2-34 出発
「じゃあオトっつぁん、最終確認するぞ?」
「おう!」
「装備はオッケー?」
「武具も防具も問題無し!」
「覚悟はオッケー?」
「覚悟完了!」
「忘れ物はナッシング?」
「リュックに入れたよ。大丈夫!」
「よし! オールオッケー! じゃあ、行こうか」
「ちょっと待った〜〜!! 大事な事を忘れてるでしょうがっ!」
「え? なんだっけ?」
「トイレだよ! ト・イ・レ!」
「といれぇ?」
「出かける前には行っとかなくちゃダメでしょうが!」
「平気だよ。関所なら2時間くらいで行けるし。別にしたくなっても森ですりゃいいじゃん」
「行・け・や!!」
「分かった分かった。行けば良いんだろ! 行けばよぉ! ったくもう!」
ふてくされながらもトイレに向かうハナナちゃんを見て、ホッと胸をなで下ろす。
私も念のため、後でもう一回行っておこう。
私がここまでトイレにこだわるのには訳がある。
第一に、この森には文明の象徴たる公衆トイレがない。そして文明の力たる携帯トイレやおむつも無い。
もしも森で催したら、野に放つか、お漏らしするしかないのだ。
第二に、この森は危険でいっぱいだ。そして排尿、排便時には、屈強な戦士ですら無防備になる。茂みに隠れて用を足そうものなら、命にかかわるのだ。
もしもお漏らしが嫌なら、仲間に護衛をしてもらいつつ、仲間の目の前で用を足すしかない。
第三に、私はオッサンで、ハナナちゃんは年頃の娘であること。
ハナナちゃんは若いならがも熟練の冒険者だから、そう言うことには慣れている。私も四十代半ばのオッサンで、今更恥ずかしがる年でもない。
だがしかし、気まずいのだ。見るのも見られるのも、モーレツに気まずい。居たたまれないのだ。
「じゃあオトっつぁん、改めて確認するぞ?」
「おう!」
「装備は持ったな?」
「問題無し!」
「覚悟はオッケー?」
「完了!」
「忘れ物も無いな?」
「大丈夫!」
「そしてトイレも十分だな?」
「ひねり出した! 今度こそ、オールオッケー!」
「じゃあ最後に、泉に向かって、礼!」
「ありがとうございました!」
世話になった泉に別れを告げ、私とハナナちゃんは結界の外へと足を踏み出す。
私達は森を出られるのだろうか?
検問所へ無事にたどり着けるだろうか?
野薔薇ノ王国では何が待ち受けている?
この世界は私に何をさせようというのか?
その答えがこの先に………あるといいなぁ。
やっと“泉”編が終了しました。
次回より、第一章のクライマックスエピソードがスタートします。
森を進む2人に待ち受けるものとは?
楽しんでいただけると幸いです。