2-21 帝国と王国
「それでハナナちゃん。帝国はどんなところ? 何があるのさ?」
「何がって? 何だってあるよ。なにしろ帝国はでかいし栄えてるからね。世界中から人や物が集まってくるんだよ」
「例えば…何があるの?」
「まずは、オトっつぁんの大好きな情報だ。それこそ世界中の情報が手に入るよ」
「へぇ、嬉しいね」
「次に、色々な国の美味い料理が食べられるね」
「そりゃあ、食通にはたまらないな」
「更に、様々な人種で溢れてるから、隠れ住むには持ってこいさ。もしオトっつぁんが裸で出歩いたって目立たないよ」
「裸でもかよっ! 確かに目立つの苦手だから、ありがたいな」
「そして何より、帝国には自由があるっ♪」
「自由……か。うん。確かに自由は大切だな」
「そうでしょ、そうでしょ♪ どれもこれも、王国には無いものさっ♪」
王国には無いもの…か。なるほどね。
つまりハナナちゃんにとり、帝国は自分の居場所なのだ。
逆に考えると、故郷である“野薔薇ノ王国”は、情報に制限があり、郷土料理しか無く、外国人が珍しく、自由の無い、窮屈な国って事になる。
嘘ではないのだろうけど、主観が強くて客観性に欠けているように思える。鵜呑みにしない方が良さそうだ。
「だけどさ、ハナナちゃん。情報にせよ料理にせよ、タダじゃないだろ? 先立つものが無いとさ」
「大丈夫大丈夫♪ 仕事もチャンスも沢山あるから♪ アタシだってそれなりに蓄えはあるしね」
「ところで実は一番気になってたんだけど、帝国の治安ってどうなの?」
「え? 割と普通じゃね?」
「そっか。普通か。平均的なのか。それなら安心だな♪」
……んなわけがあるか。刀狩り社会日本と銃社会アメリカの“普通”が同レベルかって話だ。
「じゃあ“野薔薇ノ王国”の治安と比べると、帝国はどうなの?」
「え? え~っとね……。あはははは♪」
言葉に詰まるくらい違うんかい!
「つまり帝国の治安は悪いって事か……。もしくは王国の治安が良すぎる?」
「大丈夫だよ! 何があってもオトっつぁんはアタシが護ってやっからさ♪」
「それは……ありがとう……」
ハナナちゃんの気持ちは嬉しい。嬉しいんだが!
ハナナちゃんの言う仕事ってのは、冒険者関係だよな。つまり荒事だ。私にこなせる仕事なのか、それ!
それに治安が悪いとなると、一人じゃ街に出られないかもしれない。
経済も安全もハナナちゃん頼り……。これじゃハナナちゃんのヒモになる未来しか見えないんですけど!!
「仮に帝国に行くとして……、帝国と言っても広いんだろ? どんな街に向かうんだ?」
「ここらへんでは一番大きな街だよ。アタシの拠点でもある。名前は“絶対防衛都市コンゴウ”っていうんだ」
「ぜっ、絶体絶命都市!? しかも金剛!?」
「いやいや、絶対“防衛”都市だからっ! “ゼツメイ”じゃなくて“ボウエイ”なっ!」
「ああ、ご、ごめん」
城郭都市や要塞都市なら聞いたことあるけど、“絶対防衛都市”だって? しかも“金剛デ~ス”なのか! 厨2心がメチャンコくすぐられるんだけど、一体どんな街なんだ? 気になる。
「“コンゴウ”は帝都を“魔王”の侵攻から護るために生まれた街なんだよ」
「えっ!? 真奥さん? ……じゃなくて、あの魔王? 怪物の軍勢を引き連れて人類を滅ぼそうとする感じの?」
「そうそう、そんな感じ♪ オトっつぁん、異世界人なのによく知ってるな!」
「そりゃまあ、異世界ファンタジーもののテンプレだし」
「テンプラ? ああ、あれってすっげぇ美味いよね♪」
ここでテンプラ談義が始まるが、長く脱線するので省略。要約すると、こっちの世界だとテンプラは高級料理の部類に入るとのこと。
話を戻すと、ハナナちゃんは地面の地図に追加情報を記入する。
「えっとね、ここらへん。“虚無の砂漠”の下の方にね、小さな湖があって、その中心に“魔王城”って古い城があるんだよ」
「そりゃまた分かりやすい名前だな」
「本当の名前は誰も知らないんだけどね。魔王が人類に戦いを挑む時、必ずここを拠点にするから、そう呼ばれているのさ」
俄然興味が湧いてきた。“魔王城”か。城娘も悪魔的なツノや翼が生えたデザインになりそうだ。もしチャンスがあるなら行ってみたいな。
さて…と。
どうやらハナナちゃんは私を帝国に誘導したいようだ。ハナナちゃんの活動拠点が帝国にあるのなら、それも自然な流れだと思う。
しかし、私を召喚したのは“野薔薇ノ王国”だ。帝国に行っては真実から遠のいてしまう。
情報だって世界中の情報通から集めるより、当事者に直接聞いた方が早い。
全力で逃げ出したくなるような恐ろしい陰謀でも判明しない限り、私は王国へ行くべきなのだ。
何か無いだろうか。私の背中を押してくれるような、有益な情報は。
「なあハナナちゃん。“野薔薇ノ王国”の事、もう少し詳しく教えてくれないかな。例えば、歴史とか…」
「え~~。そういうの苦手なんだけどなぁ」
「頼むよ」
「そうだなぁ。歴史かぁ…。歴史………う〜〜〜〜ん」
ハナナちゃんは腕を組んで必死に考える。
「王国が出来たのは五百年前…だったかな? 当時は野薔薇ノ民も百人くらいしかいなかったらしいよ」
「へ〜…って、あれ? 五百年前って言えば、森を彷徨う百姉妹の話が……」
「そうだよ。居場所の無かった百姉妹が王国に迎えられて、そのまま“野薔薇ノ民”になったのさ」
「国民が女の子だらけとか…えらく片寄ってるなぁ。国として成り立つのか、それ?」
「そりゃあもう、苦労だらけだったろうね。でも今はちゃんと国として成り立っているわけだから、乗り越えたんでしょ」
「まあ、確かに」
「あとは……“野薔薇ノ王国”って国名はだけど、これは“建国の母”タレイア王妃が若い頃、“野バラ姫”って呼ばれていた事に由来するとか何とか…」
「は? いま……なんつった?」
「え? いや、だから国名は、“建国の母”の愛称が元ネタなんだよ」
「いや! そうじゃなくて! ハナナちゃん今、“野バラ姫”って言ったか?」
「え? うん。言ったと思うけど……」
「“野バラ姫”っつうことは、“眠れる森の美女”? “スリーピングビューティー”?」
「……ああ、そんな呼ばれ方もしてたらしいね。呪いのせいで百年の眠りについてたって話だし」
なっ……なんてこった! オトギワルドってまんまの意味だったのかよ!
つまりここは、この世界は……
おとぎ話の世界だった!?
やったー!
なんとか二日連続投稿できました!
私頑張りましたよ!(自画自賛)
じゃあ夜勤行ってきます。