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2-68 集う3 ~繋がる~

 驚いた私は思わず後ずさり、何かに足を引っかけ尻餅をついた。

 その拍子に落としたウェストポーチは、小刻みに跳ねていた。まるで内側から突き上げるように……

 もしかして、何かが外に出ようともがいているのだろうか?

 続いて甲高い叫び声、もしくは鳴き声が聞こえてくる。一体何が入ってるんだ?

 昭和アニメに良くあるペットキャラか? 話が進むと扱いに困るヤツ。ナウシカのテトとか、エヴァのペンペンとか。

 もしくは盗難防止用の泥棒撃退アイテムとか? つまりセコムが入ってる!?

 ……こんな時に何考えてるんだ私は。

 どうしよう…。いや、どうもこうも、開けるしかないんだけど……。

 などと私が怖じ気づいてモタモタしていると、エコーちゃんがウェストポーチに近づいてきた。

 え、え〜っと、エコーちゃん? 危なくないかな? え? 平気? そ、そう…。じゃあ……お願いします。

 エコーちゃんがポーチのボタンを外すと、中から乳白色の何かが飛び出し、私の膝に着地する。

 それは小さな、小さな、カエルだった。

 これは……この色、このサイズ、そしてこの形……覚えがあるぞ。見覚えがある。

 ハナナちゃんが持っていた、小さなカエルの石像だ。お守り…だっけ?

 今にも動きそうな躍動感があったが、今は本当に動いていた。とても石像には見えない。生きているようだ。

「お父様!」

 突然、小さなカエルが甲高く叫んだ。は? へ? 何で私がカエルの父親?

「ハナナちゃんのお父様!」

 そう言われてやっと気付く。声がより甲高くなっているが、イントネーションが同じだ。

「ワシリーサさん? その声は、ワシリーサさんか!?」

「そうです! ワタクシです! ワシリーサです!」

 ワシリーサさん。ゴーレム使いで、フロッグゴーレムを好んで操る。忍びの隠れ里のお姫様。

 故に"カワズヒメ"と呼ばれてるわけだが……。なるほど、こんな小さな石像でも操れるんだな。

 しかも遠隔操作もできて、携帯電話のように会話も可能か。すごいな。

 こんな状況でなければ、色々教えてもらうのに。

 ワシリーサさんは、矢継ぎ早に聞いてきた。

「お父様! 何がありましたの? 石渡の術が使えません! 甲羅岩の門が、突然消えてしまいました!

 そこは一体何処ですの? こんな殺風景な景色、森には無いはずです!

 それに……それに、ハナナさんは? どうしてハナナさんがいませんの!?」

「分かった! 分かった、ワシリーサさん。一つ一つ説明するから、落ち着いて聞いてくれ」

「は…はい……」

「最初に甲羅岩だけど、壊されてしまったよ。そいつには禁忌の遺跡の印が付いていた。ハナナちゃんの言っていたシカクで間違いないと思う」

「シカク!? シカクですの!?」

「そうだ。シカクだよ! そして、この殺風景な景色を作ったのもシカクなんだ。アイツは多分、衛星軌道上から……えっと、分かりやすく言うと、星の高さから流れ星みたいに落ちてきて、その時の衝撃で、甲羅岩が砕かれ、その周りがこんな殺風景になっちまったんだよ」

「そんな……信じられませんわ!」

「私だって信じられないけど、それが現実なんだよ! そして…ハナナちゃんは………」

「ハナナさん……は……?」

「今、大変なことになってる……」

 膝の上で私の顔を見ていたカエルを掴み、その方角を倒れているハナナちゃんに向ける。

 小さなカエルの目を通して私を見ていたなら、これでハナナちゃんの姿も見えるはずだ。

 ワシリーサさんが状況を確認するまでしばし待っていると、彼女の息を呑む声が聞こえた。

「見ての通りだワシリーサさん。ハナナちゃんを助けるには、君の助けが必要なんだ」

「イヤ……」

「え?」

「イヤァァァァァァァッ!!!!」

 けたたましい悲鳴が響くと共に、小さなカエルは飛び跳ねた。ハナナちゃんの元へと飛び跳ねた。

「イヤッ! イヤッ! イヤですっ! こんなのイヤッ!!

 ワタクシをっ!! ワタクシを独りにしないでっ!! 独りぼっちにしないでっ!!」

 私は突然のことに唖然とするが、泣き叫ぶワシリーサさんの声を聞くうちに、大失敗をしてしまったことに気付いた。

 第一印象から、私はワシリーサさんが冷静に物事を判断できる女の子だと思い込んでしまった。

 でも、彼女にとってハナナちゃんがたった一人の友達だとしたら、話は別だ。

 私はハナナちゃんとはたった一日の付き合いに過ぎないが、ワシリーサさんは私の何十倍、何百倍もの付き合いがある。

 つまり正気を失う危険だって、何十倍、何百倍とあったのだ。

 それなのに! 私は何という愚か者なのだ!

 くそっ! くそっ! くそっ! 二度三度と、自分の頭を殴りつける。

 ああ、大丈夫。大丈夫だよエコーちゃん。だから私の回復はしなくて大丈夫。

 落ち着け!

 ワシリーサさんを落ち着かせるためにも、まず私が落ち着け!

 カエルに光の粉をかけても、ワシリーサさんには効果はないだろう。

 ワシリーサさんを泣かせるままにしているのだ。側には誰もいない。いたとしても慰めてくれない。

 つまり私が何とかするしかない。

 幸い、泣くこと自体は悪い事じゃない。泣くことでストレスが発散されるって話もある。

 ワシリーサさんが落ち着くまで待っていれば、話を聞いてくれるだろう。

 きっと……

 たぶん……

 おそらく……

 ………………

 待てるかくそぉ〜〜〜〜〜っ!!!!!

 せっかちな私は、ハナナちゃんの側に擦り寄っていたカエルを掴むと、顔を私に向けて叫ぶ。

「聞けっ! 頼む聞いてくれっ! ワシリーサちゃん!」

「ひぐっ ふぐっ えぐっ…」

「私は! ハナナちゃんを助けたい! 助けたいんだっ! それは分かるよねっ! 分かってくれるよねっ!」

「ぐすっ…… ううっ……」

「だけど私だけじゃダメなんだっ! 私だけじゃ足りないっ! ハナナちゃんを救うには、君の助けが必要なんだよっ!」

「ワ、ワタクシの……?」

「うんっ! そうっ! そうだよっ! そうなんだよっ! ワシリーサちゃんっ!!」

「でも……ワタクシは…ぐすっ……見てるだけしか……出来なくて……」

「君は、私の正体に気付いてるんだろう?」

「……それは、その………はい………」

「察しの通り、私はガングビトだよ。だからこの世界が分からない。ほとんど何も分からないんだ」

「………ぐすっ………」

「でも君は知ってるだろう? この世界の事! ハナナちゃんの持ってる道具の事!」

「分かる……と思い……ますわ……多分……」

「だから頼むよ、ワシリーサちゃん。君の知識を、君の知恵を貸してほしいんだ。ハナナちゃんのために」

「ワタクシの……知恵? 知識?」

「そうだよワシリーサちゃん! 君がハナナちゃんを救うんだ! ……頼めるだろうか?」

「……分かりましたわ。ハナナちゃんのためなら、何だっていたします!」

「ありがとう! ありがとう、ワシリーサちゃん!」


 繋がった! 繋がったよ!

 拙いけど……。

 か細いけど……。

 それでも、それでも、確かに繋がったよ!

 希望が…

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