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2-72 集う3 ~確認~

 酷い腐敗臭だった。刺激を伴うため、嗅ぐだけで鼻が腐り落ちそうだ。近づくのは2メートルが限界か。

 しかしこれは幸いかもしれない。臭いで場所が分かるなら、うっかり踏み込んだり、触ることも無いだろう。

 シカクの光球を喰らった"掃除屋"の末路は酷いもので、いくつか確認したが、どれも無残に腐り果てていた。

 ただ殺すならまだいい。だけど貴重なタンパク源を台無しにするとか…。森の生態系がヤバくならないか?

 あれ以来"掃除屋"が出てこないのは、縄張り内のアリが全滅したからだろうか?

 それとも、刺激を伴う腐敗臭に危険を感じて距離を取っているのだろうか?


 "掃除屋"の末路を確認した私は、次に近くの倒木に登り、周囲を確認する。

 甲羅岩の成れの果てを中心に、半径20メートルほどの円形の広場になっている。

 だけど舗装されているわけではない。あちこちに倒木があり、かつての獣道は使い物にならない。

 円形広場の先にある関所に向かう道は、幸いにして残ってる。

 が、そこに辿り着くまでは、道無き道を進むしかない。

 ここに戻る時はシカクに怯えながら、息を殺し、姿勢を低くして歩いた。大変だったが楽な方だよな。単身だったし。

 今度はシカクのプレッシャーに耐えながら、重傷のハナナちゃんを運ばなければならないのか……。

「ん? ああ、大丈夫♪ 大丈夫だよエコーちゃん♪ 泣いてないから♪ これは心の汗だから♪」

 私は心の汗を必死に拭い、心配顔のエコーちゃんに笑顔を見せる。

「さあ! 偵察はこれくらいにして、ハナナちゃんのところに戻ろう♪」


「ただいま、ワシリーサちゃん。ハナナちゃんはどう?」

 私はハナナちゃんの側にいる、小さなカエルに話しかける。

「まだ意識は戻りませんわ。それと…またさっき……」

 ハナナちゃんを見ると、最初ほどではなかったが、また血を吐いていた。

 今のところ、"掃除屋"の襲撃は心配しなくても良さそうだが、それでも用心に越したことはない。

 リュックから布きれを出す。タオル代わりにとシャツを切り裂いたものだ。

「ゴメンな、ハナナちゃん。もうタオルが無いんだよ。ちゃんと洗濯してるやつだから、許してな」

 布きれでハナナちゃんの頬に流れた血を大まかに拭うと、ティッシュに水筒の水を含ませ、残った血を拭き取った。


「じゃあ、偵察の結果を話すよ」

「はい」

「シカクの光球は、生き物を腐らせるものだったよ。調べた"掃除屋"は、どの死体も腐りきっていた。

 腐敗臭が臭くて仕方なかったから、遠くから仕込み杖で死体を突っついたんだけど、そうしたら杖の先が腐り落ちてね。仕込み剣の切っ先がむき出しになっちまった」

「生きた動物だけではなくて、乾いた木も腐らせてしまうということですの?」

「そうなるね。かなりヤバイ感じだよ」

「仕込み杖はどういたしました? 腐食したところを見せていただけません?」

「ああ、ゴメン。杖の部分がどんどん腐ってくるは、付いた臭いがキツイはで、諦めて捨ててきたよ」

「そう……ですの……仕込み刀の刃はいかがでした? 一緒に腐りましたか?」

「どうだろう。見た感じでは腐り落ちてはいなかったけど……何かあるの?」

「禁忌の遺跡には、侵入者の痕跡はあるものの、死体は一切無いそうです。装備品だけ綺麗に残し、消えてしまっているのだとか。

 物には一切傷つけず、生き物だけを消し去る呪いだと言われておりますが、先ほどの攻撃が呪いの秘密なのかもしれませんわ。

 でも……生き物だけを腐らせるだけなら、あるいは………」

「え? 何? 聞こえないよ?」

「あ、いえ、何でもありませんわ♪ こちらの話です」

「そう…」

 "掃除屋"の死に方を気にしていたのはワシリーサちゃんだった。

 だから偵察に出る際、死因を確認してほしいと頼まれたんだが……。何か思うところでもあったのだろうか。

「それと、関所までは道のりがかなり厳しい事も分かったよ。もちろん諦めたりはしないけど」

「ハナナちゃんを、よろしくお願いいたします…」

「ああ、そうだ、ワシリーサちゃん。その件で一つ、確認したい事があるんだ」

「はい。何でしょう?」

「ハナナちゃんが付けてるネックレス、あれってもしかして、能力の上昇効果があるんじゃないか?」

「え? ええ。そうですわね。ハナナちゃんが付けているなら、能力持ちで間違いありませんわ」

「それって、ガングビトの私が付けても効果があるんだろうか?」

「えっ!? ………そ、そうですわね! その可能性は高いと思いますわ!

 ………あっ! でも、それはダメだと思います。お薦めできません」

「それはどうして?」

「もしかしたら、能力の上昇効果のおかげで、ハナナちゃんが生きているのかもしれないからです!

 外せば、命にかかわるかも…」

「たしかに……そうだね……」

 そうか……。ネックレスが生命維持装置の代わりを果たしている可能性があるって事か。

 もしあの時、"掃除屋"に対抗できる力を得ようと、安易にネックレスを引きちぎっててたら、結果的にハナナちゃんを殺していたかもしれないのか……。

 危なかった。本当に危なかった。一か八かの大勝負をしなくて、本当に良かった。

「だ、大丈夫ですか? お父様!?」

「ああ、うん。大丈夫大丈夫。ちょっと気が抜けただけだから♪」

 問題は何も解決してないんだ。気を抜いている場合じゃない。

 ……だけど、このままじゃ身も心も保たない。少しだけ休ませてもらおう。15分休憩だ。

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