2-53 集う ~責任~
「うーむ、分からん」
「ウーム、分カラン」
私が腕を組みながら呟くと、エコーちゃんも飛びながら腕を組みながら呟く。かわいい♪
「何故なんだ~」
「何故ナンダ~」
私が大げさに頭を抱えると、エコーちゃんも飛びながら大げさに頭を抱える。かわいい♪
「………オトっつぁん、何やってんの?」
「いや、楽しくてさ♪」
「イヤ、楽シクテサ♪」
私の言葉だけでなく、仕草まで真似るようになったエコーちゃん。めっちゃかわいい♪
「まあ、楽しいならいいんだけどさ、そろそろ出発していい?」
「いいね。出発しよう♪」
「イイネ。出発シヨウ♪」
「その前に確認。エコーは連れて行くの?」
「えっ? どういうこと?」
「エッ? ドウイウコト?」
「その子が誰かの使い魔だったら、人間並みの知性を持つはずなんだ。
でもその子は見た感じ、脳筋のアタシよりもバカっぽい」
「自虐的だね」
「自虐的ダネ」
「だけど、野性の妖精にしては人に慣れすぎてる気がするんだよね」
「それって?」
「ソレッテ?」
「以前誰かに飼われてたけど、逃げ出したか、捨てられたんじゃないかって」
「つまり…野良妖精ってこと?」
「ツマリ…野良妖精ッテコト?」
「多分そうだと思う。もしかしたら、バカのふりしてアタシ達を騙してるのかもしれないけどね」
確かにハナナちゃんの言う通りだ。
私もエコーちゃんがやけに懐くので不思議だったのだ。
ハンカチを貰って嬉しかったのかもしれないが、だとしても懐きすぎな感じはする。
でも、それと出発と何が関係するんだ?
「これから向かうのは国境沿いの関所だけど、オトっつぁんは、そこから更に"野薔薇ノ王国"へ行くつもりなんだろ?」
「そうだけど…」
「ソウダケド…」
「人の世界に連れて行くなら、オトっつぁんはその子の"飼い主"として、管理責任が出てきちゃうって事」
「あー…」
「アー…」
つまり必要なら、首輪を付けたり、紐や鎖でつないだり、檻に入れなくちゃいけないって事か。
こんなに愛らしくて、しかも女の子の姿をしているのに、ペットや家畜と同列に扱わないといけないなんて……。
「ラスカルは僕の友達なんだ!」と訴える、スターリング少年の気持ちが、ちょっと分かった気がした。
「街で飼うのメンドクサイ!…とか、檻に入れたら可哀想!…とか思うんだったら、このまま自然に帰した方が良いと思うよ。
逆に、別れるのが寂しい!…とか、妖精を逃がすなんて勿体ない!…とか思うなら、このまま連れて行っても良いし。
考える時間はまだあるけど、放すなら早い方が良いよ。人里に近いと他の人間に捕まえられる可能性が高くなるから」
「ええぇ…」
「エエェ…」
どうしよう…。
見知らぬ世界に迷い込んで約一日。知り合いはまだ2人しかいない。そして最初に会ったのがエコーちゃんだ。
命の恩人で恩義を感じるし、しかもメッチャ懐いてくるので情が移りまくってる。
この子のためだと思っても別れるのは辛い。慣れない好意に当てられて、私はすっかり寂しがり屋になってしまったようだ。
とはいえ、檻に入れてしまうのはなぁ……
ん? 待てよ? そうだ! そうだよ!
エコーちゃんの自由を守る方法ならあるじゃないか!
「えっ!? オトっつぁん、マジで言ってるの?」
私の提案に、ハナナちゃんは目を丸くした。
そんなに驚くことなのかな?
「いや、確かに、鎖も檻も必要無くなる。オトっつぁんの使い魔にするならさ。
でも、大変だよ。オトっつぁんが"本物の魔法使い"にならないといけないんだもん。
"モグリの魔法使い"なら誰にでもなれるけど、"本物の魔法使い"となるとね。修行も、勉強も、人間関係も厳しいから……」
「そうか…」
「ソウカ…」
修行や勉強はともかく、人間関係が厳しいのは辛すぎるな。聞いただけですでに心が折れそうなんだが…。
「でも……そうだな。
オトっつぁんが本気で"本物"を目指すって言うなら、アタシは応援するぜ♪」
「ありがとう、ハナナちゃん」
「アリガトウ、はななチャン」
よし、決めた! ひとまず関所までは連れて行こう。そこでこの世界の現実を見極める。
どうせもう一息で到着だしな。今ここで別れるのも、関所で別れるのも大して変わらないさ。
「そっか。連れて行くのか。じゃあ、オトっつぁんがこの子の"飼い主"として責任持ってもらうけど、いいよね?」
「ああ、いいよ」
「アア、イイヨ」
「じゃあ早速なんだけど、"飼い主"のオトっつぁんに頼みたいことがある」
「え? なに?」
「エ? ナニ?」
「なんとかしてエコー・ベルを黙らせてくれないかな」
「え〜〜〜〜!!」
「エ〜〜〜〜!!」
「それだよそれ! 甲高い声でオトっつぁんの真似をするのが、ほんっとウザイの!
ここで別れるならと思って我慢してたけど、これ以上はもう限界! 何とか黙らせて! 頼むから!」
あ〜、そっか〜。
異性の私には萌え萌えキュンな癒しボイスでも、同性のハナナちゃんには騒音でしか無かったのね。
確かに犬の鳴き声と同じで、ご近所トラブルに発展しかねない由々しき問題だ。
こういうのもエコーちゃんを人里に連れて行くリスクなのか。まいったなぁ。
やまびことしての特性を否定せねばならないなんて、エコーちゃんが可哀想すぎる。
でも、何とかするしかない。ここでダメなら人里ではもっとダメだもんな。
ハナナちゃんがエコーボイスを避けて距離を置く中、私は甲羅岩の側でエコーちゃんに説得を試みることにした。
私の言葉が理解できているのかは分からないが、幸いにもエコーちゃんは心が読める。
私が困っているという事には気付いてくれたようだ。声を返したくてたまらないのに、必死で我慢するようになった。
本当にゴメンよ、エコーちゃん。後で必ず機会を作るから、その時こそ…
いっぱい喋ろうな。いっぱい唄おうな。約束だ。
エコーちゃんの説得に無事成功し、ホッと胸をなで下ろし、ハナナちゃんを呼ぼうと振り返った時、何かが視界に入った。
甲羅岩に肌色の何かが見えた気がしたのだ。思わず私は二度見する。
そこにはお面があった。甲羅岩の側面にお面がかけられていたのだ。
いつからここにかけられていたのだろう? ハナナちゃんの私物だろうか?
少年のようにも少女のようにも見える幼い顔立ちで、生々しさを感じるほど精巧に作られている。
材料はなんなんだ? 目が離せなくなった私は、お面に触れてみようと間近に歩み寄る。
すると…
それは"にぱり"と笑った。
私を見つめ、可愛らしく笑いかけてきたのだ。
これにてクライマックスエピソードの"起"が終了しました。
ようやくエコーちゃんが合流です。良かった良かった。
そして"承"がスタートします。
甲羅岩にかけられた笑うお面の正体とは?
次回『集う2 〜人面〜』