2-59 集う2 ~情報~
背後から突然、焼き付くような視線!!
私は思わず振り返るが、そこにはハナナちゃんとワシリーサさんしかいない。
「ん? オトっつぁん、どした?」
「顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか、お父様?」
「いや……大丈夫……多分気のせい……かな」
少なくとも敵ではない。もしも敵ならば、私より先にハナナちゃんが気付くものな。
じゃあもしかして、今の視線はハナナちゃん? もしくは…考えにくいけど、ワシリーサさんか?
うーん、分からん。
「あ、そうだ! なあカワズヒメ、ここ十日くらいの間で気になる情報とか無いかな?
アタシ、しばらく泉に篭もってたから、社会の動向とか何も知らないんだよ」
「まあ! そんなに長く泉に? でしたら、どうして隠れ里に遊びに来てくださらなかったの? いつでも歓迎いたしますのに、寂しいじゃありませんか!」
「ごめんって。ちょっとワケアリでね。隠れ里のみんなを巻き込みたくなかったんだ」
「巻き込む? 隠れ里を?」
そこでワシリーサさんは私の顔を見ると、途端に笑顔となり、両手をポンと叩く。
「なるほど、分かりましたわ♪ お父様と親子水入らずで過ごしたかったのですね♪ だから誰にも水を差されたくなかったと♪」
「ははははっ♪ そうだと良かったんだけどね♪ オトっつぁんと会ったのは昨夜なんだ」
「えっ!?」
ワシリーサさんは再び私を見る。その顔は驚きに満ちていた。
「どういうことですの? ハナナさん?」
「実はさ、お得意さんからの個人的な依頼で、禁忌の遺跡へ探索に行ったんだよ。
だけどその時、やばいトラップを踏んだみたいでさ。ほとぼりが冷めるまでと思って、泉に篭もってたわけ」
「禁忌の遺跡って……どうしてそんな、危険なところに…」
「しょうがないさ。アタシはフリーの冒険者だから。数少ないお得意さんからの依頼だもの。断れないって」
「それは…分かりますけれど……」
「大丈夫大丈夫。こう見えてもアタシ、逃げ足だけは速いんだぜ♪ シカクに追われたって逃げおおせてみせるさ♪」
二人の話を聞いているうちに、私は昨夜のことを思い出す。
泉に転がり落ちてきた私を、ハナナちゃんは刺客じゃないかと疑っていた。
「なあハナナちゃん、その刺客ってどんなヤツなんだ? 姿とか、能力とか、何か分からないのか?」
「いやぁ。それがサッパリ♪」
なるほどな。そりゃ独りで泉に篭もるわけだ。
「木は森に隠せ」ということわざのように、人混みに紛れた方が安全な気もするが、
もし刺客が『ターミネーター2』のT1000型みたいなヤツなら、人に変身して人混みに紛れるのは刺客の方だ。
ハナナちゃんにしてみれば、泉の方が地の利はあるし、独りなら誰も巻き込まずに済むものな。
………ああ、そうか。
隠れ里"コーガイガ"へ向かうのも選択肢としては有りかと思ったけど、ワシリーサさん達に迷惑をかける可能性があるならダメだな。
一方で、関所には"王宮戦士"とかいうとんでもなく強いヤツがいるらしいからな。やっぱり向かうのなら関所一択だ。
「そうですわね……。この一週間ですと……面白そうな情報はございませんね。昨日までですと特には……」
「なんだよもったいぶっちゃって♪ 昨日までは無いって事は、今日になって、とびっきりの情報が来たってことじゃねえの?」
「えへへ、お分かりですか〜?」
嬉しそうに微笑むワシリーサさん。ハナナちゃんとの会話を心から楽しんでいるようだ。
「実は今日、ハナナちゃんの故郷の"野薔薇の王国"から、凄いお話が飛び込んできました!」
「えっ! なに? なに? タレイア姫の結婚が決まったとか?」
「そのようなおめでたい情報でしたら良かったのですけれど……残念ながら違いますわ」
「じゃあ、良くない情報なのか…」
「そうですわね。確かに王国にとっては良くない情報です。ですが、王国以外には吉報かもしれませんわ♪」
「焦らさないで話せよ〜」
「聞いて驚かないでくださいよ♪ "野薔薇の王国"は、数日前から"移籍召喚の儀"を執り行ってましたのっ!」
「えっ!? マジでッ!?」
「はい。王国からの公式発表ですので、間違いございません♪」
ハナナちゃんはもちろん、私も驚いた。とは言っても、驚いたのは王国が儀式を行ったからではない。その情報が公になっている事だ。
「そ、それで? 儀式はどうなったの?」
「はい。儀式は成功し、ガングビトはオトギワルドに召喚されました。ところが……」
「ところが?」
「召喚されたガングビトは、何故か王国の神殿には顕現されず、現在行方不明なのだとか。オトギワルドに召喚された事だけは確実なのですが」
「そ、そうなんだ」
「王国で独自に捜査したものの、ガングビトは見つかりません。そこで今日になり方針を一変。一般公開して情報を広く求める事にしたそうですの。
ガングビトを無事に保護し、王国に届けてくれた方にはもちろんですが、発見に結びつく情報を提供しただけでも多額の謝礼金を出すとの事です。
提示された金額が目が飛び出しそうなくらい多額でしたから、今、冒険者界隈は大騒ぎですわよ♪
それこそ血眼になって、召喚されたガングビトを探し回ってますわ♪」
「へ、へぇ〜〜〜。そうなんだ」
話し終えたワシリーサさんは、チラリと一目私を見ると、"にぱり"と笑った。
意味深な微笑みに、流石の私も確信する。
バレテ〜ラ♪