2-43 復讐するはアリにあり ~解明~
ふと私はリンゴのマークのパソコンを思い起こす。
動作がおかしくなった時、原因究明するためにやったなぁ。システム機能拡張コンフリクトのトラブルシューティング。
機能拡張を"基本セット"に戻してから再起動し、これで問題が解決する事が確認されたら、
"使用停止"にした項目から、三つから五つくらいを"使用"に戻し再起動。
問題無く起動したら、また"使用停止"にした項目から、三つから五つくらいを"使用"に戻し再起動。
これを、問題が再発するまで繰り返す事で、原因を究明するのだ。
classic環境での話だから、もう10年くらい前になるんだな。懐かしい。
え? 窓々のパソコンではどうしたかって? そっちは知らん。
ハナナちゃんで例えるなら、泉での肌着姿が"基本セット"になるのかな?
とはいえ今は移動中だ。ハナナちゃんの装備をはぎ取り、一つ一つを付け直して動作を確かめるなんて無理に決まってる。
幸い、リンゴの機能拡張に比べれば、チェック項目は圧倒的に少ないし、それぞれの装備の能力もすでに聞いている。
チェックすべき装備は10点もないし、解明はさほど難しくないんじゃないかな。
チェストプレート。
インナーにブルマー。
ブーツにグローブ。
それにショートソード……か。
不揃いのグローブは、そもそも特殊能力持ちじゃないから除外するとして、一番疑わしいのは……
やはり本命は、跳躍に直接関係するブーツだよな。
そして次点は、能力を底上げするメイン武器か。
はたしてどっちが原因なのやら。
「ハナナちゃんのブーツ……何て名前だっけ?」
「“タラリアブーツ試作壱型”だよ。伝令神ヘルメスのサンダルを再現しようとした特注品さ」
「でも、失敗作なんだよな」
「そりゃ、"天翔るブーツ"を作ろうとして、実現しなかったわけからね」
「それだよそれ! 元々が"天翔るブーツ"だったんだろ? もしかして、本来の能力が発動したんじゃないの?」
「アタシも跳び上がった瞬間はそう思ったよ。でも、どんなに足をジタバタさせても空を切るばかりでさ、ちっとも"天翔る"って感じじゃなかったんだよね」
「そっか……じゃあ、メイン武器が原因なのかな」
「アタシの“疾風丸”が?」
「そのショートソードって、装備主の全ての能力を底上げするんだよね?
もしかして緊急時には、特定の能力だけに効果が集中して、最大限に引き上げるとかじゃないの?」
「う〜〜〜ん」
ハナナちゃんはしばし悩んで答える。
「もし、そんな能力があったら、アタシは嬉しいな。だから確信を持って言えるね。絶対違うって」
「え…そうなの?」
「そんな便利機能があったら、値段がもっとつり上げられてるよ。武器屋の主ってのは、例に漏れずがめついんだから」
「そっか……」
一見すると武器屋の主を悪く言っているようだが、彼らの鑑定眼に絶対の信頼を抱いているとも取れるな。
"疾風丸"が原因である可能性は低そうだ。となると、原因はまったく別にある?
いや、今一度“タラリアブーツ試作壱型”を疑うべきか。
確か……何だったかな……ハナナちゃんが何か言ってたような……。何か引っかかるんだが、思い出せない。
メモ帳も確認するが、特に気になることは書かれてなかった。うっかり聞き流してしまったようだ。
「その試作壱型なんだけどさ………なんだっけ?」
「ん? どした?」
「えっと……あれだ……動力……そう、動力源はなんなの?」
「動力源? もしかして魔法石のことかな? 特殊能力持ちは、どの装備も魔法石が埋め込まれていて、条件に合わせて魔法が発動するようになってるんだよ」
「ほうほう。なるほど」
勉強になった……が、これじゃないな。もっと別の話を聞いた気がする。なんだっけ? なんだっけ?
「あ、そうだ! 思い出した! 原理だよ原理! 確か話してたよね、原理について!」
「……いや、原理とか…。アタシってば脳筋だよ? そんな難しいこと、分かるわけ無いじゃん」
「あれ? そうだっけ? 聞き違いだった? でも、確か聞いたはずなんだけどな。どうやって空を走るのかって……」
「そう言えばそんな事聞かれたような……。でも、アタシが知ってる事なんて、技術屋の独り言を聞いただけのうろ覚えだよ」
「いいからいいから。それを教えてよ」
「たしか、大地を踏み込んだり蹴る度に発動するとか……」
「それは発動条件だね。それ以外で何か覚えてない?」
「翼無しで飛ぶ方法がうんたらかんたら……。落ちなければ飛んでるってことだとか何とか……。えーっと、他には……」
脂汗を流しながら悩むハナナちゃん。一生懸命思い出そうとしているのが、痛いほど伝わって来る。
「重力を反転させればふんだらら……」
その瞬間、私の頭の中に大きく二つの文字が現れた!!
「!?」だ!
漫画演出に例えるなら、見開き大ゴマの中央に、二文字だけがデカデカと載っているような感じだ。
「それだぁっ!!!」
「え!? な、なに?」
「それだよハナナちゃん! 重力の反転だ!」
「それがどうしたのさ」
「"掃除屋"を思い出してよ。あいつらは身体が重すぎてそのままじゃ動けない。だから魔法で身体を軽くしてるわけだけど、質量が変わってる訳じゃない。
魔法で重力を反転させてるんだよ。だけど魔法の効果を弱めて、自分の体重を感じなくする程度にしている。
それ以上効果を上げると、宙に浮かんだり、上空に落ちてしまうからね。ここまでは分かる?」
「まあ……なんとなく」
「ま、いいや。続けるよ。
次にハナナちゃんのその試作壱型。こいつの発動条件は、大地を踏み込んだり、蹴ったりすることだ。で、発動する能力は重力の反転だよね。
もしその能力が永続的なら、一度ジャンプすれば上空に落下し続けて、宇宙の果てまで行ってしまうけど、大地に戻るってことは効果は一時的なんだろう。
もし、空中でジャンプをし続けることが出来れば、天翔るブーツも実現するんじゃないかな? 方法は思いつかないけど」
「本当!? 今度スカイエルフに会えたら話しておくよ♪ ガングビトがお墨付きをくれたって♪」
「いや、お墨付きはやらんぞ! 根本的な問題が解決してないからな! それに私がガングビトかどうかはまだ確定してないからっ
変な誤解は与えないようにしてくれよ!」
「へーい」
「ところでハナナちゃん、今だとどれくらいジャンプできるの?」
「じゃ、ちょっとやってみるよ」
そう言うと、ハナナちゃんは真上にジャンプする。すると5メートルくらいの高さまで、軽々と跳び上がった。十分スゲェ。
恐らくは、ハナナちゃんの身体能力、ブーツの重力反転、"疾風丸"の能力底上げが合わさり、相乗効果が現れたのだろう。
「でも、何度やっても、あの時みたいな大跳躍にはならないんだよね」
「そりゃそうだよ。大跳躍の原因は"掃除屋"だから」
「私は覚えてないけど、赤組の"掃除屋"は、私達の動きを封じようと、百匹以上で重力魔法をかけてきたんだろ?」
「うん。アタシはともかく、オトっつぁんは身体が重くなって身動き取れなくなってた。
担ぎ上げるのは大変だったよ。"騎士姫の鎧"の重量半減効果が無かったら、無理だったと思う」
「で、"プリンセスブルマァ"で頭をフル回転させて状況を見極め、"フェアリードレス"のスピードアップを活かして"親衛隊"の攻撃を避けたと」
「うん。そんな感じ」
「つまりハナナちゃんの装備が全部役に立ってたって訳だ。スゴイよな。見事に能力を活かしきってる」
「そうでしょ♪ そうでしょ♪」
「見た目がアレなのは残念だけどね〜」
「うっせー」
「そして大跳躍だよ」
「そうそう、それそれ。結局何が原因だったの?」
「私達は赤組の重力魔法を何重にも喰らって、体重が重くなった。それは質量……つまり私達自身が重たくなった訳じゃなくて、重力が強くなったからなんだ。
そして試作壱型の能力は、大地を踏み込んだ瞬間、重力を反転させる。つまり…」
「つ、つまり?」
「ハナナちゃんが"親衛隊"を跳び越えようとジャンプした瞬間、私達にかかっていた何倍もの重力が、何倍もの反重力に変わったんだ。
これが思いがけない大跳躍の原因さ」
「なっ! なんだって〜〜〜〜〜!!」
「ホントに分かった?」
「…………ちょっと待ってね」
腕を組みながら考えを整理するハナナちゃん。またしても脂汗を流している。本当に脳筋なんだなぁ……
などと温かい目で眺めていると、突然何か閃いたような明るい笑顔になる。
「ああ、そうか! そう言うことか!
わかった! 全部わかっよ! オトっつぁん!
つまりこう言うことだね!
この"タラリアブーツ"を使えば、
太った重い人ほど高くジャンプできるんだ!」
「……いや違う。そうじゃない」
この脳筋娘にどうすれば重力を説明できるだろう。
頭を抱える雄斗次郎であった…(暴れん坊将軍風しめくくり)
まだもうちょっとだけ続くんじゃぁ
中々次のエピソードに進めないっす〜(><)