2-62 集う3 ~流星~
もうすぐ夜になる。足下を照らさないと歩くのも困難だろう。
だけど私達に照明器具は必要無かった。
ハナナちゃんはステータスアップで夜目がきくし、私はエコーちゃんが足下を照らしてくれるからね。
日が落ちてくると共に、森の空にも星が輝き出す。
木々の間から見える星が綺麗だった。
きっと空気が澄んでいるのだろう。もしかすると、ゲリラ豪雨のおかげかもしれない。
この世界の星空は、私の世界と同じだろうか? 目立った変化は無いようだが。
例えば、太陽が二つあったり、月がデススターだったりすれば、異世界感が増して盛り上がるんだけどなぁ。
まあ、確かめようはない。普段からうつむいてばかりで、星空なんてろくに見てなかったもの。
星座だって、分かるのは精々オリオン座くらいだ。
「ハナナちゃんは星座とか分かる?」
「いや、さっぱり。海とか砂漠みたいに何も無いところを旅する時には役に立つんだろうけど、アタシはどちらかっつーと森専門だし」
確かに森じゃ役に立たんわな。星を覚えるより、草木を覚えた方が何十倍も役に立つだろう。
「偉い魔道士なら星の並びを魔法に活用するらしいんだけど、アタシにはサッパリだよ」
「そうなんだ……。ところでハナナちゃん」
「なんだい? オトっつぁん」
「関所に着いたら、本当に一人旅に出るのかい?」
「ホントはオトっつぁんと一緒が良かったんだけど、オトっつぁんてば超一級の賞金首じゃん。世界中の賞金稼ぎに追い回されるのは流石にキツイもんな♪」
「賞金首って……私は犯罪者か! しかしまあ、ハナナちゃんとは昨夜からの長い付き合いだもんな」
「なんだよオトっつぁん♪ 寂しがり屋かよ♪」
「そうだよ。一人でいるのが大好きな寂しがり屋さ」
「へんなの。王国に一人で行くのは心細い?」
「まあ確かに、ハナナちゃんがいてくれたら、心強いかな」
「そっか〜〜♪ 心強いか〜〜〜♪ まあ、アタシってば強いしカッコイイし当然だな♪ でもなぁ……」
「そんなに嫌ならしょうがない。寂しいけど、独りで頑張ってみるよ」
「ふっふっふっ♪ 何を頑張るんだろうね〜〜〜〜♪」
まるで私の運命を知っているかのように、ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべるハナナちゃん。ヤな感じだな。
野薔薇の王国で何が待ってると言うんだ。しかしハナナちゃんは何も教えてはくれない。
「ま、きっと会えるさ。また会えるって。オトっつぁんがこの世界に留まるならね」
ハナナちゃんにそう言われて思い出した。
そうだ。私はまだ何も決めてないのだ。この世界に留まるのか。自分の世界に帰るのか。それすらも決めてない。
そもそも自分にはどんな選択肢があるのか。それを確かめるための王国行きだしな。
先のことは分からない。
でも、ハナナちゃんを理由にこの世界に留まっても良いかな……と、考えている私がいるのも確かだ。
だから……
ん?
頭上で光るあの星はなんだ?
やけに明るいけど……
「なあハナナちゃん。あの星は何だ?」
「さあね。アタシにはサッパリさ」
「あれ? な、なんか…でかくなってないか?」
「は? なに言ってるの。星がでかくなるわけ……」
その星に照らされ、周りが明るくなっていく。ただの星ではない。一体何だ?
もしかして流星か? 流星が落ちてきてるのか? 落ちるって……どこに?
「伏せろオトっつぁん!!」
「え? え? なに?」
「この近くに落ちるっぽい! かと言って逃げてるヒマなんか無い! だから早く伏せるんだよ!!」
そう言うが早いか、ハナナちゃんは私の背中を強引に押してしゃがませる。
私はエコーちゃんが懐に潜り込んできたのを確認すると、うつぶせになって頭を押さえた。
ハナナちゃんは左腕で私の背中を掴んだまま、右横に伏せる。
しかし、すぐには何も起きなくて、もしや勘違いでは?……と思った矢先、それは来た。
凄まじい落下音と共に、激しい衝撃波が私達に襲いかかる。
伏せて眼を閉じていても、草木や砂土が飛ばされて行くのが分かる。
ハナナちゃんが背中を押さえていてくれなかったら、私も飛ばされていただろう。
静かになって顔を上げると、景色は変わり果てていた。
流星の落下地点を中心に、草木や入り組んだ獣道は吹き飛ばされ、あるいは放射状に倒されて、半径20メートルほどの円形の広場が出来ていた。
どうやら落下地点は甲羅岩の直上だったようだ。流星により無残に破壊された甲羅岩の成れの果てが見える。
しかしクレーターは無い。地面に激突する直前に、急停止した……という事なのだろうか?
かつて甲羅岩のあった場所には、流星の正体が、物理法則を無視して浮かんでいた。
それは…約2メートル四方の、黄金の立方体だった。