2-55 集う2 ~光粒~
ハナナちゃんはカワズヒメをグリグリ攻撃から解放すると、今度は質問攻撃を始めた。
確かに情報は大切だ。とはいえ女の子同士のプライバシーなわけだし、オッサンとしては遠慮すべきなのだが……
困ったことに、腰が抜けて身動きが取れないんだな、これが。
二人の秘密が全部ダダ洩れちゃうわけだけど、せめて会話の邪魔にならないよう、黙っていよう。
「…って言うかさ、なんでこんな所にいるの? 隠れ里から抜け出したら、親父さんから大目玉食らうんだろ?」
「そう! それなのです! 聞いていただけますか、ハナナさん! お父様ったら酷いんですのよ!」
「お、おう。何があったの?」
「お父様とは今日一日、いっぱい遊ぶ約束をしてましたの。指切りだってしましたのよ!
ですのに『火急の仕事が入った』とおっしゃって、昨夜お出かけしたっきり、帰ってくださらないの!」
「そりゃあ、仕方ないんじゃないかな。雇われの身なんだし。お得意先からの依頼だったりしたら、断るのは難しいって」
「おまけに、腕利きの忍び衆を全員連れて行ってしまいましたから、誰も遊んでくださらないの!」
「隠れ里の腕利きを? 昨夜から全員? マジで!?」
「若い見習の子はおりましたけれど、未熟者がお相手ではうっかり死なせてしまうかもしれないでしょう?」
「確かに、フロッグゴーレムに下敷きにされたら、怪我じゃ済まないだろうな」
「ですからワタクシ、暇潰しに隠れ里の周囲を散策してましたの。そうしたら、変わったアーティファクトを抱えた、不思議なベル妖精を見かけまして」
「あ〜〜〜〜〜。そういう……」
「何処に向かうのか気になったのですけれど、ワタクシの"ライア"ではぴょんぴょんカエル跳びするでしょう?
ですから気付かれないよう、石渡の術でコッソリ追跡しておりましたの。
そうしたらビックリ! 大好きなハナナさんがいるではないですか♪
これはもう、絶対ビックリさせて上げなくてはと♪ 使命感に燃えておりましたの♪」
「最後は余計だっつーのっ」
……なんというか、とても女の子らしい、かわいくて微笑ましい会話だね。うん。
あれ? そういえば… あれ?
エコーちゃんは何処だ?
辺りを見回すが、彼女はどこにもいなかった。そうか…。ビックリして逃げてしまったのか……
いや、それで良かったんだろう。エコーちゃんにとってはその方が幸せなんだよ。きっと。
でも……寂しいなぁ……
「お〜い、おとっつぁ〜ん。胸元見て。胸元」
「は? 胸元? なんでまた……」
「いや、アタシやカワズヒメのじゃなくて! 自分の胸元を見ろって言ってんの!」
「へ? 自分の?」
見ると私の左胸が光っている。上着をめくると、エコーちゃんが心配そうに私を見上げていた。
なんだ。こんな所にいたのか。そうか。ははは…。
お別れじゃなくて良かったよ。
「オトっつぁん、まだ腰は治らない?」
「ああ、うん。ごめん。痛みはないんだけど、力が入らなくてさ。じきに直るから、もうちょっと待っててくれな」
突然、エコーちゃんが胸元から飛び出した。そしてホバリングだろうか? 私の頭上に羽ばたきながら静止する。
何事かと見上げていると、エコーちゃんはいつも以上に輝きだし、小さな光の粒を落とし始めた。
「わっ、な、なんだ?」
「大丈夫だよ、オトっつぁん。そのままじっとしてて。エコーはオトっつぁんの腰を治す気なんだ」
降り注ぐ光の粒は、暖かいような、穏やかな光で、心の疲弊も癒されていくようだった。
そしてエコーちゃんの光が元に戻ると、私も腰に力が入れられるようになっていた。
「すごい! 腰が元通りだ! これが回復魔法なのか!?」
立ち上がった私に、ハナナちゃんが説明してくれる。
「使い魔じゃないから高レベルの魔法は使えないけど、ちょっとした怪我なら治せるって聞いたよ。
もっとも、治してくれるかどうかはその子の気分次第だけどね」
カワズヒメも驚いた顔で呟く。
「驚きましたわ。使い魔でもないベル妖精に、ここまで懐かれるなんて……。お父様は不思議な方ですのね」
は? おとうさま? 私が?
「お〜い、なんでオトっつぁんがヒメの親父なんだよ」
「あ、いえ、違いますの。大変失礼いたしました。ワタクシのお父様のわけありませんね。訂正いたします♪」
そして、カワズヒメは微笑みながらこう言い直すのだった。
「ハナナさんのお父様♪」