2-80 集う4 ~因縁~
夜も更けてきて、冷え込んで来た。
私は上着を脱ぐと、毛布代わりにハナナちゃんにかける。
救援は来る。必ず来る。その点は一片の疑ってはいない。問題は、いつ来るかだ。
今夜中に来てくれるならありがたいが、二重遭難を危惧して夜明けまで動かないかもしれない。
それまで保つだろうか?
「そうだシュウ君。少しばかり冒険者の知恵を貸してくれないか?」
「ああ、いいぜ。何でも言ってくれ」
リュックに入れていたハナナちゃんのポーチを取り出すと、その中から火打ち石らしき物を取り出す。
「暖を取りたいんだけど、生憎サバイバルには不慣れでさ。使い方を教えてくれないか。頼むよ」
「なんだ、たき火か…。それくらい、おやすいご用だ」
シュウ君から散々駄目出しをくらいながらも、火付けに成功。何とか"あたたまりポイント"が確保できた。
しかし、もはや水も食料も無い。私の体力も、とっくに限界を越えている。
少しでも眠った方がいいだろうか? だけどハナナちゃんが心配で、怖くて眠れない。
ふと、側に浮かぶシカクを見る。
たき火を起こす事を敵対行動とみなされるのではと、ヒヤヒヤしていたが、何の反応も示さなかった。
コイツは一体なんなんだろうな。
「クソ野郎……」
突然悪態をつかれ、振り返ると、キョトンとした顔のエコーちゃんがいる。
エコーちゃんにとって、私はクソ野郎だった……?
いや……今の言葉はシュウ君か。ヤメロよ。今のがエコーちゃんの本心だったりしたら心が折れるだろ!
じゃあシュウ君にとって、私がクソ野郎なのか?
いや、シュウ君は私の視覚情報を共有している。今のヘイト発言の時、私が見ていたのは………
「シュウ君……」
「ん? 何だオッサン」
「君はもしかして、知っているのか? このシカクの事を」
「…………」
「知ってるんだな!」
「大したことは知らないさ。そこの娘っ子よりも先に、痛い目に合わされただけだ」
「どんなことでもいい。教えてくれないか? 何かのヒントになるかもしれない」
「オレに取っちゃ、思い出したくもない悪夢だけどな…。いいぜ。話してやる」
「オレは…オレ達のパーティは、ある金持ちの依頼で"禁忌の遺跡"に潜る事になった。
あそこは普通のやり方じゃ入れないが、女神の血筋である"野薔薇ノ民"が一緒なら、一部の門が丸一日開くって話だった。
つまり依頼があったのは、パーティの実力とは関係なく、オレがいたからだったのさ。
前金からして破格だったし、未知の領域に冒険できるって、みんな大喜びだった。
高額な装備を揃え、準備万端整えてから、オレ達6人は"禁忌の遺跡"に向かった。
遺跡の中は、手付かずのお宝で溢れていたよ。正に宝の山だった。だけどヘンなんだ。
通路のあちこちに装備が落ちていた。どれも装備一式だ。まるでフル装備の冒険者が、中身だけ消えちまったみたいな……
でも、その原因はすぐに分かった。あのクソ野郎が現れたからな!
仲間の四人は光球をくらい、生きながら腐っていった。残ったのはオレと相棒だけ。
相棒は、そのパーティに入る前からの腐れ縁だった。
その相棒は逃走中にシカクの光球を左足に喰らう。腐り落ちる前に付け根から切断して、命は助かったが、回復薬が足りなかった。
相棒に致命傷を負わせたシカク野郎だったが、それ以上は何もしてこない。オレ達をただ見るだけだった。
やがて一日が終わる。門が閉ざされるのは時間の問題だった。
オレは相棒を背負って門に向かったが、どう足掻いても間に合わない。そんな時、相棒が言ったんだ。
『オレを殺してくれ』って……。
自分を背負ったままじゃ間に合わない。でも、独りぼっちで残るのはイヤだ。だから、お前の手で殺してくれ。お前だけは生き残ってくれ。
それが、相棒の望みだった。相棒の最後の望みだった。オレには、その望みを叶えてやることしか出来なかったよ。
シカクは、相棒の死に様を見届けると、妙な音を立てながら去って行った。まるで笑っていたようだった。見送る事しかできない自分が不様だった。
こうして独り生き残ったオレは、遺跡を脱出しようと門に走った。焦って警戒してなかった。
あともう少しってところで、最後の罠が待っていたんだ。落とし穴さ。
真っ逆さまに落ちて、オレは槍に突かれて死ぬはずだった。ところが、気がつけば見知らぬ神殿にいた。
そこにいた巫女姫は、オレを見て『勇者様』って呼ぶんだぜ。このマヌケが勇者だってさ。笑えるだろ」
「…てなわけさ。役に立ったか?」
「…………………え?
ちょ、ちょっと待ってくれよ? 君、そのタイミングで移籍召喚したの? 時系列おかしくない?」
「じけぃれつ…って何の事だ?」
「えっと、確認なんだけど、君達のパーティが"禁忌の遺跡"に潜ったのっていつ?」
「二日前の昼過ぎだな」
「じゃあ、シュウ君が独りで門に向かったのはいつ?」
「昨日の昼くらいかな」
なるほど、そういうことか。先入観に騙された。
現在進行形でハナナちゃんが狙われているので、シュウ君が先、ハナナちゃんが後だと思ってしまったが、
実際に"禁忌の遺跡"に潜ったのは、ハナナちゃんが先で、シュウ君が後だったんだな。
時系列的には………
数日前 ハナナちゃん"禁忌の遺跡"から逃走。泉に篭もる
二日前 シュウ君一行"禁忌の遺跡"に侵入
一日前 シュウ君落とし穴に落ち移籍召喚。
私も濃霧に飲まれて移籍召喚。
……ということになるようだ。
つまり私は、"禁忌の遺跡"で死ぬはずだったシュウ君との移籍召喚で、ガングワルドに訪れ、
"禁忌の遺跡"のシカクから逃げていたハナナちゃんに助けられたのか。
なんという偶然。いや、ここまで来ると因縁か?
もしかして、私が選ばれた事にも何か意味がある? "禁忌の遺跡"に関わる秘密とか?
妄想は膨らむが、まあ、それはそれとして……
「相棒君やパーティのメンバーが亡くなったのって昨日だったのか。
なんというか……お悔やみ申し上げます」
「あ、いや、そう言うのはいいから! 冒険者には良くある事だから!
でもまあ……ありがとよ、オッサン」
あともう一点。シカクの動向が気になるな。
逃走中のハナナちゃんを探していたと思われるシカクが、昨日はシュウ君達を狙っていた。
二人を狙うシカクは、はたして同一個体だろうか。もし、別個体だとしたら、二体以上いる可能性が……
いや、今は考えまい。考えても意味が無い。
2019/4/24
すみません。出勤前に慌てて投稿したものの、自分的に微妙だったので、
シュウ君の自分語りの終わり近くから1000文字くらい加筆しました。
これで"因縁"が強調されたかと。