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2-85 集う4 ~王宮戦士~

「お、王宮戦士? 君が王宮戦士なの!?」

「うん。そう」

「……っていうか、さっきの決めポーズは何?」

「正義のヒーローが名乗る時は、カッコイイポーズを決めなきゃいけないって、じいちゃんが…」

「お爺ちゃん? ヒーロー好きなの?」

「ヘンかナ?」

「ど……どうだろう………」

 正直、疲れ果てていて頭が回らない。

 確かに変身ポーズと決めポーズは、日本のヒーローなら必須だが、

 アメリカのヒーローには必ずしも必要ではないし……

 いや、大変興味深い話だが、今はそんな話をしている場合では無いような……

「ところで……本当に君、王宮戦士?」

「ホントだよ! この制服を見ても分からない? ……あ、そうか。おじさん、ガングビトだっけ。

 困ったなぁ。どうしたら信じてもらえるの?」

「い、いや、信じてないわけじゃないんだよ。こんなに早く来てくれるとは思わなくて、驚いていただけなんだ」

「なんだ、そうか。よかった」

 正直、君が王宮戦士じゃなくても構わない。悪魔でもニャルラトホテプでも全然オッケーだ。

 ハナナちゃんとワシリーサちゃんを助けてくれるなら、なんだっていい。

 ハナナちゃんの側にいるダメージ持ちのシカクに動きはない。だけど絶対警戒しているはずだ。

 では無傷のシカクは? どこだ? どこへ行った? どこかに隠れているのか?

 立ち上がって様子を見ようとするが、左足首が激しく痛み、立ち上がれない。

 どうやら捻挫らしい。骨折でない事がせめてもの救いか。

「おじさん、ケガしてるの?」

「あ、ああ、そうだよ。他にもケガをした女の子が二人いる。一人はこの子。もう一人はあのシカクの側で、重症だ」

「そりゃ、大変だ」

「君、助けて…くれないか」

「ゴメン、おじさん。治すのは無理。ボクに近づくと、みんな死んじゃうから」

 ボクッ子なのか少年なのか分からないが、唐突に中2病みたいな事を言い出してきた。

「あ、そうだ。ボク、ソーマを持ってるんだ」

「ソーマ?」

「飲むとどんな怪我でも治しちゃう薬。一人分しか無いけど、おじさんにあげる」

 そう言うと、王宮戦士君は左手で、小さな巾着を投げてよこす。

 神社で売られるお守りのような形で、表に付けられた名札には、"御神酒"と書かれていた。

 えっ! "御神酒"と書いて"ソーマ"と読むのか?

 確かにソーマは、インド神話か何かに出てくる神の酒だか飲み物だかの名前だけど…

 いや、今は考えてる場合じゃない。

「ありがとう、王宮戦士く……あ、危ない! 後ろだ!」

 少年の背後に幾本ものレーザー光線が当てられていた。しかしダメージ持ちはハナナちゃんの側でジッとしたままだ。

 赤いレーザー線は、森の奧から発せられていた。狙っているのは行方不明のもう一体!?

 でも、どうしてあんな遠くから狙う? あの時の衝撃音は何だ? 何が起きたんだ?

「あれ? まだ動くのか。へぇ、頑丈なんだな…」

 そう言うと、少年は赤いレーザーの先を見て、嬉しそうに微笑んだ。

 もしかしてあの時シカクが消えたのは、少年が吹き飛ばした? キックか体当たりで、シカクを森まで吹き飛ばしたのか?

「大丈夫だよ、おじさん。ボクは壊すのが大得意なんだ」

 少年は大剣を大地に突き立てると、レーザー線に向けて包帯まみれの右腕をかざす。

 まさか……腐食光球を、素手で受け止める気か?

「よせ! よすんだ!! 腐って死んじま……」

 手遅れだった。腐食光球はマシンガンの弾丸のように、少年に襲いかかった!

 まばゆい光が次々と迫り、目が眩ませる。しかし、何発喰らっても少年は倒れない。

 一体どうなってる? バリアを発生させて光球を弾いているのか?

 ……逆だった。

 少年の右腕は、次々に飛んでくる腐食光球を吸収していたのだ。

 しかし、光球の弾幕が途切れるや否や、物理攻撃形態のダメージ持ちが襲いかかってくる。

 不意打ちは完璧で、少年に大剣を装備する余裕を与えなかった。

 だから少年は、突っ込んできたシカクをそのまま右腕で受け止めた。文字通り、軽々とだ。

 シカクは暴れようともがくが、少年の右腕に掴まれ、身動きが取れない。

 よく見ると、少年は掴んでいなかった。右手をシカクにめり込ませていたのだ! 巨大蛙に壊せなかった装甲を、少年は素手で貫いたのだ!?

「あははは♪ 見てよおじさん♪ でっかいゲンコツでしょ!」

 琴線に響いたのか、右腕をブンブン振り回して、子供らしくはしゃぐ王宮戦士君。まるでシカクがスポンジのオモチャのようだ。

 その姿は微笑ましくすらあり、見ている私も、知らず知らずに笑顔になっていた。かなり引きつってはいたが。

 そう言えば、ハナナちゃんが言ってたっけ。王宮戦士は一騎当千の化け物ぞろいって。

 マジだった………

「ところで……その剣は使わないの?」

「今日は止めとくよ。大切に使わないとすぐに折れちゃうから。代わりに面白いオモチャを拾ったし〜〜ねっと!」

 少年は突然、右腕のシカクを横殴りに振り回す。


 ガキャン!


 凄まじい衝撃音に私は肝を冷やした。いつの間にやら、行方不明のもう一体がコッソリ近づいていたのだ。

「コイツらはボクに任せて。おじさんは女の子を助けてあげてよ」

 少年はそう言い残すと、右腕に一体目を"装備"したまま、はじき飛ばした二体目を追い掛け、森へ向かった。


 静かになった。

 森の遠くから金属が激しくぶつかり合う音こそ聞こえるものの、それ以外は風の音しか聞こえない。

 怪我人は三人。対して"御神酒"は一人分しかない。誰に使えばいい?

 私は一番軽症だが、捻挫は致命的だ。五メートル程度しか離れていないハナナちゃんが、あまりにも遠く見える。私が飲めば、すぐにでもハナナちゃんの元に駆けつけられるだろう。でもそれだけだ、危機的状況が一段階前に戻るだけで、まったく意味が無い。

 そういえば、ワシリーサちゃんは大丈夫か? 赤いレーザー線を避けるので精一杯で、確かめている暇がなかった。

 もしも危険な状態なら、彼女に飲ませるしかない!

「リーサちゃん! リーサちゃん! 起きてくれ!」

 声を掛けながら肩を揺り動かす。するとワシリーサちゃんは、うめき声を上げながらも薄目を開ける。

「リーサちゃん! 聞こえるか? 私が分かるか?」

「おと……さ、ま?」

 よかった! 意識がある!

「どうなって…ますの? "ライア"…は?」

「今はゆっくり説明していられない。立てるかい?」

「いえ……ワタクシ、生まれつき歩けませんの」

「そうか。じゃあ、背中におぶりたいけど、掴まっていられるかい?」

「えっと…えっと……はい。ちゃんと動きます。きっと大丈夫です」

「よし! じゃあ、行こう! ハナナちゃんの側へ!」

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