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2-77 集う4 ~正体~

 ベル妖精エコー・ベルは、ギリシャ神話に登場するニュンペー、エコーのように、自分の言葉を持たない。

 人の発した言葉を言い返すだけだ。

 しかし今、エコーちゃんが発している言葉は、誰の言葉でもない。誰も喋ってないのに、一人で喋り続けているのだ。

 では、この言葉はエコーちゃん自身の言葉なのか? 男口調で汚い言葉が入り交じる、この言葉が?

 いや、それも違う。言葉の内容と、エコーちゃんの仕草が一致しない。

 どんなに感情的な言葉を発しても、エコーちゃんの口が動くだけで、表情が連動しないのだ。

 例えるなら、美少女フィギュアにスピーカーが仕込まれていて、音に合わせて口だけが動くような感じか。

 となると、あれか?

 ハナナちゃんから、エコー・ベルにはもう1つ能力があると聞いていた。人の心が読めるのだ。

 それを応用ししたのが、代弁能力。

 事故なり生まれつきなりで、喉が潰れ、言葉を話せない人の心を読み、代わりに話をするのだ。

 つまりエコーちゃんは今、誰かの心を読み、代わりに話をしている可能性が高い。

 一体誰の?

 男口調だが、私の内なる叫びではない。

 ハナナちゃんは意識を失ってるし言葉使いが違う。裏表が無い子だから心の声が別って事も無いだろう。

 意外とワシリーサちゃんだったりする? 男勝りのハナナちゃんに憧れて、密かに男口調を使ってるとか?

 可能性はありそうだけど、違う気がするな。

 残るは………まさかシカクか? シカクの内なる叫びだったりするのか? こいつに人間的感情があるとは思えないけど…

 そもそもエコー・ベルの代弁能力に、距離が関係するかどうかが分からない。

 エコーちゃんの事は野良妖精だと思ってたけど、実は誰かの使い魔で、遠くにいるマスターの言葉を伝えているだけなのかもしれない。ワシリーサちゃんのカエルのように。

「えっと……お前達! オレの声……というか、オレの言葉が伝わっている……のか?」

「ああ、うん。聞こえてる。君は一体誰だ?」

「オレの名は……………。野薔薇ノ民で、冒険者だ」

 野薔薇ノ民!? 冒険者!? ハナナちゃんと同じか?

「すまない。よく聞こえなかった。君の名前は? もう一回話してくれ」

「俺の名前は……………だ! 伝わったか?」

「いや、他は聞こえるけど、何故か名前だけ喋ってくれない」

「じゃあ逆に聞かせてくれ。あんたの名前は?」

「私は、大黒雄斗次郎だ」

「もう一回言ってくれ」

「大黒雄斗次郎だ!!」

「だめだ。こっちも名前だけが聞こえない」

 何故だか判らないが、お互い名前だけが伝わらないらしい。


「あの…お父様? ベル妖精が突然話し始めたと思ったら、これは一体どんな遊びですの?」

 話についてこれないワシリーサちゃんが、カエル越しに聞いてきた。

「リーサちゃん、気付いてなかった? この子はただのベル妖精じゃない。エコー・ベルなんだ」

「え? 今、なんとおっしゃいました?」

「エコー・ベル。この子は自分の言葉を持たないエコー・ベルなんだ」

「えっ!? では、この言葉は……」

 カエル越しに動揺が伝わってくる。ようやく事の重大性に気付いたようだ。


「ひとまず名前は後にしよう」

「ああ、そうだな。名前なんてどうでもいい。だから聞いてくれよおっさん!」

「いや! 申し訳ないが、信用できない人とは話なんて出来ないよ。言葉巧みに騙されてはたまらないからね」

「どうすれば聞いてくれるんだよ!」

「なら……私の質問に答えてほしい。信頼に足る人物かどうか確かめさせてもう」

「分かった。なんでも聞いてくれ」

「君はエコーちゃん……ここにいるエコー・ベルを使役するマスターなのか?」

「オレは剣を振り回す事しかできない、ただの冒険者だ。使い魔なんて大層なもの、持てるわけがない」

「君はさっき、野薔薇ノ民だと言ったね?」

「ああ、女神の血筋だよ。そこで寝転がってる娘っ子と同類さ」

「君は男性? 女性?」

「女みたいな顔で腹立たしいが、これでも一応男だよ」

「ちなみに年は幾つ?」

「さあね。十六だったか十七だったか…」

「ごめん。ちょっと待っててくれ」


「リーサちゃん、リーサちゃん」

「はい、なんでしょう、お父様」

「君、野薔薇ノ民の少年や青年には会った事ある?」

「はい。凄く綺麗でした」

「綺麗? 男の人だよね?」

「はい。とっても。流石は女神の血筋だなぁって……」

「そうなんだ……」

「でもそれは、野薔薇ノ民を知る者なら誰でも知っている情報ですわ。顔を見せないなら誰でも偽装できます」

「たしかに……」

 でも…なんだろう? この既視感。何か……何か引っかかるんだけど…

 別の切り口からアプローチしてみるか?


「ゴメン待たせた」

「ああ、なんでも聞け」

「エコーちゃんが使い魔じゃないなら、どうやってエコーちゃんを使ってるんだ?」

「知らねーよ。そいつが勝手にオレの言葉を伝えてるだけだ。オレだって驚いてるんだよ」

 エコーちゃんが自主的に代弁してるのか? もしくはラジオのように受信状態にあるとか?

 いやまてよ? それじゃ説明が付かないぞ? 会話を成立させるには……

「今、エコーちゃんが勝手にやってると言ったね? なら、どうやって私の声を聞いてるんだ? エコーちゃんの耳を通してか?」

「いや、違う」

「じゃあどうやってるんだ?」

「あんたの耳で聞いてるんだよ。おっさん」

「は? 私?」

「そう。オッサンの耳で聞いてる」

「…………はい? どゆこと?」

 意味が分からず、頭を抱える私。

「おいおっさん、目をつぶるんじゃねーよ。見えないだろ!」

 え? え? えっ!?

 も、もしかして………私と五感を共有しているのか?

 私の目で見て、私の耳で聞いて、私の鼻で嗅いで、私の舌で味わって、私の肌で感じている?

 これは……これは……

「まさか君……。冒険者君……。今、眠っているのか? 夢を見ているのか?」

「え? これって夢なのか? でも確かに眠った覚えはあるな」

 既視感の正体が分かった。彼の正体も確信した。

 間違いない。


 "私ダッシュ"だっ!!

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