2-75 集う3 ~感謝~
新たに決意を固めたものの、問題は山積みである。
最大の問題はシカクだが、私の手には負える代物ではない。天災の類だと割り切って、今は無視。
今、解決すべき一番の問題は、いかにしてハナナちゃんを関所まで運ぶかだ。
ハナナちゃんの容態を考えると、担架に寝かして運びたい。だけど肝心の担架が無いし、一般的な担架は2人必要だ。
介護用だと1人で担げる担架もあるらしいが、私は詳細を知らない。
自作するにしても、手持ちでは強度が出せるか心配だ。運搬中に怪我人を落とすとか、シャレにならないもんな。
担架を諦め、一人で運ぶとなると、思いつくのはおんぶだ。
過去作品を振り返れば、疲労困憊のラナをおんぶして「ラナは軽いなぁ」と走るコナンとか、車いす生活のクララをおんぶして過酷なアルムの山を登るペーターとか、脳筋キャラがヒロインに頼もしさをアピールする絶好の機会で、正にそのシチュエーションが発揮されるべき状況なのだが……。
悲しいかな、私は元々文化系。体力も筋力も圧倒的に足りない。
おまけに今回、ハナナちゃんは胸に深傷を負っている。更なるダメージを負わせかねないおんぶはNGなのだ。
担架もダメで、おんぶもダメでは、どうやって運ぶんだ? 無理じゃね?
と思った貴兄諸君。安心してほしい。
この雄斗次郎に秘策あり!
ゆるかったり、ススメられたりと、山登りアニメが世間で流行っていた頃、たまたまネットで検索していたのだ。
名前は確か……"ドラッグ法"。山で怪我人を一人で運ぶ方法の一つだ。
まず、ハナナちゃんの片足のかかと部分を、反対の足に乗せる。交差するような感じ。
次に、ハナナちゃんの上半身を起こし、怪我は左胸だから……右腕をお腹の辺りで水平にする。腕を骨折した時に、包帯で腕を吊っている姿を見た事あるだろ? あんな感じな。
そしてハナナちゃんの背後から手を回し、右腕の肘あたりと手首をしっかり掴み、持ち上げて、後へ後へと引きずっていくわけだ。
引きずりながらの移動となるので、どうしても時間はかかるが、私の体力を考えれば、これがベストだと思う。
実際に引きずるのは片足のかかとだけなので、引きずる際の負荷は、多分最小限だろう。
上半身を起こした状態なので、出血も肺の下に溜まるから、咳き込む回数は減るんじゃないかな?
ハナナちゃんの運送方法の半分は解決した。問題は残りの半分だ。
ここは爆心地。シカクが落下して、甲羅岩を砕き、半径20メートルの木々を放射状に倒した、その中にいる。
獣道は辛うじて残っている。だが、所々が倒木によって分断されているのだ。
倒木を物理的に排除する方法は、私にはない。
そうなると、残された手段は二つ。回り道をするか、倒木を乗り越えるかだ。
回り道で済むなら良いが、恐らくは無理だろう。どこかで倒木を乗り越えるしかない。
しかし乗り越える間は、ドラッグ法は使えない。ハナナちゃんをお姫様だっこするしかない。
そのためには体力はもちろん必要だが、筋力も必要なのだ。
ヒーローなら当たり前のように備わっているが、それが私には無いのだ。
対策がないわけではない。ハナナちゃんのネックレスだ。
あれを私が装備すれば、能力の底上げが出来るだろう。
しかし、生命維持装置の役割を果たしている可能性がある。ハナナちゃんの命にかかわるかもしれない。
迂闊には外せない。
だけど、他に方法は……。一体どうすれば良いんだ!
いや……待てよ?
ハナナちゃんの特殊効果持ち装備は、ネックレスだけじゃない。
説明してもらっただろう? 思い出せ!
今一番必要な能力は重量軽減だけど、チェストプレートは壊れてしまった。もう使えない。
チェストプレートを外した事でむき出しになっている"フェアリードレス"は……確かスピードアップか。関係ないな。
下履きのブルマは……頭の回転が良くなるんだっけ? 長い目で見れば役に立つ事もあるだろうけど、今は関係ないな。
っていうか、若い娘の下履き脱がすとか、完全に変態なんですが!
ハナナちゃんのブーツ……踏み込む毎に重力を反転させるんだっけ。でもダメだ。足のサイズが違いすぎる。せっかくの能力も、宝の持ち腐れだ。
そしてグローブは……ただのグローブだったけ。どのみちサイズは合わないが……
私は頭を抱え、力を落とし、しゃがみ込む。
やっぱりダメか。ダメなのか。
あともう少しだっていうのに、ここまでなのか……
「そしてお待たせ♪ トリを飾るのは、我が愛剣“疾風丸”!」
ふと脳裏に、嬉しそうに話すハナナちゃんの声が蘇る。
よっぽどのお気に入りだったのだろうな。
「“アネモイの加護”で強化された、風属性のショートソードさっ!」
ショートソード"疾風丸"は、ハナナちゃんの側に落ちていた。
刃は付け根から折れ、柄のみの無残な姿で。
もう、主人を護れない。私と同じでボロボロだ。
「特殊効果持ちではあるけど、特定の効果が付くんじゃなくて、全ての能力が底上げされるって言えば分かるかな」
能力の底上げ……だと!?
それって、ネックレスと同じ効果か?
だけど"疾風丸"は折れてしまった。もう使えない。
……いや、まてよ?
能力の底上げは、攻撃力とは直接関係ない。もしかして、武器に使えなくても、もしかしたら……
私は四つん這いのまま、ハナナちゃんの側に近寄り、"疾風丸"を手にする。
力が……みなぎった
ああ、なんてこった!
"疾風丸"! お前、まだ生きていたんだな!
半身が折れても尚、主人を護ろうと……。イケメン過ぎるだろ! 刀剣男子かよ!
分かったよ"疾風丸"! お前の想い、私が引き継いでやる!!
そして………
「ああ、ちくしょう!! ダメダァ〜〜〜〜〜!!」
あと一歩のところで、私はまた行き詰まる。
"疾風丸"は装備しないと能力が発揮されない。リュックやポケットに入れていては認識しないのだ。
これではドラッグ法もお姫様だっこも出来ない。片腕で掴むにしても、掴める場所がない。
"フェアリードレス"は、肩を露出させたパーティドレスタイプで、下手に掴むと破れてしまう。
他に片腕で運ぶとしたら……腰に手を回して抱きかかえる? 能力を底上げしていても、その体制で長時間は無理だ。
どうする? 両手をフリーにしないとハナナちゃんを運ぶのは無理だ。
じゃあ"疾風丸"を諦めるのか? それも無茶だ。彼の力無しに進むのは非常に困難だろう。
つまり、両手をフリーにしながら、"疾風丸"を装備しろと…。
そんなの腕が3本なきゃ無理だ。どうやって生やせばいいんだよ!
いや……いや、待てよ?
ああっ! も、もしかして
いや、試してみる価値はある。
私は"疾風丸"を、口にくわえた……
ありがとう! ロロノア・ゾロ!
ありがとう! 三刀流!!
最後のピース! 埋まりました!!
ハナナちゃんを助けるため、ついに進み始めた雄斗次郎とその一行。
そんな時、突然エコー・ベルが叫び出す。
「ダメだ! ダメだ! 行っちゃダメだ!!」
自分の言葉を持たぬはずのエコーが、一体何故?
次回"集う4"