輸送ヘリに衝突し、爆発を起こした。

 ヘリのローターが弾け飛び、あらぬ方向へと去っていく。飛ぶことが出来なくなったヘリはホルムスクの上空でその機体をクルクルと回し、操縦しているパイロットを空に飛ばした。


「全員なにかに掴まれ! 投げ飛ばされるな!!」


 隊長の叫び声が落ち行く機内で響き渡る。

 ゼラニウムたちは近くにあるものに掴まるが、一人、また一人と空に飛ばされていく。飛ばされた人間の生存確率はゼロに等しい。


「うあぁぁぁぁ!!」


 ゼラニウム2が必死に掴まっているゼラニウム4の目の前を通って、空に飛ばされていく。


「助けられないな」


 ゼラニウム4は冷静に状況を見て述べた。

 今機内に残っているのはゼラニウム4を含んだ四人だけだ。


「地上に激突するまで後少しか」


 掴まりながら外を覗いたゼラニウム4は墜落した時のことを考えて身構え、生きる決意を固めた。

 他のゼラニウムはパニック状態に陥っており、決意を固めるどころではない。

 そして地表とヘリは激突した。

 その身から黒煙を上げて、炎で燃え上がらせる大型輸送ヘリ。

 生存者がいるようにはとても見えないそのヘリから一人のゼラニウムが炎の中から現れる。


「俺だけか」


 唯一生きていたのは、ただ一人生きる決意をしたゼラニウム4だ。

 彼は悲しむことも、怒りに燃えることもなく、生きる決意を固める。そしてゼラニウムたちの死体を漁り、武器弾薬や使える物全てを取り出した。

 他のゼラニウムたちが大切にしている物も含めて、取り出せた物をポケットに入れる。もちろんゼラニウム4は死んでいった各々の大切にしていた物を全て遺族に渡すつもりでいた。


「生きる」


 その一言と共にゼラニウム4――最後に残ったゼラニウムはガスマスクをきちんと被り直し、9mm拳銃――P9をレッグホルスターに戻し、89式小銃の安全装置を解除した。

 周りを警戒しながらこのホルムスクの街に足を着ける。

 自らが生きるため、死んだ連中の分まで生きるため、残っている住人を救うため、ゼラニウム4はその足を進めて行く。


「仕事を開始」


 慎重な足取りで進んでいくゼラニウム4はガスマスク越しにホルムスクの街を見つめた。

 その目はナイフのように鋭く、純粋な殺意を放っていた。


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