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2-67 集う3 ~見落とし~

 現実は非情である。それを思い知るのに5分とかからなかった。

 ハナナちゃんは生きているのだ。希望はまだある。

 しかし、次の希望に繋がらない。私が無力すぎて繋げられないのだ。

 くそ! くそ!! くそっ!!!

 落ち着け! 落ち着け私!

 このまま絶望に押し潰され、正気を失えば、またエコーちゃんが無理をする。

 私を正気に戻そうと、癒し効果のある光の粉を振りかけてくる。

 すでにエコーちゃんは疲労困憊だ。休んで回復するならいいが、命を削っているのではと不安でしょうがない。

 どうしても必要な時は頼むが、少なくとも今ではない。

 私の正気を取り戻すため…。そんな下らないことに使ってはダメなのだ。

 そうだ! こんな時こそ状況整理だ!

 状況を整理することで、打開策が見えてくるかもしれない!


 まず最初に、ハナナちゃんの意識が戻らない。

 声かけをしたり、身体を揺すったりしてみたが、何の反応もないのだ。

 直ちに危険は無いかもしれないが、この状態が続く事がヤバイのは、素人でも分かる。

 もしもの時……。今、その時に頼れるのはエコーちゃんの光の粒だけ。

 だからこそ、今はエコーちゃんには休んでもらわないといけない。


 次に呼吸がおかしい。小刻みに、やっとの思いで息継ぎをしているようだ。

 どうやら陥没したチェストプレートが胸を圧迫し、呼吸を困難にさせていると思われる。

 医学知識が皆無なので推測だが、このままでは酸欠で脳に障害が残るのではないだろうか。

 つまり現在、ハナナちゃんを苦しめているのは、陥没したチェストプレートというわけだ。

 こいつを脱がせられれば、呼吸も幾分か楽になるだろうし、意識も戻るかもしれない。

 なるほど、火急の問題が見えてきたな。


 さて、問題のチェストプレートだが、恐らくは四天王の中でも最弱のはず。

 しかし私の前には、最悪の難関として立ちふさがっている。

 外せないのだ。外し方がまったく分からない。

 装備を装着する方法としては、紐で結ぶ。ベルトでしめる。ボタンをかける。などが考えられるが、このプレートはどれにも当てはまらない。

 強いてあげるなら、接着剤を使わない、はめ込み式のプラモデルが近いだろうか。

 ただでさえ頭を抱えるのに、状況は更に悪い。陥没が接合部を歪ませ、本来の方法では外せなくなっているのだ。


 ガングビトとして、ガングワルドの知識を総動員するなら、必要なのはレスキューの救助アイテムだ。

 事故で車内に閉じ込められた人を助けるやつ。電動のカッターとかペンチとか。そんなものは森どころか、この世界のどこにも無いけどな。

 せめてバールのようなものでもあれば……。

 側にはハナナちゃんのショートソードが落ちていたが、切っ先は根本から折れていた。

 バールの代わりどころか、何の役にも立ちやしない。


 ハナナちゃんは装備の特殊効果のおかげで軽くなっている。ここで脱がせられないなら、関所まで運べばいいじゃないか。

 そんな期待はあっさり覆された。

 総重量を半分に減らす特殊効果は、チェストプレートのものだったのだ。

 陥没するほどのダメージを受けた際に、特殊能力ごと破壊され、ハナナちゃんは本来の重量を取り戻していた。

 必死になれば持ち上げられなくはないが、姿勢によっては腰をやられる。

 関所まで運ぶとなると、私の体力が保つかどうか。それでも、他に方法が無ければやるしかないが。


 ならば本来の予定通り、独りで関所に向かい、応援を呼ぶか?

 これが一番現実的だけど、最悪明日までかかるかもしれないし、それまでハナナちゃんの体力が保つとも思えない。

 だったらエコーちゃんに残ってもらい、危篤状態になったら回復してもらうとか?

 だめだ! 多分これが一番ダメ! 二人とも冷たくなって発見される。そんな最悪の未来しか予測できない。

 クトゥルフ神話TRPGでもそうだ。クライマックスでPCと別行動を取ったNPCは、大体死ぬんだよ。

 誰か信頼できる人にでも託せない限り、別行動はいけない。置いていくなんて問題外だ!

 

 ハナナちゃんは意識不明。

 チェストプレートがハナナちゃんの呼吸を阻害。

 チェストプレートは外せない。現状では不可能。

 おまけにハナナちゃんを関所に運ぶのも困難。

 応援を呼びに行ってたら、十中八九手遅れに。


 これが現実。私に突き付けられた、非情なる現実だ!

 そしてもう1つ、謎の非現実もある。

 シカクだ!

 ハナナちゃんの側で浮遊する、黄金の正六面体。

 こいつがなんなのかサッパリ分からない。敵なのか? 味方なのか?

 いや、少なくとも味方では無いよな。だけど、敵なのかどうかも分からない。

 私は戦闘音を聞いただけで、実際にハナナちゃんと戦っている姿を見たわけじゃないものな。

 この場にいるのはこのシカクだけなわけだし、他にあり得ない。

 しかし、私が触っても叩いても、完全に置物状態で、何の反応も示さない。

 私を認識してないのか? それとも、機能を停止しているとか?

 もういいや。訳の分からないモノに悩んでる場合じゃない。今は無視しよう。


 これだけか? これで全部か? 何か見落としはないか? 勝利の鍵はどこにある?

 今一度、自分の持ち物をチェックし直すか? 

 ………いや、

 ……待てよ?

 1つだけ見落としがあったぞ!

 ハナナちゃんの手荷物だ!

 私物を勝手に触るなんて発想が無くて、今の今まで気付かなかった。

 だけどもう、他に手段が思いつかない。迷ってる場合じゃない。

 私は動かないハナナちゃんの側に座り、ハナナちゃんに話しかける。

「ゴメン、ハナナちゃん。

 もう万策尽きちゃってさ、他に方法が思いつかないんだ。

 ハナナちゃんの手荷物を見せてもらいたいんだ。だからゴメン!

 ウェストポーチ、開けさせてもらうよ」

 少し待ったが、反応はない。

 もしかしたら、自殺したくなるほど恥ずかしい乙女のヒミツとか入ってるかもしれない。

 恥ずかしさのあまり、口封じで殺されるかもしれない。

 だが、躊躇していられる状況ではない。

 私は腰のベルトを外し、ハナナちゃんの下敷きになっているウェストポーチを引っ張り出す。

 そして明けようとした瞬間……


「☆※@%#$!!」


 ウェストポーチがもぞもぞと動き出し、

 中から甲高い子供のような叫び声が聞こえて来るのだった。

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