2-83 集う4 ~満身創痍~
そ…そんな……まさか……二体目が落ちてくる?
動けなくなった一体目が、救援要請をしたのか?
だとしたら、何処に落ちてくる?
ハナナちゃんを狙った一体目は、甲羅岩に直撃した。ほんの少し前まで私達がいた場所だった。
恐らく、長らく留まっていたせいで、衛星軌道上から場所を特定されたのだ。
しかし、時間的な誤差があったため、私達が移動した後に落下し、甲羅岩を粉砕したのだろう。
恐らくシカク1号は、救援要請の際に正確な位置情報も伝えているだろう。命中精度は前回よりも高いと思われる。
しかもワシリーサちゃんは、シカクを押し潰すのに夢中で、ずっと同じ場所に留まっている。軌道上から見ればちょうどいい的だ。
さしもの巨大蛙も、シカク2号の直撃を喰らえば、甲羅岩のように粉砕されるのではないか?
まずい! とにかくワシリーサちゃんを移動させなくては!
「逃げろ!! 逃げろワシリーサちゃん!!」
大声を張り上げるが、反応が無い。ダメだ! まるで気付いてもらえない。
近づけば聞こえるか? しかし倒木が邪魔で時間がかかる。モタモタしていればアウトだ。
どうする? どうすればいい? どうやって連絡を取れば……
そ、そうだ! "ライ"を使えば! あの小さなカエルは無線機代わりだ。呼びかければ気付いてくれるかもしれない。
あれ? あれ? あれ? そう言えば、"ライ"を何処へ閉まった?
そ、そうだ! シャツの胸ポケットだ! シャツは低体温症対策で毛布代わりに掛けていた。
しかし、シャツがない。巨大蛙のプレスアタックで生じた爆風が、吹き飛ばしてしまったのだ。
慌ててあちこちを見回すと、5メートルほど離れた木の枝にかかっていた。
必死に走ってシャツを回収。胸ポケットには…………あった! 良かった! 落ちてなかった!
「逃げろ! ワシリーサちゃん、逃げろ! 上から来るぞ! 急いで逃げ…」
突然、何かが横殴りに襲いかかり、私は意識を失った。
はっ!?
我に返った私は、急いで起き上がる。体中が痛い。
今のは何だ? 爆風か? 私はどれだけ気絶していた?
周囲を見渡すと、森の中に一本道があり、私は道の真ん中に倒れていた。
どこだここは!? 爆風で飛ばされてきたのか? だとしたら、道のどっちから飛ばされてきた?
「シュウ君! シュウ君! 聞こえているな? 返事をしてくれ! エコーちゃんの場所を知りたい!」
そう言って耳を澄ます。どこからか重低音が聞こえる。まるで岩と岩がぶつかり合っているような……。何の音だ?
更に耳を澄ましていると、道の片方から小さく「オッサン、ここだ!」と、女の子の声がした。
ありったけの力を絞り出して、声の方向へ走り出す。徐々に重低音も大きくなっていく。
不安で不安で仕方ない。
ハナナちゃん、ワシリーサちゃん! みんな無事でいてくれ!
突然視界が広がった。爆心地へ戻ったのだ。
だが、そこに現れた光景は……何と言えばいいのだろう。例えるならリンチだった。
二体のシカクが双方から、巨大蛙をなぶりものにしていた。
一体は無傷で、恐らくこちらが救援に来た二つ目のシカク。
そしてもう一体を見て愕然とする。
あちこち破損しているが、機敏に動いていた。きっと最初のヤツだ。
なんてこった。巨大蛙をもってしても、倒せなかったのか!?
しかもシカクは、もう四角ではなかった。形状を変化させていたのだ。
六つの頂点には、大小様々な鉄球が生えていて、巨大蛙に殴りかかっていた。
シカクの物理攻撃形態……。
きっとあの攻撃で、ハナナちゃんに致命傷を与えたのだ。
「オッサン! オッサン!! 呆けてんじゃねぇよ! カエル娘は後回しだ!! 娘っ子の無事を確認するんだよっ!!」
そ、そうだよ! ハナナちゃん!
ワシリーサちゃんもかなりヤバイが、巨大蛙は重装甲だ。すぐにはやられない。きっと… 多分…
しかし、無防備のハナナちゃんは、息が詰まるだけでアウトだ。生き埋めになってたらヤバイ!
改めて周りを見る。
吹き飛ばされるまでいたはずの場所だが、二体目の襲来で形が変わっている。
「シュウ君! 声! エコーちゃんを叫ばせてっ!」
「ここだぁっ!! 早く来い! 急げよオッサン! 急げ! 急げ! 急げ!」
声を頼りに枝葉をどけ、土砂を掘る。幸いにもすぐにハナナちゃんは見つかった。
顔には上着を被せたままで、エコーちゃんも一緒にいたおかげだ。よかった。本当によかった。
しかし身体全体を掘り出している余裕は無い。
「もしもの時はハナナちゃんを回復してほしい。頼んだよ、エコーちゃん!」
さて、どうする?
どうやってワシリーサちゃんを助ける?
シカクが攻撃を繰り返している中、迂闊に近づけば、巻き込まれて無駄に死ぬ。
しかし今のところ、私を攻撃する意思は無いようだ。それを強みに出来ないか?
例えば、シカクをおびき寄せれば、時間稼ぎは出来るだろう。でも、どうやっておびき寄せる? 時間を稼いだ後どうする?
王宮戦士が来るという、夜明けまで踏ん張れるか? 無理だよな。
ダメだ。今の状況では、円形の広場の端から眺める事しかできない。
状況が変化する何かを待つしか………
その変化が訪れた。
巨大蛙から何かが飛び出し、私の目の前に落ちてきたのだ。
それは……満身創痍の"ライア"だった。あちこちがひび割れており、後ろ足は片方無くなっていた。
しかし、背中にワシリーサちゃんはいなかった。
「ラ…"ライア"……、リーサちゃん……は?」
恐る恐る尋ねるが、返事はない。石像だから当然だ。でも、今の"ライア"は、何らかの意思を持っているように見えた。
必死に、必死に、私に近づこうともがいているように見えた。
だけど………あともう少しというところで、死んだ動かなくなり、細かいひび割れが体中を覆い、粉々に砕け……
中からワシリーサちゃんが現れた。
「リ、リーサちゃん!?」
慌てて抱き起こすが、気を失っているようだった。
どうやら"ライア"は、脱出ポッドの役割を果たしていたようだ。
それは機械的な自動制御だったのだろう。だけど私には、"ライア"が意思を持っていたように感じられた。
「ご主人様を……お願いします……」
そんな風に言われたような気がした。
だけど"ライア"。本当にゴメン。最後まで頑張るつもりだけど、約束は出来ないよ。
二体のシカクが、ジッと私達を見ていた……