2-56 集う2 ~事情~
うわっ…私の年収、低すぎ…? …じゃなくてっ!
なんで私がハナナちゃんのお父さんにっ!?
……いや、そうなるか。そうなるよな。
私は自己紹介してないし、年相応だ。しかもハナナちゃんは、親しげに「オトっつぁん」と連呼してる。こりゃ、親子と思われて当然だわ。
早く誤解を解こう。これじゃ、カワズヒメはもちろん本物のお父さんにも失礼だ。
「いや、私はハナナちゃんの父……」
そこでハナナちゃんの行動が目に止まり、私は言葉が続かなくなってしまう。
は? おまっ! ちょっと待てや!
カワズヒメの背後に回ったハナナちゃんは、ウィンクしながら口の前に人差し指を突き立てていたのだ。
ナイショ…だと!? 私にカワズヒメを騙せとおっしゃるかっ!?
すると今度は広げた両手を前で重ね、お願いポーズをして来やがった。しかし美少女がお願いポーズしてるのに、ちっとも可愛くない。
それもそのはず。ハナナちゃんの口元は終始ニヤニヤと笑っていたのだ。
このイタズラ娘がぁぁぁ!!! カワズヒメを非難してたくせに、お前もやるんか〜い!!!
しかも私を共犯にして巻き込むとか、大概にしろやぁっ!!
「……どうかいたしましたの? ハナナちゃんのお父様」
「え!? いや! その! なんと言いますか……」
「?」
私の視線に気付いたカワズヒメは、振り返ってハナナちゃんを見る。
するとハナナちゃんは、明後日の方向を見ながら口笛を吹き出した。お前っ! アカラサマすぎるだろうがお前っ!!
「どうしましたの? ハナナさん?」
「別に。何でもないよ♪」
「そう……ですの?」
カワズヒメの注意がハナナちゃんに向いた! 今のうちに、どうするか決めないと。
これがただのイタズラなら、無理に付き合う必要はない。むしろすぐにバレるような嘘をつきまくってのもアリだろう。
だけど、ハナナちゃんに何かしらの事情や意図があるなら、迂闊なことは話せない。
しかもカワズヒメは、頭も察しも良さそうだ。嘘をつけばすぐに見破ってしまうだろう。
つまり、嘘をつかずに切り抜けるしかない。
どうする? なんと答える? 考えろ、雄斗次郎!
「あの……カワズヒメさん」
「あ、はい。いかがなさいました? ハナナさんのお父様」
「私達のことは、どうか内密にお願いします」
「え!?」
驚いたカワズヒメは、私とハナナちゃんを交互に見つめ、困惑する。
そして………
全てが腑に落ちたような笑顔になるのだった!!
「まあ! まあ!! まあ!!! そういう事でしたのね!」
は? え?
そういう事って、どういう事?
「ハナナさんのご家庭も、複雑な事情を抱えてますものね」
複雑な事情!? 複雑な家庭の事情って何よっ!?
いや、でも、たしかに……
よっぽどのことでもなきゃ、年頃の可愛い女の子がヘンな格好で危険な冒険者してるわけ無いよな。
ハナナちゃんを見ると、苦笑いを浮かべている。
苦笑いで済むレベルなのか。それともハナナちゃんが強がってるだけなのか…
「分かりましたわ♪ ここでお会いした事は、全てワタクシの心に留めておきます♪」
「助かります。ありがとう、カワズヒメさん」
「ハナナさんのお父様、よろしければワタクシのことは、ワシリーサとお呼びください」
「ワシリーサ…。それが本当のお名前ですか」
「はい。北の国で生まれた母の名をいただきました。ワタクシを産んで、間もなくして天に召された母の……」
彼女もまた、複雑な事情を抱えているようだ。みんな、大変だな……。
あれ? ハナナちゃんが目を丸くしてる。
何を驚いてるんだ?
「えっ!? マジ!? カワズヒメって、本名じゃなかったの〜〜〜っ!?」
「ハナナさん、ヒドイですぅ!!」




