2-40 復讐するはアリにあり ~どうなった?~
言いくるめ? 出目が5より少なければ初期値でも成功するんじゃね?
いや、流石に言葉の通じないアリには無理か。でもクリティカルを出したら、KPの裁量次第ではあるいは……
いかんいかん。最近リプレイ動画を観まくってたせいだな。
動画で培ったクトゥルフTRPGのニワカ知識に影響されまくってるぞ。自重しないと。
「つまりハナナちゃんは、誰かが赤組をそそのかして、私らを襲ったって考えてるの?
『ぐへへへっ! あいつらは女王様を狙う悪い奴らだゾ』とか何とか言われてさ」
「……何故そこで笑う?」
「え? いや、悪の黒幕っぽい雰囲気を出そうと演出しただけなんだけど……はずした?」
「そりゃ冒険者レベルのザコだったら、そう言うヤツもいるさ。酒場でクダ巻いてる冒険者は大体そんな感じだし」
「そ、そうなんだ」
「だからそう言うアホ共の真似なんて止めてよね。オトっつぁんは別格なんだから! 格を落としちゃだめだかんね!」
「はい…」
なんだかハナナちゃんを不機嫌にさせてしまったようだ。嫌な思い出もしたのかな?
まあ確かにジョークならまだしも、リアルでそんな笑い方するヤツにろくなのはいないだろうし。
「ともかくさ、アタシは巣に入ったこともないし、"掃除屋"に恨まれる覚えはこれっぽっちも無いわけよ。
かといって操られている感じもない。もし"虫使い"が操ってアタシらを狙ったなら、赤組も青組も縄張りも関係なく襲ってきただろうからね」
「へぇ、こっちの世界にはいるんだな。"虫使い"なんてのが……ん?
ちょっと待ってくださいよ、ハナナちゃん? "掃除屋"に恨まれる覚えなら、いくらでもあるんじゃないですかい?」
「へ? 何のこと?」
「ハナナちゃんは、これまで何匹の"掃除屋"を狩ってきたのさ」
「そんなの覚えてるわけ無いじゃん! 泉にいた時は"掃除屋"三昧で食べまくってたし」
確かに私だって、これまで食べてきたパンの数なんて覚えてないけど…。
そう言えば、ハナナちゃんがメロンシャーベットの容器に入れてた黒い魔法石、あれって"掃除屋"から採れるんだよな。
「ところで、"掃除屋"から採れる魔法石って、一匹に付き一個なの?」
「魔法石?……そうだな。たまに結晶化されてなくて、持ってないやつもいるけど」
ってことは、魔法石の数+αが狩った数ってことか……。
「ハナナちゃんが持ってた黒の魔法石って結構な数だったよね。それだけ"掃除屋"を殺してるとなると、恨まれて当然って気がするんだけど…」
「そうかなぁ…。あいつら簡単に仲間を切り捨てるんだけどなぁ…」
「断定は出来ないけど、可能性はあるかもね」
「う〜ん」
納得できてないようだ。そりゃそうか。
私もアリの生態なんて知らないし、思いつきの仮説を話しただけだもんな。
これ以上膨らまないし、話題を変えようかな…。
「そう言えばハナナちゃん。絶体絶命のピンチをどうやって切り抜けたの?」
「え」
「…いや『え』じゃなくてさ、どうやって絶体絶命を切り抜けたのかって聞いてるんだけど」
「もちろん、アタシが大活躍して切り抜けたんだよ♪」
「そりゃ、ハナナちゃんの大活躍は疑いの余地が無いけどさ、具体的にどう切り抜けたのか知りたいんだよ」
「え…えっとね……」
あからさまに口ごもるハナナちゃん。何か隠しているのは間違いない。
問題は、何を隠しているか…だ。
多分、私が正気を失う危険を恐れてのことだと思うけど……。
「話し辛いなら無理には聞かないよ。だけどこのままじゃ、嫌な想像が膨らんでさ、不安でおかしくなりそうなんだよね」
「えっ!? 話さなくてもおかしくなるかもなの? それは困ったなぁ」
「だから質問させてよ。答えは『はい』か『いいえ』かでいいからさ。私はこの嫌な想像が思い過ごしだって安心したいんだ」
「そういうことなら……いいけどさ」
「じゃあ聞くね」
「…う、うん」
不安げにうなづくハナナちゃん。
私も……最悪の事態を覚悟して聞かないとな。
「もしかしてハナナちゃん……」
「な、なに?」
「どうやって切り抜けたか、まったく何も覚えてないんじゃないか?」
私が考える最悪の事態、それは……
実は私もハナナちゃんも、すでに死んでいた。……という可能性だ。
もしかして、"掃除屋"の群れに殺された事に気付かぬまま、二人で森を彷徨っているのではないだろうか?
そんな疑念が生まれたのは、私が"掃除屋"の奇襲をまったく覚えてなかったからだ。
青組の"掃除屋"が私達に関心を示さなかったのも、私達が見えてないからではないか?
赤組が縄張りの境界線にいたのもたまたまで、私達を追い掛けてきたわけでは無いかもしれない。
もし……ハナナちゃんまで何も覚えてなかったとしたら、疑念は確信に変わる。
そこんところどーなんですか! ハナナちゃん!!
「は……? へ……? い、いや、しっかり覚えてるけど……?」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! よかった〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
どうやら私達はまだ生きているらしい。
全力でホッと胸をなで下ろす私を見て、さぞかしハナちゃんは困惑しただろう。