2-50 集う ~韋駄天~
「ヤッホーー!!」
すぐにエコーちゃんが可愛い声で返してくるぞ! 叫んだ私はすぐさま聞き耳を立てる。
すぐに…………聞こえて……………こない。
あれ?
待てども待てども、エコーちゃんの声は聞こえなかった。
あれれ〜? おっかしいぞ〜〜〜。
反応が無いということは、エコーちゃんじゃない?
ってことはつまり……ふえええ
「ん? おとっつぁん、どうした? なんでションボリしてるの?」
「ハナナちゃんどうしよう。あのベル妖精、敵で確定かも…」
「は? 呼び始めたばかりだろ。なんだってそうなるのさ」
「だって大声で叫んだのに反応が無いんだよ。私の知らないベル妖精なんだよ、きっと」
「いや、待て、オトっつぁん。ちょっと待ってくれ。この際敵か味方かはどうでもいいや。
今、オトっつぁん、大声って言ったか?」
「え、あ、うん」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ! どこが大声なんだよ! 蚊が鳴いてるかと思ったわ!」
「ええ……」
「あのベル妖精は、オトっつぁんの目じゃ見えないくらい遠くにいるんだよ! そんなちんけな声じゃぜんっぜん届かねぇっての!
腹に力入れて、恥ずかしがらずに全力で声をはき出せやっ!」
「は、はい!」
不甲斐ない私に苛立ったのか、大声にこだわりがあるのか、ハナナちゃん軍曹の熱血指導が始まった!
……な、なんだか、妙な事になっちまったな。
でもまあ、エコーちゃんに呼びかけるには必要な事だし、今は流れに身を任せるとしよう。
「ヤッホーー!!」
「ゼンゼンダメ! やり直し!」
「ヤッヤッホーーーーー!!!」
「大声ナメとんのか~~~!! 死ぬ気でやれや〜〜!!」
「ヤッホーーーーーーーーーー!!!!!」
その時だ。
「やっほーーーーーーーーーー!!!!!」
遠くから声が返ってきた。
可愛らしい女の子の声。間違いない。エコーちゃんだ!
さっきまで鬼軍曹だったハナナちゃんは、ハッと我に返ると三度甲羅岩に張り付く。
「今の大声をもう一度だ、オトっつぁん!」
そろそろ喉が限界で、大声を出す途中で咽せてしまったが、エコーちゃんは咽せた声まで真似てくる。
「ハハ、昨夜と同じだ。間違いないよハナナちゃん。あれはエコーちゃんだよ」
何故だろう。昨夜の出来事なのに、ずっと昔だった気がする。濃霧や暗い森の中、エコーちゃんの声だけが希望だったな…。
ハナナちゃんも警戒を解いたようで、甲羅岩から離れ、見晴らしの良さそうな開けた場所に移動していた。
「うん。光もどんどん近づいてきてる。あともう少し近づいてくれれば、声以外でも確かめられると思うよ♪」
退屈しているのか、屈伸しながら話すハナナちゃん。待つのは苦手なのかな?
私はエコーちゃんの反応を楽しんでいたので、退屈するヒマなんて無かったが…。
「ハナナちゃんもやってみる?」
「アタシはいいや。そりゃ、オトっつぁんのおっさん声が女声で返ってくるのは面白いよ。でもアタシとエコーじゃ、どっちも女声で変わり映えしないもん」
そう言いながら、ぴょんぴょん跳ねるハナナちゃん。本当にヒマそうだ。まるでスポーツ選手が本番の前に準備体操をしているような………ん?
これはもしかして………本当に準備体操をしているのでは?
「オトっつぁんってさ、"掃除屋"や"親衛隊"に襲われた時の事って覚えてないんだよね? アタシの大活躍とかさ」
「うん。残念ながら…」
「だからさ、アタシの"チカラのヘンリン"ってやつを見せたげるよ。これからね♪」
そう言うとハナナちゃんは、足場を確かめながら前屈みにしゃがみ、見覚えのある姿勢になる。
それは陸上競技で見かける……確か、クラウチングスタートだっけか?
「さて、そろそろ頃合いかな。じゃあオトっつぁん、ちょっと行ってくるね」
「行ってくるって、何処に?」
しかしハナナちゃんはその質問には答えず、代わりにゴッと音を立てるほどの大風が吹いて、思わず私は目をつぶってしまう。
目を開けた時には、ハナナちゃんは消えていた。