2-64 集う3 ~迷う~
さっきまで聞こえていた戦闘音が、唐突に消えた。何故だ?
思いつく可能性は二つ。
戦闘が終了したか、戦場が遠のいたか、だ。
戦闘の終了とは、決着のみを指しているわけではない。中断も含まれる。
例えば、ハナナちゃんがシカクの死角に回り込み、どこかに隠れたとする。
ターゲットを見失ったシカクはどうする? 攻撃を中断し、捜索を始めるのではないか?
ハナナちゃんが見事隠れ通せたなら、シカクも捜索を諦めて帰るかもしれない。
そして戦場が遠のいた可能性。
ハナナちゃんは目にも止まらぬ早さで走れるし、人の常識を越えた跳躍も可能。
その俊足で戦場を変え、シカクもハナナちゃんを追ったなら、突然の静寂も説明が付く。
だけど、その逆もありえる。私の方が唐突に離れすぎた可能性だ。
常識的に考えれば、人並みかそれ以下の体力しかない私が、瞬間的に戦場から離れるなんて不可能だ。
しかし、ここは異世界。私の世界の常識なんて通用しない。
未知の力が作用して、私を更なる異世界へと迷い込ませているかもしれないのだ。
しかし、いずれも仮説の域を出ない。確証を得るには引き返して確かめるしか……
待て待て待て! 何を考えてる!
思い出せ大黒雄斗次郎! 私はハナナちゃんから何を頼まれた?
救援要請だろ! 関所に駐留している王宮戦士に、助けを求めるんだろ!
引き返したとして、非力な私に何が出来る? 何も出来ないんだよ! むしろハナナちゃんに迷惑がかかるだけだ。
私に出来るのは一つだけ。今はとにかく関所に走る。走って走って走り抜く。
そして関所に辿り着いたら、王宮戦士に頼むんだ! ハナナちゃんを助けてくれと頼むんだ!
それが! それだけが! 私の出来る精一杯! 無力な私に出来る精一杯!
分かってるんだ、そんな事。嫌になるほど分かってる。
それなのに、それなのに、足が動かない。前に進めない。
胸騒ぎが、嫌な予感が、私を引き留め、縛り付けるのだ。
だからといって、どっちつかずでここに留まるのは、一番の悪手だ。
救援も呼べなければ、真相も分からないのだから。
私に与えられた選択肢は二つ。
懸命にも関所に向かうか、愚かにも引き返すかだ。
エコーちゃんは不安げに私を見つめるばかり。背中を押してなんてくれない。
考えてる時間は無い! 今すぐ決めろ! 自分で決めろ!
決めろ! 雄斗次郎!