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2-13 ここは異世界 ~アタシの故郷~

2018.9.23 誤字修正

「夢の中の私は十六~七歳くらいの冒険者なんですけど、落とし穴の罠に引っかかったんですよ」

「ふんふん。ドジを踏んだわけだ」

「多分一瞬の出来事なんだと思うんですけど、なかなか底に落ちなくて。代わりに自分の過去が次々と見えちゃって」

「あっそれ聞いたことあるある。ソウマトウって言うんだよね? アタシはまだ見たこと無いけど」

 正確には“走馬燈のように”であって、“走馬燈”自体に死に際に見るなんて意味は無いのだけどな…。

 単語だけ一人歩きしてこっちの世界に伝わったのかな?

 もしくはこっちの世界には別の“ソウマトウ”があるのか。


「だけどそれも終わって、いよいよダメだと思ったその時、気がついたら見たことのない神殿にいました」

「それは…魔法か何かで死に際に召喚されたって事かな。それとも落とし穴自体が神殿の入り口だったのか」

「え? う~ん。どうなんでしょう? 私には何とも…」

「まあいいや。続けて続けて♪」

「神殿には巫女がいて、私に『よくぞいらしてくださいました。勇者様』と…」

「ちょっと待った〜〜っ!!

 おとっつぁん! その巫女について、もっと詳しくっ!!」

「え? 詳しく……ですか?」

「オトっつぁん。これは極めて重要なことなんだ。包み隠さず、洗いざらい話してもらいたいな」

 いつになく真剣な面持ちで聞いてくるハナナちゃん。巫女の特長に何か思い当たる事でもあるのだろうか?


「ええっと、そうですね……。年齢は十五~六歳くらい。長い黒髪の美少女で、清楚で知的な優等生タイプ…でしょうか?

 身長はハナナちゃんと同じか、やや小さいくらいでして。服装は…デザインこそ独特でしたが、上半身は白い衣で下半身は赤い袴でしたね」

「服装とかどうでもいいっ! おっぱいは!! その子のおっぱいはっ!!」

「は? おっぱい?」

「オトっつぁん。これは極めて重要なことなんだっ! 包み隠さず、洗いざらい話してもらいたいなっ!」

 いつになく真剣な面持ちで聞いてくるハナナちゃん。巫女のおっぱいに何か思い当たる事でもあるのだろうか?


「ええっと、おっぱいは……そもそも巫女服は胸を強調するような構造になってないので、よく分からないとしか」

「おっぱいは主張してなかった。つまり、控え目って事か!」

「そうかもしれません」

「なるほど…。オトっつぁんはそういうのが好みなのか……」

「は? 好み? そりゃまあ、そういうのも嫌いではないですが……」

「そっか。そういうのが好みなんじゃなくて、そういうの“も”好みなのか…。なるほどなるほど。節操無しだねぇ」

 こ、こやつ!

 度々探りを入れてくるとは思っていたが、狙いは私の女性の好み……もしくは性癖かっ!?

 いや、私の性癖に人に知られて困るような変態性は無い! 無いはずだ! 無いと思う。無いんじゃないかな…

 だからと言って不用意に知られるのも、弱点を暴かれるようでなんか嫌だ。はぐらかさないと。

 国家の最高機密に狙いを定めるとは…ハナナちゃん、恐ろしい子!!


「それでそれで? 他にはどんな女の子が出てきたのさ?」

「女の子と言われましても……他に思い当たるのは、走馬燈に出てきた幼なじみと妹くらいでしょうか」

「ふ~ん。幼なじみと妹かぁ……。わりかし普通だなぁ」

「普通なんですか? たしかにラブコメものの定番っちゃあ定番ですが……」

「なあオトっつぁん! もしかしてその幼なじみって、許嫁だったりする?」

「えっ! ……その通りです。よく分かりましたね」

「妹はお兄ちゃん大好きっ子で、いつもついて回ってるんだろ?」

「……確かにそんな空気はありましたね。でも、どうして分かるんです?」

「そりゃ分かるよ。アタシの故郷じゃ風習みたいなものだし」

「風習?」

「アタシの故郷は男不足なのさ。だから男の子が生まれれば、必ず許嫁が選ばれた。妹がいれば自然とお兄ちゃんっ子になるみたいだよ」

「はぁ~。それは羨ましい」

「そうなの? そんな風には見えなかったけどなぁ…」

「と、言いますと?」

「だってさ、アタシの故郷の男達はみんなそんな状況がイヤでイヤでしょうがなくて、“自分試しの旅”に出ちまうんだぜ?」

「“自分試しの旅”……ですか」

「でもって旅に出た男の半分以上は、二度と帰ってこないんだよ。自分の居場所を見つけたのならいいけど、大半は野垂れ死にかなぁ」

「なるほど。男不足になるわけですね」

「夢の中にお母さんは出てきた?」

「ええ。出てきましたよ。妹のことばかり気にかけていて、私には感心がないみたいで、悲しい気持ちになりました」

「そうそう。そうなんだよ、アタシの故郷もそう!」

「…と言いますと?」

「アタシの故郷の女達は、みんな自分の跡継ぎ……つまり、娘が欲しくてしょうがないの。

 だからすぐに結婚して子供を産みたがるんだけど、自分の息子には興味が無いんだよね。

 最初に娘が生まれたら、そこで満足しちゃう。最初に息子が産まれたら、娘が生まれるまで子作りに励む」

「すると、息子さんは母の愛を知らずに育つのですか?」

「そうなるね。息子の育児放棄をする母親もいるし」

「それは……酷いですね」

「その代わり、母親以外の女達からはメチャクチャ愛されるけどね♪」

「は? それはどういう……」

「さっきも言ったでしょ? アタシの故郷は男不足だって。女達は娘が欲しい。でも子宝を授かるには自分の家族以外の男の協力が必要。

 だからアタシの故郷で生まれた男達は、母親に愛されない代わりに、母親以外の女達からチヤホヤされまくるんだよね」

「それはまた…両極端ですね」

「うん。若い男達が故郷を飛び出す原因とも言われてる。悪循環なのは分かってるんだけど、どうにもならないんだよね」

「ハナナちゃんもそうなんですか?」

「え? アタシ? 若い男に見える? オトっつぁん、アタシの裸見てなかったっけ?」

「いやいや、そっちじゃなくて! …その…ハナナちゃんも娘が欲しいのですか?」

「どうだろう? アタシはほら、ハミダシ者だからさ♪ 故郷に馴染めなくて飛び出して、明日をも知れぬ冒険者をやってるわけよ♪」

「はみ出し者……。ははは、なるほど。そうでしたか」

「なんだよオトっつぁん。なんか嬉しそうだな」

「そう……ですね。そうかもしれません」

 ハナナちゃんに何かしらのシンパシーを感じていたのだけど、ようやく理由が分かった。

 ハナナちゃんも故郷では私と同じだったのだ。不器用で、変わり者で、はみ出し者だったのだ。


「ところで、ハナナちゃんの故郷ってなんて名前なんですか?」

「アタシの故郷? “野薔薇ノ王国”だよ」

「野薔薇の……王国……」

「聞いたことある? ここら辺では超有名なんだけど」

「茨城って地名なら知ってますけど、関係ないですよね? イバラの城って書くんですけど」

「確かに似てるような気もするけど、関係ないんじゃないかな。聞いたこと無いし」

「でしたら多分……知らないと思います」

 そうだ。知らないはずだ。ハナナちゃんの故郷なんて知るはずがない。

 なのに何だろう。この既視感。どこかで聞いたことあるような感覚。

 それと同時に感じる違和感。まるで他人の記憶を覗いたような感覚。


 あれは何だ?

 これは誰だ?

 私は何なのだ?

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