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2-29 出発準備 ~防具作り~

 ここで発想の転換をしてみよう。

 攻撃は最大の防御と言うじゃないか。

 つまり、噛みつかれる前に撃退してしまえばいいわけだ。つまり先制攻撃だな。素晴らしい!! なんと天才的発想か!

 もちろん試さなくても分かってる。私には絶対無理だ。

 選んだ仕込み杖は“回復持ち”じゃないから、刃にかなり錆が出ていて切れ味が落ちている。

 斬り攻撃はダメでも、突き攻撃ならダメージを与えられるかもしれない。が、そもそも私には剣を扱うスキルが無い。

 そして何より一番の問題は、相手を殺す覚悟が私には無い事だ。

 生きるためには仕方ないが、それでも……出来る事なら殺したくはない。相手が虫だろうと、怪物だろうと。

 あ、でも、ヤブ蚊に限っては何の躊躇いもなく殺せるけどな!


 というわけで、改めて防具を考えるわけだが、状況を整理してみよう。

 まず、防具はある。が、サイズが合わないので装備できない。

 この件に関してハナナちゃんは匙を投げた。つまり私が自らなんとかするしかない。

 私に出来る事は、防具を一切合切諦めて身軽になるか、ここにある材料で自作するかの二択なわけだ。


 諦めるのは簡単だが、その場合は攻撃の一切合切を避けなければならなくなる。

 私に敏捷性なんてほとんど無いから、身軽になったところで避け続けるなんて無理だよな。

 となると右腕で攻撃を受けるしかない。腕一本失う覚悟が必要だ。

 ちなみに何故右腕かというと、まず、頭と身体は生きるために必要な物で詰まっているので、喰らえば助からない。

 脚に喰らうと歩行に支障をきたすから、森を逃げられなくなる。死ぬしかない。

 そして私は左利き。なので左腕を失うと非常に困るのだ。つまり犠牲にするなら右腕しかないわけだな。

 しかし腕一方失うとなると、失血性ショックがヤバイ。止血に成功しても、血の臭いに誘われて“掃除屋”が集まってくる。

 ダメだこりゃ。一度喰らえば、どう足掻いても積む。生存率を高めるためにも、やはり防具は必須だ。


 自作するとなると、とにかく必要なのは材料だが、これが悩ましい。

 多分、泉の周りを探せば、材料になりそうなものが転がっているんじゃないかと思うんだ。思うんだけど。

 こっちの世界で手に入る材料が有効かどうか、区別が付かないんだよなぁこれが。

 でもまあ、ハナナちゃんがいるからな。具体的なイメージを説明したら、それそのものは無理でも、代用品を見つけてくれるだろう。

 となると、何を作るか具体的にイメージしないといけないわけだが、今のところノープランだからなぁ。

 何かヒントになるものは無いか? ヒント…。ヒント…。

 そういえば、リュックには何が入ってるんだっけ?

 “掃除屋”を解体した際に出てきた黒い魔法石を入れるために、コンビニ袋からメロンシャーベットの空容器を出して以降、

 リュックサックには触ってもなかったな。

 ちょっと持ち物検査してみるか。


 リュックの中身。

 時刻表。リュックごと泉にダイブしたはずなのに、何故か濡れてない。

 関ヶ原の地図。チラシ。

 ティッシュ。ハンカチ。洗面器具一式。

 着替えの下着。シャツ、トランクス、靴下。4日分。

 折りたたみの傘。携帯電話の充電器。文房具入れ。

 ゴミを入れたコンビニ袋。中身は食品梱包のビニール片複数。メロンシャーベットの容器(魔法石入り)。空のペットボトル2本。

 のど飴、未開封。


 持っているもの。

 財布。メモ帳。シャープペンと消しゴム。家のカギ。

 携帯電話は行方不明。


 原作の条太郎は、週間少年ジャンプを懐に偲ばせてディオの投げナイフを防いでいたな。時刻表は材料に使えそうだ。

 文房具にはミニサイズのセロハンテープが入っていた。強度はあまり無いけど、時刻表を腕に固定するくらいはできるだろう。

 靴下……ああ、靴下か。軍手の代わりになりそうだ。重ねて着ければかなりの確立で手を保護してくれるだろう。

 肌着のシャツも細く裂けば長めの紐が作れるかもな。

 これだけの材料があれば、即席の籠手が作れそうではある。

 4日分の靴下を重ね着すれば、手の防御はかなり安心できるし、時刻表をセロテープでグルグル巻きにして固定すれば、腕も肘近くまでは保護できそうだ。

 これで行くか? これだと肘より上は保護できないが、ここで妥協して大丈夫か?

 水は……まだ引いてないな。だったらギリギリまで考えてみようか。

 何かヒントになる情報は無いか? ヒント…。ヒント…。


「なあハナナちゃん…。ちょっといい?」

 側にいたハナナちゃんに声をかけるが、返事がない。彼女はコンビニ袋から出した空のペットボトルに興味津々であった。

「ねえねえオトっつぁん! どうなってるのこれ!? これってギヤマンの瓶だよね!? 何でこんなに柔らかいの!?」

 ギヤマンとはまた古風だな。こっちじゃガラスとは言わないのか? それとも用途によって使い分けてる?

「これはペットボトルって言うんだよ。ギアマンじゃないから落としても割れないよ」

「ええええっ!? マジかよっ!!! あり得ねぇだろ!!」

「ふっふっふっ、それがあり得るんだなぁ」

「ちょっ……ちょっと試してみるけど、良いよね?」

 そう言うとハナナちゃんは、少し離れたところに鎮座している大岩に向かうと、ペットボトルで叩き出した。ウッキウキなのが遠目にも分かる。

 ペットボトルか…。

 私が小学生だった頃は、まだジュースの容器は瓶が主流だった。そんな時流れたのが、ペットボトルのCMだ。

 買い物帰りの奥さまが、うっかりジュース瓶を落としてしまうのだけど、ペットボトルだから割れませ〜ん♪

 てな感じで、ペットボトルの頑丈さをアピールしまくるCMだったと記憶している。

 若干の記憶違いもあるだろうが、いまだに思えているって事は、子供心に相当強烈な印象を与えたんだろうな。

 だから、今のハナナちゃんのはしゃぎっぷりには、何か懐かしいものを感じてしまう。流石にテンション高すぎじゃね? とは思うが…

 ハナナちゃんは大岩を叩くのに満足したのか、最後に大岩に向かってペットボトルを力一杯投げつける。

 大岩に投げつけられたペットボトルは、割れることなく跳ね返り、ハナナちゃんの顔面に直撃する。

 スゴスゴと戻って来たハナナちゃんのおでこには、見事なコブが出来ていた。

 まるで殴られ続けた大岩が、意趣返しするかのように鮮やかであった。インガオホーってやつかな?

 しかし、ペットボトルでコブを作るとか、どんだけ全力投球だったのだろう。ハナナちゃん、恐ろしい子!

「えっと、それで、オトっつぁん、何の用だったんだっけ?」

「あ、そうだったそうだった。

 なあハナナちゃん。森の魔獣は“掃除屋”以外にどんなヤツがいるの?」

「森の魔獣?」

「移動中に襲われるとして、相手は必ず“掃除屋”ってわけじゃないだろ?」

「たしかに、そうだけど…」

「防具作りの手掛かりになるかもしれないんだよ」

「そういうことなら、いいよ。教えたげる」

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