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2-37 復讐するはアリにあり ~睨み合い〜

「…あの、ハナナさん?」

「ん?」

「え~っとですね……」

「どうした? オトっつぁん」

「そろそろ解放してくれないかなぁと」

「なんで?」

「なんでって……そりゃ、めっちゃ気まずいと言うか…」

「う~ん、そうだなぁ……やっぱりダメ」

「え~! なんでよ~!」

「だってオトっつぁん、“掃除屋”の群れを見たら,またおかしくなっちゃうかもよ?」

「気をつけながら見るから大丈夫だよ。多分」

「そうかなぁ。まだヤバそうな顔してるけどなぁ」


 今の状況を説明する。

 私は今、ハナナちゃんの両手で頭をがっちりホールドされ、身動きが取れないばかりか、頭が動かせない。

 そして目の前には、ハナナちゃんの可愛い顔がどーんとある。

 何か事故でもあれば、チューとかしてしまうのでは?ってくらい近いのだ。

 私がうっかり“掃除屋”の群れを見ないよう、ハナナちゃんなりに考えた対策なのだが、照れ臭いったらありゃしない。

 否が応でもハナナちゃんの顔に目が向いてしまう。肌はきめ細かい。目鼻立ちは整っている。マジ美少女で見とれてしまいそうだ。

 ただ、見つめているうちに違和感を覚えた。僅かではあるが、森に似つかわしくない匂いがするのだ。

 なんだろう? これは……もしかして……磯の匂い……?

「アタシとしては、オトっつぁんが落ち着いたら、とっとと出発したいんだけどな。“掃除屋”なんてほっといてさ」

「確かにその方が面倒がないかもだけど……後々何かの役に立つかもしれないだろ?」

「しょうがないなぁ。じゃあ、気をしっかりもってよ?」

 そう言うと、ハナナちゃんは私を解放する。が、側からは離れない。

 もしもの時は、すぐに取り押さえられるようにとの配慮なのだろう。本当に申し訳ない。

 私は気合いを入れると、思い切って振り返った。


 うっわ、怖ぇ~!!


 “掃除屋”の群れは10メートルほど先でたむろしていた。やはり数え切れないほど大量だ。百や二百はいるんじゃないか?

 しかし、じっとしているせいかギチギチという音はしない。そこにいるのに気配もほとんど感じない。

 いやまて! これだけ大量にいるのに、気配をほとんど感じないのか。これは……予想以上に厄介なヤツらだな。

 そういえば昨日も、私が手に大怪我した途端、森中からギチギチと音が鳴り響いたんだよな。

 “掃除屋”は気配を殺し、森のあちこちに身を潜めている。そう考えた方が良さそうだ。

「よかった♪ オトっつぁん平気そうだね♪」

「ああ、うん。ありがとうハナナちゃん。冷や汗かきまくりだけど、何とか正気だよ。ところで……これはどういう状況なんだ?」

「あいつらをよく見て。手前の“掃除屋”と奧の“掃除屋”、微妙に色が違うんだけど、オトっつぁん分かる?」

「色?」

「うん。手前が青黒くて、奧が赤黒いんだよ」

 私は立ち上がると、改めて巨大アリの群れを見る。

 確かに色が違っていた。手前の尻を向けているアリは青みががっており、こちらを向いている奧のアリは赤っぽい。

「赤いアリと青いアリが……群れ同士で睨み合ってるのか?」

「うん。そうだよ。そこまで分かるなら、説明も簡単だね。赤組と青組は種族は同じ“掃除屋”だけど、家族は別なんだよ」

「あっ! もしかして縄張りか! 二つのファミリーが縄張りの境界線で睨み合ってるのか!」

「流石オトっつぁん♪ 大正解だよ♪」

「ということは、縄張り争いをしている“掃除屋”二大ファミリーの仁義なき戦いに、私達は巻き込まれたのか?」

「それはハズレかな。原因はアタシ達だから…」

「え!? 私達のせいなの?」

「縄張り争い自体はいつものことかもしれない。けど、この騒動は多分……」

「そこんところ、もうちょっと詳しく」

「う~ん、そうだなぁ。どうしよう。

 いつものオトっつぁんに戻ったことだし、そろそろ出発しない? 結構足止め喰らってるよ?」

「え? いや、でも…」

「じゃあ簡潔にまとめるとだ。

 まず、赤組がアタシらに襲いかかってきたの。そこでアタシらは青組の縄張りに逃げ延びたわけ。

 赤組は追い掛けて来たけど、騒ぎに気付いた青組が境界線に陣取って通せんぼしてるのね。これが今の状況」

「つまり……青組は命の恩人か」

「あははははっ♪ 流石オトっつぁん、面白いこと言うね♪ あいつらは自分の縄張りが他の組に荒らされないよう守ってるだけさ」

「そうかもしれないけど……」

「さあ、行くよ。急がないと日が暮れちまう。話の続きは歩きながらしようよ」

「あ、うん」

 それでも、だ。

 助けてもらったことには違いない。感謝しちゃいけないって事は無いよな。うん。

 立ち去る前に、私は青組に向けて一礼する。

 青組=サンありがとう。二度と会うことはないかもしれないけど、機会があったらなるべく恩を返すよう努力します。

 だけどもし、仇で返すようになった時は……例えば同胞を食材にしちゃったりとか……その時はゴメンね。

「オトっつぁん! なにやってんの! は~や~く~!!」

「はいはいっ。行きますよっ。行きますからっ」

 ハナナちゃんにせっつかれ、後ろ髪を引かれつつも、私は急いでその場を離れるのだった。


 それにしても、気になるのは赤組だ。ハナナちゃんの話によると、赤組の“掃除屋”が私達に襲いかかってきたのだという。

 何故、赤組だけが私達を襲ったのだろう? 

2018.11.22 サブタイトルを思いついたので修正しました、

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