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2-18 答え合わせ

「アタシも詳しいことは判らないんだ。全部又聞きだから嘘や間違いもあるかもしれないけど、それでもいい?」

「いいよいいよ。今はとにかく手掛かりが欲しいからさ」

「えっとね。“トレードサモン”は、異世界同士で行われるトレードなんだよ。まあ、物々交換みたいなものかな?

 片方の世界が『こういう人材が欲しい』ってトレードを要請する。するともう片方の世界が『だったら代わりにこういう人材をくれ』って返答する。互いの条件が見合えば“トレードサモン”は成立する」

 なるほど。大体推測した通りだ。名前がまんまだものな。


「私のことを『“ガングビト”じゃね?』って聞いてきたよね? それはどうして?」

「アタシそんな聞き方したっけ? ま、いいや。

 アタシが住むこの世界を“オトギワルド”。“ガングビト”が住む世界を“ガングワルド”って言うんだけどさ、“オトギワルド”と“ガングワルド”は………ええっとなんて言ったかな。聞いた話だとたしか、『ムゲンにある“ヘーコーセカイ”の中でも、“オトギワルド”と“ガングワルド”はとびっきり近くにある』んだって。だから召喚しやすいんだとか何とか。アタシにはサッパリなんだけど、オトっつぁん判る?」

「うん、まあ、何となくだけど判るよ。ようするに“異世界”とは“平行世界”の一種って事だろ? その手のSF小説は子供の頃から散々読んできたからね」

「………あ〜、ごめん。オトっつぁんの言ってることもサッパリわかんないや」

「“平行世界”ってのは……脱線するから説明はまた今度な。じゃ、続けて」

「“異世界の来訪者”ってのは結構多くて、良い奴悪い奴様々なんだけど、中でも“ガングビト”は“えっちの塊”で…」

「はっ!? エッチの塊!?」

「あれ? なんかおかしな事言ったかな? 凄く頭が良いって意味なんだけど」

「そりゃ“エッチ”じゃななくて“叡智”でんがな!! え・い・ちっ!」

「えええっ!? スゴく頭が良くて、スゴくドスケベって意味じゃ無かったの!?」

 誰だよそんな嘘吹き込んだの! いや、まあ、たしかに日本じゃ発音が似てるけどさ。“えっち”はアルファベットの“H”から来てるわけだし。

 ちなみに“HENTAI”の頭文字を取って“えっち”な。

「だからええっと……“えいちの塊”だから、“ガングビト”はどんな国でも大歓迎なんだよ」

「叡智の塊……そう言われても、持ってる知識なんて無駄知識ばかりだし、大して頭も良くないけどなぁ」

「でも読み書きできるじゃん! あたしゼンゼンできないよ?」

 確かに……読み書きできない人からすれば、叡智の塊かもしれないな。


「それでねオトっつぁん。オトっつぁんの口から“イセキショウカン”って言葉が出た時に気付いたんだよ。オトっつぁんの正体は外国人じゃなくて、異世界人じゃね? それも“ガングビト”じゃね? って。

 それと、アタシらの“オトギワルド”じゃ“異世界の来訪者”は当たり前だけど、“ガングワルド”じゃ何故か秘密にされてるって聞いたことがあってさ。オトっつぁんが“ガングビト”って聞いてもポカンとしてたから、もしかしてって思ったわけ」

 確かに私の世界では、書籍にアニメにと散々出回っているが、政府が異世界の存在を公式に認めた事など一度も無い。あくまでフィクションだ。宇宙人の方が現実的なんじゃないかな。何故なんだろうな。


「だとしたら、あの夢はなんだったのかな?」

「“トレードサモン”によって交換された人同士は、意識なのか魂なのかよく判らないけど、繋がっちゃうんだって」

「繋がる?」

「うん。繋がっちゃう。で、もう一人の体験を夢の中で観ちゃうんだって」

「それってつまり、私の体験も、向こうの彼が夢で観てるかもしれないって事?」

「そうなるかな」

「もしかしたら、今この瞬間も、向こうの彼が夢の中で観てるかもしれないって事?」

「そうなるかも」

「それはまた……酷いプライベート侵害だなぁ」

「あ、そうだ! せっかくだから挨拶しとこうかな。ヤッホー♪ 向こうの君、観てるー? アタシは冒険者のハナナだよ〜♪」

 ハナナちゃんは、まるでTVのカメラを前にしてはしゃぐ女子高生のように、笑顔でピースサインをしながら私に話しかけてくる。

 なるほど、やはりあの時、向こうの世界の姫巫女ちゃんは私が観ていること前提で話してたんだな。


「でもね、判らないことがあるんだ。“トレードサモン”は特別な儀式だから、神殿で執り行われるはずなの」

「ああ、うん。確かに夢の中の彼は、見たことのない神殿に召喚されていたね」

「オトっつぁんは何処に召喚されたの?」

「………いや。判らない。突然濃霧が降ってきて、しばらくホワイトアウトで身動きが取れなくて、気がついたら森の中だったから」

「そこがおかしいんだよ。本来なら向こうの彼と同じように、オトっつぁんも神殿に召喚されるはずなんだ」

「つまり?」

「何か事故があったか、あるいは誰かに妨害されたのかも」

 事故はまだしも、妨害とは不穏だな。


「う〜ん、妨害かぁ……。異世界人ってそんなに嫌われてるの?」

「そりゃ悪さをすれば嫌われるけど、異世界人自体を嫌う人は少ないんじゃないかな。嫌われてるとすれば、召喚の儀式をした方だと思うよ」

「それって、どこが儀式をしたのか判るってことか?」

「うん。間違いないよ。儀式をしたのは“野薔薇ノ王国”さ」

「“野薔薇ノ王国”…確かハナナちゃんの故郷だったね」

「オトっつぁんの夢の話で出てきた過去話がさ、どれもこれも思い当たる者ばかりだったからね。お母さんが素っ気なかったり、許嫁がこれ見よがしだったり、可愛い妹がやたらなついてたり、そんな毎日から逃げ出したいって思うのは、“野薔薇ノ民”の若い男子の日常だから」

「そ、そうなんだ」

「オトっつぁんの代わりに“野薔薇ノ民”の男子が召喚されたんだから、儀式をしたのは“野薔薇ノ王国”で間違いないよ。もしかしたら、オトっつぁんがこの泉の避難所に入れたのも、“トレードサモン”によって、“野薔薇ノ民”に属する人になったからかもしれないね」


 ちょっとメモに書いて整理する。

・ここは異世界“オトギワルド”(確定)

・夢の中の私ダッシュは“野薔薇ノ民”男子。

・故に召喚の儀式をしたのは“野薔薇ノ王国”(何故ならトレードだから)

・“野薔薇ノ民”の泉に入れたのもそのおかげ?

・私は“ガングビト”? えっちの塊?

・私の言動は私ダッシュに見られてしまう(これは恥ずい)

・儀式の邪魔をする者がいる?

・“野薔薇ノ王国”は嫌われている?


 嫌われてる? 嫌われてる……

 “野薔薇ノ王国”か。どんな国なんだろう。


「それでさ、それでさ、おとっつぁん」

 ハナナちゃんが嬉しそうな声で聞いてくる。

「おとっつぁんは、これからどうしたい?」

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