2-78 集う4 ~シュウ~
「ワタシダ・シュウ? 誰だよそいつ」
「いや、ゴメン。"私ダッシュ"は、私の分身だと思って勝手に付けた名前だよ」
「分身? 分身ってどういうことだ?」
「実は私も昨夜、眠っている間に夢を見たんだ。今の君と同じように、君の身体を通して、君の経験を共有していたんだ」
「……ウソだろ?」
「君はどこかの遺跡で落とし穴に落ちた。
死を悟った君は、走馬燈のように過去を思い出していたね。
でも、穴底に起てられた無数の槍に串刺しになる直前、気がつけば見知らぬ神殿にいた。
君はガングワルドに異世界召喚されたんだ。"移籍召喚の儀"によってね。
どう? 身に覚えはあるかい?」
「いや……えええっ!? 何でそこまで知ってるんだよ! いくら何でも詳しすぎるだろ!」
「だからさ、君の身体を通して体感してたんだよ。今の君と同じようにね」
「じゃあ、この夢は………夢じゃないのか?」
「君にとっては夢だけど、これはオトギワルドで実際に起きている現実なんだ。
今はこう考えるのがいいんじゃないかな。
君の意識は今、私の中にある。君の意識に気付いたエコーちゃんが、君の言葉を代弁している」
「トンデモ……ねぇな。でも、何でこんな事に?」
「あくまで推測だけど、"移籍召喚"によってトレードされた者同士は、心というか、意識が繋がってしまうのではないかと」
「えっっ!? オッサンがっ!? オレ、オッサンとトレードされたのかよっ!! オレ、オッサンと等価値なの?」
「……なんかすまんな。こんなしょぼくれたオッサンで」
「いや、そんな事ねーよ。考えてみたら、オレの人生なんてろくなもんじゃなかった。
故郷を捨てて自分試しの旅に出たのに、やっとの思いをして掴んだのは、犯罪者崩れの冒険者だ。
ワルを気取った馬鹿とつるるんで、色んな悪さをして、堕とし穴に落ちて死んだ。当然の報いさ」
「いや、君生きてるよね? 死ぬ前に召喚されたよね?」
「オトギワルドでは死んだって事だよっ チャチャ入れるんじゃねーよ」
「あーハイハイ。
ところで、君の事はなんて呼ぼう?」
「名前? オレの名は……………だが」
「何故か分からないけど、お互いに本当の名前が伝わらないだろ? だけど名無しじゃ不便じゃないか。
私の事は……まあ、オッサンでいいよ」
「じゃあ、オレはシュウでいいや。シュウって呼んでくれ」
「分かったシュウ。
本題に入る前に、もう1つ確認させてほしい。君は私の事をどこから知ってる? いつから私の中にいるんだ?」
「オッサンが、そこに倒れてる娘っ子を見つけたところからだ」
「あそこからか」
じゃあ、初めて会った時の、全裸のハナナちゃんは見られてないんだな。
何となくホッとする。
「あのなオッサン。一言いいか?」
「お? おお、なんだ?」
「悲しいのは分かるさ。俺だって経験ある。だけどな! 大の男が! いい年して! 泣きすぎなんだよ!」
「そりゃ、すまなかった」
確かに、延々と泣き続けているところに付き合わされるのはたまらんよな。
「あの、お父様、お父様」
「ん、なんだいリーサちゃん」
「つまり、どういうことですの?」
「彼……シュウは、私の代わりにオトギワルドからガングワルドへ"移籍召喚"された、野薔薇ノ民なんだよ。分かる?」
「"移籍召喚"は分かります。ですが、ガングワルドにいる者が、エコー・ベルで声を届けるなんて…」
「そこはまあ、私も原理はよく分からないけど、そういうものだと割り切るしかないと思うよ。重要なのはそこじゃないからさ」
そう、重要なのはそこじゃない。このタイミングだ。
このタイミングで、エコーちゃんが彼の言葉を伝えたのには意味がある。そう思えるんだ。
「分かったよ、シュウ君。君の事を信用する。本題に入ろう」
「え?」
「ん?」
「本題って……なんだっけ?」
「はいぃ?」
「あ、ごめん。ただの夢だと思ってたのに、オレとトレードされたのがオッサンだったとか、色々トンデモねぇ話を聞かされたもんだから……
忘れちまった」
「え〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれな! すぐに思い出すから! なんだっけ? なんだっけ?
と、とにかく、スゲェ重要な話なんだよ!!」
彼もハナナちゃんと同じタイプの、脳筋キャラなのだろうか?
頭脳派冒険者なら魔法使いになるだろうしな。
「な、なあオッサン。オレってなんて叫んでた? 覚えてる?」
「え? ああ……そうだね。確か、行っちゃダメだとか、近づくなとか……」
「あ〜〜〜〜〜!! 思い出した! カンペキに思い出した!!」
「それはよかった。それで本題は?」
「ああ! 聞いてくれオッサン! これ以上関所に近づいちゃダメだ! 大惨事になるぞ!」
「それは………一体どういう事?」
「そのシカク野郎は、どこまでも娘っ子に付いてくるんだ!」
「…うん。そうだろうね。実際ついて来てるし」
「シカク野郎を倒せるとしたら、化け物ぞろいの王宮戦士しかいない!」
「それも知ってる。だから今、必死になって関所に向かってるんじゃないか」
「それが問題なんだよ! オッサン! あんた、関所がなんなのか知ってるのか?」
「ガングワルドの関所とは別物って言うなら知らないけど、同じだよね?
国境にある検問所で、出入国する人や物に危険は無いか、足止めして調べるところだよ」
「ああ、うん。大体合ってる。だったら………
足止めされた人のために、関所の側には宿場町があるっている事も分かるよな」
「なるほど。確かに人の行き来が多ければ、確かに作られるだろうね」
「じゃあ、オッサンなら想像できるよな。
シカク野郎と王宮戦士がぶつかり合ったらどうなるか」
「あ……」
王宮戦士がシカクを瞬殺するなら、何の問題も無いだろう。
だけど……激戦が始まったら?
ああ、くそ! なんてこった! 何故私は、その可能性に気付かなかったんだ!?
「分かるよな? 分かるだろオッサン! このままじゃ! このままじゃ!」
宿場町の一般人が、巻き込まれるっ!!




