2-27 出発準備 ~防具~
しかし、テンションは長くは続かなかった……
「あっしには関係の無いとでござんす……ってちっがーう! これは“木枯らし紋次郎”だ!」
ちくしょう! “座頭市”が判らん! 勝新の真似したくても真似できねぇ!!
思えば“座頭市”は、映画を一本観たきりなんだよな。平成元年に公開された勝新版最後のやつ。
たけし版はタップダンスを踊ってるところをテレビでチラ見した事しかないのでサッパリ分からないし。
ガッカリのションボリである……。
「一応言っとくけど、刃物を持って遊ばないでね。それ本物だから」
「アッハイ」
「武具はその仕込みで良いとして、防具だけど……どうすっかなぁ~」
ハナナちゃんは私の身体をジロジロと眺めながら、悩み始める。
「防具というと、鎧とか兜とか?」
「まあそうなんだけど……。鎧兜は重いしかさばるから持って帰るのも一苦労だし、武器屋に売っても割に合わないんだよね。
だから持ち帰るとしても、せいぜい籠手とか、グローブとか、すね当てとか、なんだけど……」
「それでも十分だと思うけど、何か問題なの?」
「サイズ」
「理解」
ハナナちゃんが持ち帰った装備は、基本的に自分用。使用中の防具が傷んだ時の予備なのだ。
見たところ、ハナナちゃんのサイズはSかSS。対して私は手袋がL。職場の作業服はお腹の出っ張りのせいで4Lだったな。
ダメモトで保管してある防具をチェックしてみるが、案の定、籠手やグローブは小さすぎて入らない。
一方、すね当ては紐やベルトで固定するので、私のサイズでも着用可能だったが、金属製で予想以上に重い。
ドラゴンボールのように修行するならほどよいが、森を歩くにはかなりの負担となるだろう。
「こりゃ、オトっつぁんの防具は諦めるしかないかな。でもなぁ……。もしもの時を考えると、まったく無しっていうのも……う~~~ん」
「防具が有ると無しでどう変わるのさ」
「片腕くらいは無くすかも……」
「ええええええ!?」
背筋に冷たいものが走った。腕を無くすって、どういう状況よ!
「ダメだ。思いつかないや。なあなあオトっつぁん。ガングビトの叡智で何とかならない?」
いやいや! まだ私がガングビトだと確定したわけじゃないし、叡智とか無茶振りされても困るんですが!
「と、とりあえず、想定される危険を説明してよ。片腕を無くすって何! 怖いんだけど!」
「片腕ってのは、あくまで最悪の時はって話ね。オトっつぁんは絶対アタシが護るから。
………でもね、アタシがいくら絶対って思っても、もしや! まさか! そんな! って事が起きるかもしれないじゃん。
そう言う時のためのホケンって言うの? あった方が安心できるでしょ」
「そりゃ、まあ…」
「でねアタシが考えてる危険は、“カイショクブツ”と“魔獣”ね」
「魔獣はともかく、カイショクブツって何?」
「オトっつぁん、森で右手に大怪我したでしょ。あれよ。あれ」
「ああ、あれか。奇っ怪な植物。つまり“怪植物”ね」
あの時、右手がパックリ開いちまってたもんな。確かに一歩間違えてたら右腕を無くしてたかもしれない。
「森にはああいうヤバイ草木も生えてるからね。余計なものに触らなきゃ大丈夫だけど、ついうっかりってのは誰にでもあるから」
「気をつけるよ」
「で、もう1つの“魔獣”ね。大体出くわすのは“掃除屋”だけど、他にも色々いるわけ。
で、こいつらの攻撃方法は大体噛みつきなのよ。で、ここからが問題。
こいつらが噛みつき攻撃しようと迫ってくる。オトっつぁんはどうする? 大人しく噛みつかれてる?」
「う~~~ん」
パニクって逃げるか、クールに見極めて避けるか、もしくは、慌てて手で払おうとする…だろうか?
逃げたら背中から襲われる。つまり防具の意味が無い。
敵を見切れるほど俊敏なら、やはり防具の意味が無い。
慌てて手で払おうとすれば、目の前にちらつく腕に食い付くだろう。……って事か。
確かに腕に防具を装備していれば、最初の一撃は回避出来るかもしれないな。
そして、もしやの一撃、まさかの一撃、そんなの一撃?…さえ回避出来れば、あとはハナナちゃんがやっつけてくれると。
おんぶにだっこされまくりだな。しょうがないけど。
「身体を護るために、魔獣の前に腕を出したら、魔獣は腕に食い付いてくるのかな」
「食い付いてくると思うよ。身体に食い付こうとしても腕が邪魔だしね」
つまり、必要なのは腕用の防具か。
しかし、肝心の籠手やグローブはサイズが合わず、装着不可。私サイズへの調整が可能だとしても時間がない。
すね当ては金属板をすねの形に板金加工したものだから、腕に付けられない事は無い。
が、これだと腕の片面しか保護できないから、反対側に牙を立てられ、やはりダメージを負うだろう。
二枚のすね当てで腕を両面から挟んで保護するか? いや、一枚ですら重いのに、二枚なんて無理に決まってる。
つまり、すね当ても役に立たないっと。
でもここまでならハナナちゃんも考えてるよな。求められている叡智はここから先だ。
………とは言ってもなぁ。
私の知識なんて、社会じゃ何の役にも立たない雑学ばかりだ。しかも大半が、アニメや特撮、漫画や小説などを通して得たオタ知識だぞ。
そんなものでどうすれば今の状況を切り抜けられるんだよ!




