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2-36 復讐するはアリにあり ~大丈夫〜

 ともかく状況を確認しよう。

 今、私は感極まったハナナちゃんに、抱き付かれているというか、組み付かれているというか……

 とにかく、しゃがんだ状態のまま身動きが取れないでいる。

 周りを見回してみる。見える範囲では危険も異常も無かった。昨日彷徨っていた時と変わらない。深い深い森の中だ。

 昨日と違うのは、傍らに頼もしくも可愛らしい冒険者がいる事くらいか。

 荷物も昨日のままか? リュックはあるし、服も同じだ。

 左手にはいつ手に入れたのだろうか。杖がしっかりと握られている。……杖にしてはやけに重いな。

 そして右手には………なんだこれ? 靴下?

 私の右手には何故か、靴下が何枚も何枚も重ねて付けられていた。指が思うように動かせず、まるで拘束具のようだ。

 何でこんなものを? ハナナちゃんにイタズラされたとか?

 そう言えば昨日、右手に怪我をしてなかったか? もしかして包帯代わりに靴下をはめたとか?

 ………いや……いや、違う。そうじゃない。

 この靴下は、手袋代わりに着けた防具だ。そして右腕には、ハナナちゃんからもらったマントで作った片袖の防具を付けていた。

 確か……そのはずだよな。

 しかし右腕に片袖は無い。どこかに落としてしまった? いや、確かに外れやすくはしていたが、落としたら流石に気付くよな。

 何か拾えない事情でもあったのだろうか?

 えっと……えっと? 何か…思い出せそうなんだけど……


 ギチッ


 背筋が凍り付いた。

 背後から聞こえた今の音は!? まさか。まさか……“掃除屋”か?

 しかし聞こえたのは一回きりだ。近づいてくるのならギチギチと続けて聞こえるはず。

 気のせいだったのだろうか? それとも聞き違い?

 私は恐る恐る振り返る。いた! “掃除屋”だ! それも一匹や二匹ではない。

 道端に、草むらに、木の幹に、数え切れない数の“掃除屋”が、ありとあらゆる場所にいた。

 百匹か? 二百匹か? 数え切れない大量のアリがいた。

「うわぁっ!? うわぁーっ!? うわぁーーっ!?」

 私は恐怖のあまり絶叫していた。

 噛まれる! 喰われる! 殺される!

 逃げなきゃ! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ!

 だが、身体が動かない。

 何かが邪魔をして、身動きが取れない。

 くそっ! やめろっ! はなせっ!

 私は拘束から逃れようと、メチャクチャに暴れる。

 すると突然、身体が軽くなった。自由になったのだ。

 ……と思いきや、今度は頭の左右を掴まれ、無理矢理引き寄せられる。


「アタシを見て! オトっつぁん!!」


 不意に聞こえた叫び声には聞き覚えがある……。これは……ハナナちゃん?

 私は恐る恐る目を開いた。私の頭を両手で掴み、可愛らしい顔を近づけて、私の顔を覗き込んでいたのは、紛れもなくハナナちゃんだった。

「大丈夫だよオトっつぁん。もう大丈夫だから」

「だ、だいじょうぶ?」

「そう、オトっつぁんは大丈夫」

「で、でも、あんなにアリがっ! アリがっ!」

「大丈夫。あいつらは襲って来ないよ。だから、だから大丈夫」

「襲って……来ない……?」

「そう。襲ってこない」

「襲ってこない……つまり、安全なのか?」

「そうだね。ひとまず安全だよ。だから安心していい」

「安心……安全……大丈夫……」

 私はようやく正気を取り戻した。

 どうやら私は、大量の巨大アリを見てパニックに陥っていたようだ。

 クトゥルフ神話TRPGで言うところの“一時的狂気”ってヤツだな。

 SAN値チェックを失敗し、最大値を引いて5ポイント以上減少。更にアイデアロールに成功してしまったようだ。

 ハナナちゃんの“精神分析”が成功したおかげで正気に戻ったが……もしかしてクリティカルでも出したのだろうか。

 ハナナちゃん、ダイス目良さそうだもんな。

「ありがとうハナナちゃん。おかげで助かったよ。もう大丈夫だ」

「本当に大丈夫?」

「ああ、今度こそ大丈夫……と思う。アリを見なければ、多分ね…」

 正気を失った原因は、“掃除屋”と見て間違いないだろう。恐らく私は“掃除屋”に襲われたのだ。

 その時の恐怖に耐えられず、パニックになってしまった。

 そのせいで記憶も飛んでしまっている。

 だとしたら、背後のアリの群れは、どうして襲って来ないんだ?

2018.11.22 サブタイトルを思いついたので修正しました、

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