2-28 出発準備 ~防具2~
無駄知識が役に立たないなら、実体験に基づいたリアル知識はどうだろう?
とは言っても、巨大アリと戦うなんて経験、元の世界では積みようがない。
なので、代用できそうな体験が無いか考えるわけだ。“シノビガミ”で言うところの“代用判定”だな。
で、活かせそうな体験と言うと……私の場合、工場勤めかなぁ。
工場では、重いものを運んだり、鋭利な刃物を扱ったりで、危険が伴う仕事が多い。
その対策として、もっとも使われるもの。それは手袋だ。
汎用性の高い軍手。水回りならゴム手袋。耐火性、耐久性の優れた溶接用手袋。厚手や薄手と用途によって様々だが、
今回活かせそうな対案は、手袋の二枚重ねだろう。戦車で言うところの複合装甲だな。
同じ手袋でもそれなりいけると思うが、理想は異なる手袋の二枚重ねだ。
今回の場合なら……中に軍手で、外に大きめの溶接用手袋だろうな。
溶接用手袋は厚手で頑丈だから、巨大アリに噛みつかれても、それなりに耐えてくれるだろう。
貫通したとしても、二重手袋であれば、牙や爪が逸れる可能性が高まる。怪我するしても、傷が浅くて済むかもしれない。
そして中の軍手には、もう1つ役割がある。
軍手は、作業中に起こりやすい切り傷や擦り傷から手を保護してくれるが、持ち運びをする時は滑りやすいという欠点もある。
だから対策として表面にゴムが付いた滑り止め手袋なんてものが生まれたわけだが、今回は、この滑りやすさが長所として働くのだ。
さて、ここからが実体験に基づいたリアル知識である。
20年くらい前、私は自動車工場でプレス作業に従事していた。ラインの場合、プレス機械が複数並べられ、その間をベルトコンベアで繋げている。
ベルトコンベアの一番危険なところは、ベルトが流れ込む終わりの部分と、流れてくる部品を受け止める台の狭間だろう。
そこは地震や噴火の仕組みを紹介する図解によく似ている。プレートがコンベアベルトで、陸地が台だと言えば分かりやすいだろうか。
台とベルトはほぼピッタリ近づけられているため、巻き込まれる事は無い。そう思って油断していた。
台の端っこだったからか何だったか、理由は忘れてしまったが、他より隙間の大きなところがあった。
何気なくそこを指で触れた瞬間、巻き込まれたのだ!! 手袋が!!!
その時私は、中に軍手、外に滑り止め付き手袋をしていた。巻き込まれたのは外の滑り止め付き手袋。
それが一瞬にして手からすっぽ抜け、コンベアの下に消えた。
あまりの事に最初は笑った。だけど、後でゾッとしたものだ。
ここからは自己分析なので、正確かどうかは分からないが……
あの時、外の手袋がすっぽ抜けたのは、中に滑りやすい軍手をしていたからだと思う。
もし滑り止め付き手袋一つしか付けてなかったなら、一緒に指も巻き込まれていたかもしれない。
さて、話を戻そう。
以上の実体験をヒントに思いついたのが、軍手と溶接用手袋の、二枚重ねと言うわけだ。
アリに手を噛みつかれても、溶接用手袋がすっぽ抜ければ、トカゲの尻尾切りのように逃げ出す事も出来るとふんだわけだ。
なかなかのいいアイデアだろ?
だけどお察しの通り、この案には致命的欠陥がある。
第一に、そもそも手袋がない。軍手以前の問題で、サイズの合う手袋が無い。
第二に、もし手ではなく、腕を噛みつかれたらどうするのか?
結局のところ、リアル知識も異世界じゃ対して役に立たないんだよな。イイ線行ってたとは思うけど。
…いや、…まて。
確かに無駄知識は、そのままでは使い物にならないだろう。
だけど、実体験に基づいたリアル知識も、想定外の状況では役に立たない。
だけど、二つの知識を合わせたらどうだ?
そうだよ!
一見関係の無さそうなリアル知識と無駄知識が合わさり、化学反応を起こす。
そうやって閃きを産み、思いがけない発想に至るのではないか?
つまり、二人で一つの他面ライダー! というわけだっ!
さて、急がなくちゃな。
水が引くまでまだかかるようだが、モタモタしてはいられない。
更新にモタモタしててごめんなさい(><)