表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/190

2-83 集う4 ~満身創痍~

 そ…そんな……まさか……二体目が落ちてくる?

 動けなくなった一体目が、救援要請をしたのか?

 だとしたら、何処に落ちてくる?

 ハナナちゃんを狙った一体目は、甲羅岩に直撃した。ほんの少し前まで私達がいた場所だった。

 恐らく、長らく留まっていたせいで、衛星軌道上から場所を特定されたのだ。

 しかし、時間的な誤差があったため、私達が移動した後に落下し、甲羅岩を粉砕したのだろう。

 恐らくシカク1号は、救援要請の際に正確な位置情報も伝えているだろう。命中精度は前回よりも高いと思われる。

 しかもワシリーサちゃんは、シカクを押し潰すのに夢中で、ずっと同じ場所に留まっている。軌道上から見ればちょうどいい的だ。

 さしもの巨大蛙も、シカク2号の直撃を喰らえば、甲羅岩のように粉砕されるのではないか?

 まずい! とにかくワシリーサちゃんを移動させなくては!

「逃げろ!! 逃げろワシリーサちゃん!!」

 大声を張り上げるが、反応が無い。ダメだ! まるで気付いてもらえない。

 近づけば聞こえるか? しかし倒木が邪魔で時間がかかる。モタモタしていればアウトだ。

 どうする? どうすればいい? どうやって連絡を取れば……

 そ、そうだ! "ライ"を使えば! あの小さなカエルは無線機代わりだ。呼びかければ気付いてくれるかもしれない。

 あれ? あれ? あれ? そう言えば、"ライ"を何処へ閉まった?

 そ、そうだ! シャツの胸ポケットだ! シャツは低体温症対策で毛布代わりに掛けていた。

 しかし、シャツがない。巨大蛙のプレスアタックで生じた爆風が、吹き飛ばしてしまったのだ。

 慌ててあちこちを見回すと、5メートルほど離れた木の枝にかかっていた。

 必死に走ってシャツを回収。胸ポケットには…………あった! 良かった! 落ちてなかった!

「逃げろ! ワシリーサちゃん、逃げろ! 上から来るぞ! 急いで逃げ…」

 突然、何かが横殴りに襲いかかり、私は意識を失った。


 はっ!?

 我に返った私は、急いで起き上がる。体中が痛い。

 今のは何だ? 爆風か? 私はどれだけ気絶していた?

 周囲を見渡すと、森の中に一本道があり、私は道の真ん中に倒れていた。

 どこだここは!? 爆風で飛ばされてきたのか? だとしたら、道のどっちから飛ばされてきた?

「シュウ君! シュウ君! 聞こえているな? 返事をしてくれ! エコーちゃんの場所を知りたい!」

 そう言って耳を澄ます。どこからか重低音が聞こえる。まるで岩と岩がぶつかり合っているような……。何の音だ?

 更に耳を澄ましていると、道の片方から小さく「オッサン、ここだ!」と、女の子の声がした。

 ありったけの力を絞り出して、声の方向へ走り出す。徐々に重低音も大きくなっていく。

 不安で不安で仕方ない。

 ハナナちゃん、ワシリーサちゃん! みんな無事でいてくれ!

 突然視界が広がった。爆心地へ戻ったのだ。

 だが、そこに現れた光景は……何と言えばいいのだろう。例えるならリンチだった。

 二体のシカクが双方から、巨大蛙をなぶりものにしていた。

 一体は無傷で、恐らくこちらが救援に来た二つ目のシカク。

 そしてもう一体を見て愕然とする。

 あちこち破損しているが、機敏に動いていた。きっと最初のヤツだ。

 なんてこった。巨大蛙をもってしても、倒せなかったのか!?

 しかもシカクは、もう四角ではなかった。形状を変化させていたのだ。

 六つの頂点には、大小様々な鉄球が生えていて、巨大蛙に殴りかかっていた。

 シカクの物理攻撃形態……。

 きっとあの攻撃で、ハナナちゃんに致命傷を与えたのだ。

「オッサン! オッサン!! 呆けてんじゃねぇよ! カエル娘は後回しだ!! 娘っ子の無事を確認するんだよっ!!」

 そ、そうだよ! ハナナちゃん!

 ワシリーサちゃんもかなりヤバイが、巨大蛙は重装甲だ。すぐにはやられない。きっと… 多分…

 しかし、無防備のハナナちゃんは、息が詰まるだけでアウトだ。生き埋めになってたらヤバイ!

 改めて周りを見る。

 吹き飛ばされるまでいたはずの場所だが、二体目の襲来で形が変わっている。

「シュウ君! 声! エコーちゃんを叫ばせてっ!」

「ここだぁっ!! 早く来い! 急げよオッサン! 急げ! 急げ! 急げ!」

 声を頼りに枝葉をどけ、土砂を掘る。幸いにもすぐにハナナちゃんは見つかった。

 顔には上着を被せたままで、エコーちゃんも一緒にいたおかげだ。よかった。本当によかった。

 しかし身体全体を掘り出している余裕は無い。

「もしもの時はハナナちゃんを回復してほしい。頼んだよ、エコーちゃん!」


 さて、どうする?

 どうやってワシリーサちゃんを助ける?

 シカクが攻撃を繰り返している中、迂闊に近づけば、巻き込まれて無駄に死ぬ。

 しかし今のところ、私を攻撃する意思は無いようだ。それを強みに出来ないか?

 例えば、シカクをおびき寄せれば、時間稼ぎは出来るだろう。でも、どうやっておびき寄せる? 時間を稼いだ後どうする?

 王宮戦士が来るという、夜明けまで踏ん張れるか? 無理だよな。

 ダメだ。今の状況では、円形の広場の端から眺める事しかできない。

 状況が変化する何かを待つしか………

 その変化が訪れた。

 巨大蛙から何かが飛び出し、私の目の前に落ちてきたのだ。

 それは……満身創痍の"ライア"だった。あちこちがひび割れており、後ろ足は片方無くなっていた。

 しかし、背中にワシリーサちゃんはいなかった。

「ラ…"ライア"……、リーサちゃん……は?」

 恐る恐る尋ねるが、返事はない。石像だから当然だ。でも、今の"ライア"は、何らかの意思を持っているように見えた。

 必死に、必死に、私に近づこうともがいているように見えた。

 だけど………あともう少しというところで、死んだ動かなくなり、細かいひび割れが体中を覆い、粉々に砕け……

 中からワシリーサちゃんが現れた。

「リ、リーサちゃん!?」

 慌てて抱き起こすが、気を失っているようだった。

 どうやら"ライア"は、脱出ポッドの役割を果たしていたようだ。

 それは機械的な自動制御だったのだろう。だけど私には、"ライア"が意思を持っていたように感じられた。

「ご主人様を……お願いします……」

 そんな風に言われたような気がした。

 だけど"ライア"。本当にゴメン。最後まで頑張るつもりだけど、約束は出来ないよ。


 二体のシカクが、ジッと私達を見ていた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ