2-23 よし! 決めた!
「え〜〜っと、悪いんだけどアタシって脳筋だからさ、歴史とか伝説とか、あんま知らないんだよね」
「あ、ああ、うん」
詳しく知りたいなら、素直に帝国に向かった方が良いと思うぜ? 旅の吟遊詩人とか、生き字引の長老とか、そっち系の専門家も、いくらでもいるからさ」
「ごもっとも」
「……役に立たなくてごめんな」
「いやいやいや! そんなことないからね! めっちゃ収穫あって助かったからね!」
いかんいかん。ついつい質問攻めにしてしまった。でも、収穫は確かにあったよ、ハナナちゃん。
とりあえず私は思いつく限り、様々なおとぎ話や神話のタイトルとあらすじを片っ端から挙げ、ハナナちゃんの反応を見た。
すると、グリム童話やギリシャ神話には詳しかったが、それ以外のおとぎ話はあまり知らないようだ。
ヨーロッパ系のおとぎ話に片寄っているのは、もしかしたら地域的な問題なのかもしれない。
日本の昔話はほとんど知らなかったが、唯一の例外は“桃太郎”だった。異国の冒険譚として吟遊詩人が酒場で披露したのだそうだ。
ハナナちゃんは冒険者だからね。冒険譚に興味津々なのは当然か。
色々聞いてみたが、やはり異彩を放つのは“野薔薇ノ王国”だな。
五百年前、野バラ姫によって建国された歴史を持つ、ハナナちゃんの故郷……か。
歴史……歴史? おとぎ話なのに、歴史? 歴史……か。
その昔、ハインリッヒ・シュリーマンとかいう、ドイツ人がいた。トロイア遺跡を発掘したことで有名なオッサンだ。
トロイアは当時まで、ギリシャ神話の1エピソード、“トロイア戦争”に登場する想像上の都市だと思われていた。
が、このオッサンが遺跡を発掘したことで、トロイアが現実に存在した都市だと、歴史の一部だと証明されたわけだ。
ここで私は考える。はたしておとぎ話とは、全てが作り話なのだろうか?
グリム童話はグリム兄弟の著作物だが、彼らは原作者ではない。ドイツに伝わる民話やメルヘンを発掘収集し、まとめたものだ。
では元となった民話やメルヘンはどこから来たのだろう? 誰かの創作物か? それとも実話に基づいた歴史的事件か?
ここで私は大胆な仮説を立ててみる。
私達の世界で語られるおとぎ話とは、オトギワルドから伝わってきた歴史的事実なのではないだろうか?
つまり…“オトギワルド”とは“おとぎ話の世界”という意味ではなく、“オトギワルドの歴史”が“おとぎ話”なのだ。
荒唐無稽なのは分かってる。だけど、閃いてしまったのだからしょうがない。
数式で表現するならこうか?
オトギワルド≠おとぎ話の世界
オトギワルドの歴史=おとぎ話
……何だか頭が混乱してきた。メモに書き出して整理しよう。
1)オトギワルドは異世界である。
2)異世界は異世界でも、本の世界ではなく、平行世界である(多分)
3)私達の世界のおとぎ話が、オトギワルドでは歴史的事実である。
……ええっと、それはつまり……こういうことか?
4)オトギワルドの歴史を私達の世界に伝えた者がいる? それはオトギワルド人?
5)二つの世界を往来している? 異世界交流がある?
6)日本語が通じる。これも交流があるから?
7)つまり帰宅できる可能性アリ?
帰宅か……。その希望があったとしても、予定していた今日中の帰宅は無理だろうな。
儀式によって召喚されたのなら、帰還するにしても儀式が必要だろうし。今は慌てても仕方ない。
だったら、ハナナちゃんの言うように、今やりたいことをするべきかな。
考えるのも疲れたし、現実逃避でもしようかな……
うんそうしよう! 是非そうしよう!
「なあ、ハナナちゃん。もう一度確認するけど、“野薔薇ノ王国”は五百年前に野バラ姫が興した国なんだよね?」
「そうだよ。少なくともアタシはそう教わったよ」
「よし! 決めた! “野薔薇ノ王国”に行こう!」
「ええ〜〜〜! マジかよ〜〜!! ……そりゃあ、行きたいって言うなら連れて行くけどさぁ」
ハナナちゃんは凄く嫌そうだ。
「ちなみに、どうして王国行きを決めたの?」
「そんなの決まってるだろ、ハナナちゃん! “野薔薇ノ王国”が野バラ姫の聖地だからだよ!!」
「は? せ、聖地?」
「フィクションだと思っていたおとぎ話の“野バラ姫”が、この世界じゃ歴史的事実であり、しかも場所まで特定されているんだろ!?
だったら童話好きとしては“聖地巡礼”しないわけにはいかないんだよ! 関ヶ原と同じく歴史ロマンなんだよ! 分かるだろ?」
「わっかんねーよ!
城跡とか古戦場とかサッパリだっつーのっ!!」