2-49 集う ~閃き~
「とはいったものの……どうすりゃいいかねぇ」
先ほどの威勢は何処へやら。しゃがみ込んだハナナちゃんは弱音をこぼし始める。
「実はさぁ、確かめる方法が無いんだよね〜」
「へ? 無いの?」
「うん。思いつかない。だからオトっつぁんさ、何か無いかな、良いアイデア」
「いきなり無茶振りされても困るんだが。それで、何が問題なのさ」
「一番の問題は距離だね、アタシが目を凝らしても、弱い光しか見えないくらい遠いから」
「それってどれくらいの距離……いや、この質問は意味無いか。
え〜っと、つまり、今の距離だとどうにもならないって事は、エコーちゃんとの距離を縮めれば良いんだよな。
例えば、そうだなぁ……ハナナちゃんがエコーちゃんに向かって全速力で走ってみる。するとどうなる?」
「すっごい遠くからアタシらを見てるようなヤツだぜ? すぐに気付かれて逃げられちゃうね」
「確かに、武装したお姉さんが全速力で迫って来たら、私でも怖いからな〜♪」
「オトっつぁんみたいに腰を抜かしてくれたら、アタシも楽なんだけどね〜♪」
「つまり、エコーちゃんを追い払う事は出来るけど、正体を確かめられる距離まで近寄るのは無理と」
「うん。それくらい離れてるからね」
「となると逆に、エコーちゃんの方から近づいてもらうか?」
「そこまではアタシも考えたんだ。おびき寄せるしかないって。でねも、アタシの頭じゃ方法が思いつかないの」
「そうかぁ…そうねぇ…そうなると……
なあハナナちゃん、そもそもエコーちゃんが近づかないのは何でだ?」
「気付かれてもすぐ逃げられるよう、遠くから監視しているってのがアタシの説。
で、オトっつぁんと仲良くしてるアタシに遠慮してるってのが、オトっつぁんの説。
な〜んだ、どっちにしてもアタシが原因じゃん」
「ってことは、ハナナちゃんがいなくなれば、エコーちゃんは近づいてくる……のかな?」
「…かも、しれないね。で、オトっつぁんどうする?」
「ハナナちゃんが気配を殺して、どこかに隠れるってのはどうだろう?」
「確かに野良ベルなら騙せるかもしれないね、でも、ベル妖精は使い魔になった途端、めっちゃ頭が良くなるからね。アタシが突然いなくなったら余計に警戒されるのがオチだよ」
「じゃあね……、実際に私から離れて、別行動を取ったふりをしてみるのはどうよ?」
「あんなにすっごい遠くから見てるヤツを騙すとなると、オトっつぁんからすっごいすっごい離れないと無理かな。
でもその間、誰がオトっつぁんを護るのさ? 自分の身は自分で護れる?」
「ごめんなさい。"掃除屋"一匹でも私には無理っす」
「だよね〜。だからアタシも行き詰まってるの。他の方法、何か無い?」
「他の方法かぁ………う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
私は腕を組んだり、頭を抱えたり、とんちを働かせようと一休さんのように座禅を組んだり、あばれはっちゃくのように逆立ちしてみるが,
ハナナちゃんからの視線が痛くなるばかりで、何も閃かない。
はっ!
ま、まさか!!
なんてこった……大変な事に気付いてしまった。
特捜戦隊デカレンジャーで、センちゃんが推理をする時逆立ちするのは、あばれはっちゃくリスペクトだったのかっ!?
そうだ! きっとそうに違いない!!
元の世界に無事戻れたら、ツイッターで呟こう、そうしよう。
………………。
くそっ! 私のバカバカバカ!
どうしてこういう時に限って、必要の無い閃きが下りて来ちゃうんだよ!
個人的には大事だけど!
個人的にはすごく大事だけど!!
「だ、大丈夫かオトっつぁん! 考えすぎで頭でもおかしくなっちまったか?」
「は、ははは、あ、ありがとうハナナちゃん。私は大丈夫だ。うん」
改めて整理する。
考えるのはエコーちゃんを呼び寄せる方法……。
何故呼び寄せる?
呼び寄せないと、遠すぎて正体を確かめられないから。
つまり、呼び寄せるのは手段である。
成すべき目的は光の正体を確かめる事。エコーちゃんで間違いないと裏付ける事。
………あれ?
これって、別に呼び寄せなくても可能じゃね?
「思いついた。……ていうか、思い出した」
「おおっ! 流石オトっつぁん!」
「ようするに、エコーちゃんだと確認できたら良いんだろ」
「そりゃそうだけど…。で、どんな方法なのさ?」
「簡単だよ。呼びかけるのさ」
「は? 呼びかける? それだけ?」
「だってあの子はエコーだよ? 木霊だし、ヤマビコなんだよ? こっちから大声で呼びかければ、可愛い声で返してくれるさ」
「ああ、そうか! 他のベル妖精と混同してた。確かにエコー・ベルならそうする! きっとそうする!」
「じゃあ、早速試してみようか?」
「そう……だね。うん、確かめてみよう。でも、ちょっと待ってね」
ハナナちゃんは再び甲羅岩に張り付き、そっと覗いた。
「うん、大丈夫だ。光は移動してないよ。じゃあオトっつぁん、よろしくね」
「ん? 私にやれって事? ハナナちゃんはやらないのか?」
「そりゃだって、オトっつぁんのベル妖精だもん。アタシが声かけたって返事してくれないかもだし。アタシはここから様子見てるからさ。よろしく♪」
ハナナちゃんは振り返らず、光の方向をじっと見つめたまま、そう言った。
1人で声を出すのはちょっと恥ずかしいんだが、しょうがないか。
私はエコーちゃんから私の姿が見えるよう、甲羅岩の横に出ると、思いっきり声を張り上げた。




