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2-52 集う ~ドレス~

 …………。

 はっ!


 いかんいかんいかん! つい見とれてしまった。

 これが普通の女の子であれば、上着なり毛布なりを被せてやるところだが、生憎エコーちゃんには大きすぎる。

 だけどリュックに、エコーちゃんのサイズに合う布物なんてあったっけ?

 シャツやトランクスは問題外。靴下はサイズ的には良いが……使い古してるのを渡すのはなぁ。

 じゃあティッシュは……? 透けるし、水に弱いし、破れやすいし……うん、ゼンゼンダメだ!

 あっそうだ! あれがあったじゃないか! 出発前に持ち物検査をしておいて良かった。

 リュックから取り出したのはハンカチだ。茶色のチェック柄で、幸いにも新品である。

 ハンカチをエコーちゃんに被せてやると、「えっ」と驚いた顔になり、私とハンカチを交互に見始める。気に入らなかったのかな?

「オトっつぁん、もしそのハンカチが大切な物なら、ベル妖精には渡さない方が良いぜ。ビリビリに破かれちまうからな」

「誰かからの贈り物って訳でもないし、別に構わないけど……」

「良かったなエコー。材料にしていいってよ♪」

「材料? ハンカチで一体何を作るんだ?」

「決まってるだろ? ドレスだよ、ドレス」

「へ?」

「ベル妖精ってさ、自分が着るドレスは自分で作るんだぜ♪」

「え! 自作するの? この場で?」

「流石に人前じゃ作らないかな。作ってる間は無防備だし、何より集中できないから」

「なるほどな。なんか分かる」

 私も昔、同人イベントに行った時、スケブを頼まれても全部断っていたな。あんな賑やかな場じゃ集中できなくて、絵なんて描けなかったよ。

「どこかに落ち着ける穴でもあれば、すぐにでも作り始めるんだけどね。オトっつぁんが構わないなら、リュックの中でも大丈夫♪」

 ああ、なるほど、さっきまでウェストポーチにエコーちゃんを入れていたのは……そういうことか。

 エコーちゃんはハンカチを抱きしめ、じっと私を見ている。「本当にいいの?」と返事を待っているようだった。

「いいよ。あげるよ♪」

「イイヨ。アゲルヨ♪」

 エコーちゃんは嬉しそうに言葉を返すと、私の掌から跳び上がり、リュックの中へと飛び込んだ。

 あのハンカチで、どんなドレスを作るんだろう。でも、茶色のチェック柄って、妖精が着るドレスにしては地味すぎだよな。

 ホームズや小公女に出てきそうな、大英浪漫溢れる渋めな感じになるのだろうか……。

 まあ、それはそれとして。

「で、ハナナちゃんよ」

「え?」

「何があったの! 何でエコーちゃんの服がボロボロなのよ!」

 もしかしてハナナちゃん、エコーちゃんに酷いことしたのか!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!

「いや……それが……何というか……」

 ハナナちゃんは気まずそうに白状した。

「そいつが敵かどうかはっきりさせるには、正体を確かめるしか無いだろ?

 で、正体を確かめるには、捕まえるしか無かったんだ。

 だけどベル妖精ってさ、結構逃げ足が速いのよ。迂闊に近づけばすぐに逃げられちまう。

 だから、アタシの出せる最高速度で捕まえるしか無かったわけ。

 ここまではいい?」

「う〜ん…」

 私的にはエコーちゃんの声が聞けた段階で十分だったけど、ハナナちゃんはエコーちゃん自身も疑ってたもんな。

 何か決定的な証拠がほしかったってワケか。

「…いいよ。続けて」

「でまあ、成功したんだけどさ、エコーのドレス、花びらで作られてたから、捕まえた瞬間に簡単に破れちゃったんだよ。

 破れたのはもう仕方ないから、とりあえず何か手掛かりはないかと探してたらさ、見慣れない茶色い板が落ちてたのよ」

「それで私の携帯か」

「そう。見たこと無いカタチしてたからさ、一目でオトっつぁんの落とし物だと気付いて、オトっつぁんの説明を思い出してさ。

『あちゃ〜、やっちまった〜〜〜』って」

 な〜にぃ〜〜〜!? やっちまったなぁ!!!! ……クールポコの芸風、嫌いじゃないです。

「いつまでもオトっつぁんを1人には出来ないし、エコーもそのままにはしておけなかったから、目に付いた花を摘んで、エコーと一緒にポーチに放り込んで、急いで戻ってきたってワケ」

「なるほど……」

 とりあえず経緯は把握したけど……。エコーちゃんの扱いが酷すぎないか? それってつまり……

「それで……謝ったの?」

「え、あ、うん。ごめんオトっつぁん。アタシが悪かった」

「いや違う。そうじゃない。私じゃなくてさ、エコーちゃんに謝ったの?って聞いてるんだよ」

「は? なんでベル妖精なんかに謝らないといけないんだよ!」

 あー…… なるほどなぁ

 ハナナちゃんにしてこの反応なのか。色々察しちゃったよ。

 どうやらベル妖精に人権は無さそうだ。この世界の人間にとってはペットか家畜……もしくは害獣扱いなんだろう。

 ハナナちゃんが私に謝ったのも、私がエコーちゃんの飼い主的な立ち位置だと思ってるからなんだろうな。

「嫌ならいいよ。無理強いはしない。

 ハナナちゃんがドレスを破いたことをエコーちゃんに謝ってくれるなら、私は嬉しいなって…そう思っただけだからさ」

「それって自己満足ってヤツ?」

「…そうだね。これはただの自己満足だ。だから忘れてくれていい」

「………ったよ」

「え?」

「わかったって言ったの! リュックから出来て来たら、ちゃんと謝るよ」

「本当に?」

「本当だって。言ったからには約束は守るよ」

「そうか♪ 嬉しいよ。ハナナちゃん、ありがとう♪」

 いかんな。ハナナちゃんに気を使わしてしまったようだ。

 感情が素直に顔に出ちまうからなぁ。めっちゃ落胆してたんだろうな。ごめんな、ハナナちゃん。

 その時、背後でリンと鳴った。ベル妖精の羽がこすれた時に出る音だ。

「早いな。もうドレス出来ちゃったのかよ!」

 振り返ると、リュックの上にエコーちゃんが立っていた。

 驚いた。

 エコーちゃん新しいドレスは、私がイメージしていた通り、19世紀末の大英浪漫に溢れていたのだ!

「ああ、オトっつぁんは知らなかったか。ベル妖精って人の心を読めるんだよ」

「えっ!? そうなの!?」

「エッ!? ソウナノ!?」

「だからオトっつぁん好みなドレスに仕立てたんじゃないかな」

 好み……。確かに露出度が少なくて、シックで品があって、めっちゃ好みではある。

 これは確かに嬉しいサプライズだが、同時に背筋に冷たいものが走った。

 もし私が世間様に話せないような変態性癖の持ち主だったら、とんでもないドスケベファッションに身を包んでたって事なのだから!!

 オソロシイ……ワタシハトテモ、オソロシイ……


 言うまでもないが、この後、ハナナちゃんはちゃんと約束を守ってくれた。さすがは男気溢れる美少女である。

なんとか3/7に間に合いました

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