2-57 集う2 ~蛙の姫~
ワシリーサか……。
とあるシリーズに同名キャラがいるようだが、詳細は知らない。
個人的にはロシア民話の方が馴染み深いかな。
『うるわしのワシリーサ』『竜王と賢女ワシリーサ』など、繋がりのない複数の作品で、女性主人公にその名が与えられている。
男性主人公の多くがイワンであるように、ワシリーサもロシアでは一般的な女性名なのかもしれない。
……そう言えば『カエルの王女』のヒロインもワシリーサだったな。偶然の一致か? それとも必然だろうか?
「ワシリーサさん。ちょっとよろしいですか?」
「はい。なんでしょう? ハナナさんのお父様♪」
「あのですね…」
話し始めようとしたその時、道の向こうからギチギチギチと異音が響きだす。
異音はどんどん大きくなり、やがて一匹の"掃除屋"が姿を現した。
"掃除屋"は私達に興味を示すこともなく通り過ぎ、反対の道へと向かうと、音と共に消えていった。
「……それで、お話はなんでしょう? ハナナさんのお父様♪」
「あ、はい。そうでしたそうでした」
我に返った私は、改めて話し始める。
「ワシリーサさんは平気なのですか? この森には怪物が沢山いるでしょう? 怖くないのですか?」
「お気遣いありがとうございます。でも、ご心配には及びません。ワタクシには"ライア"がいますもの」
ワシリーサは石像蛙の頭を優しく撫でながら答えた。
「カワズヒメはね、生まれつき足が弱くて歩けないの。だから里のご神体の"ライア"と合体してるのさ」
がっ…合体…だと!? しかもご神体とだとっ!? 確かにこれは合体だな! ヤットデタマンの大馬神的な感じの。
「ああん、もう! ワタクシからお話しますからっ! 先に言わないでください!」
そうだぞハナナちゃん。解説はありがたいが、ネタバレになってはいかん。ネタバレ厨は嫌われるからな。
でも、おかげで理解できた。
彼女は、石渡の術を応用してライアと合体し、ゴーレム使いの能力を併用する事で、移動手段と攻撃手段を手に入れたのだ。
「確かに"深キ深キ森"は危険でいっぱいですし、森に仇なす敵には容赦ありません。でも、"ハグレモノ"にはとても優しいのですよ」
「ハグレモノ?」
そう言えば、ハナナちゃんも似たようなことを言ってたような……
「ワタクシはこの森で、森の奧にある隠れ里で生まれ育ちましたから、"番犬"も"掃除屋"も怖くありません。むしろ森の外の方が怖いです」
森の外……つまり、人間の世界か。あくまで個人の感想なのだろうけど……そうか、怖いのか。
もうじき関所に着くというのに、ヤな事聞いちゃったな。怖じ気づいてしまいそうだ。
とはいえ、私には他の選択肢なんて無いわけだし……。
ん? いや、まてよ? もしかしたら、他の可能性があるかも?
「ワシリーサさん。ちょっとよろしいですか?」
「はい。なんでしょう? ハナナさんのお父様♪」
「参考までに聞きたいのですが、ワシリーサさんが住んでいる里はどんなところなのでしょう?」
「ワタクシの? それは……構いませんけれど、隠れ里の何をお知りになりたいですの?」
「そうですね…。例えば、歴史とか…」
「まあ、変わったことにご興味があるのですね♪ まるで偉い学者様みたい♪」
驚くワシリーサさんは嬉しそうだ。
「だろ〜♪ オトっつぁんはすげぇんだぜ♪ メッチャ頭が良いんだから♪」
すかさず相づちを打ってくるハナナちゃん。プレッシャーに押し潰されちゃうから、あまり持ち上げないでほしい。
「では、ワタクシの知る里の歴史を、簡単にお話いたしますね♪」
「よろしくお願いします」
「ワタクシの生まれ育った隠れ里の歴史を紐解きますと、今から四百年もの昔までさかのぼる事になります」
「それは凄いですね! そんなに古くからあるのですか」
「大したことはございませんわ。ハナナさんの"野薔薇の王国"なんて。五百年の歴史がありますのよ」
「王国なんて関係ないよ。カワズヒメと違ってアタシは何も背負ってないもん」
「え? それって……?」
「何しろ隠れ里を仕切る頭領の娘だかんね」
「つまり……どういう事?」
「つまり、"カワズヒメ"ってのはただのあだ名じゃないって事。本物のお姫様だからね」
「もぉ〜! 止めてくださいハナナさん!
ワタクシは王族なんかじゃありません! お父様が里の頭領ってだけで、ただの女の子です!
ああっ、もう! ハナナさんのお父様も、かしずかないでください! 恥ずかしいですからっ!」
顔を真っ赤にしながら止めようとするワシリーサさん。とっても可愛いです♪