2-7 ここは異世界 ~魔法使い~
何とか出勤前に書き上げました。相変わらず時間に余裕が無くて、文章チェックできていません。
誤字脱字ありましたらごめんなさいです。
「そろそろいいぜ? オトっつぁん」
「え? ……なんでしたっけ?」
「アタシに大事な話があるんだろ?」
「ああ、そうでしたそうでした。でも、特訓はもういいんですか? ハナナちゃん?」
「う、うん、そりゃまあ、特訓はまだ必要だけどさ。それよりもオトっつぁんの話の方が気になるから」
「分かりました。そう言うことでしたら……」
私は胸ポケットから小さなメモ帳とシャープペンを取り出す。今は乾いているが、泉に落ちた時の名残でシワシワのフニャフニャだ。
「ハナナちゃんが食事の準備をしている間に、書き出しておいたのですが、まずは確かめたいことが…」
シャーペンの頭をカチカチとノックしながら、メモ帳を見る。
とりあえず自宅を出発してから今に至るまでで、気になったことを書き出してみたのだが、何から聞いてみようかな。
突然手元が影で暗くなる。ハナナちゃんがメモ帳を覗き込もうと、側に駆け寄って来たのだ。
「おとっつぁん! なにこれ! なにこれ!」
「へ? いや、ただのメモですけど……」
「見せて見せて~~~♪」
「……いいですけど」
これは本当にただのメモ帳だ。旅行に合わせて駅の側のコンビニで買った、百円プラス税の安物。
それをハナナちゃんは、興味津々でメモ帳を見入っている。何が楽しいのやら。
一連の出来事を箇条書きにした以外は、電車で移動中に描いた落書きくらいしかないのに……
落書き………?
しまった~~~~っっ!!!!
私の落書きって、素人さんにはちょっとお見せできないものばかりじゃないかっ!
中2病ただよう魔法陣の図案とか! 厨2心くすぐる武具や刀剣のデザイン案とかっ!
特に萌え萌えキュンな美少女絵は、獣娘だったり、エルフ耳だったり、魔女っ子だったり、メイドさんだったりと、多岐にわたる!
まずい! オタクであることがばれてしまう!! 絶対キモオタって思われてしまう!!
好意的に受け取られて「マンガ家さんですか?」と言われるのも辛い。若い頃挫折しただけに。
返してもらおうと思った時にはすでに手遅れで、全てのページを見られた後だった。
そして私を見るハナナちゃんの目は、キラキラと輝いていた。日陰者には眩しすぎる輝きだ。
やめて~~! 私に過剰な期待をしないで~~~!! マンガ家ってのは絵が描けるだけじゃなれないんだよ!
私の思いとは裏腹に、ハナナちゃんは嬉しそうに口を開いた。
「オトっつぁんて、まどーしだったのかっ♪」
「………は?」
予想外の返しが来た。マンガ家じゃなくて?
「まどーし?」
「うん。まどーし♪」
ところで“まどーし”ってどんな漢字をあてるんだ? 魔の道を歩む士なのか。それとも魔の世界に導く師なのか。
どっちでもいいか。とりあえず魔道士ってことにしておこう。
「……魔道士じゃないの? これって“覚え書き書”でしょ? 開発中の魔法のレシピを書き込んでるじゃん! アタシ知ってるよ♪
以前、仕事で魔道士の護衛をした時、魔道士のじいさんがが同じようなもの持ってたんだから」
「いえ……違います。少なくとも魔道士ではないです」
「……そうなの?」
「そうです」
「そう……」
落胆させて申し訳ないけれど、嘘でぬか喜びさせても申し訳ないしな。そもそも魔道士とは何だ?
いや、意味は知ってるよ? ファンタジーものの小説やアニメに散々出てくるものな。ただ、魔法使いの上位互換って程度しかわからない。
作品ごとに解釈が違うし、深く掘り下げた作品も無いことは無いのだろうけど、私は読んだことがないし。
フィクションではなく、リアルの世界で魔道士や魔法使いと呼べる存在というと、やはり手品師だろうな。
日本だと、Mr.マリックに引田天功、マギー司郎やてじなーにゃの山上兄弟あたりか。
などと考えていると、うなだれていたハナナちゃんの目に輝きが戻る。
「じゃあ魔法使いだろ! だから“覚え書き書”に長い呪文を書いてるんだろ? 覚えきれないからって」
「いえ…魔法使いでもないです」
「……そうなの?」
「そうです」
「そう……」
再び落胆させて申し訳ないけれど、何で私が魔道士で魔法使いなんだ? マギー審司みたいにいきなり耳が大きくなるわけでもないし…
「あの…ハナナちゃん」
「な、なに?」
「魔道士と魔法使いって、どう違うのですか? 私には区別が付かないのですけど…」
「魔法使いはね、名前の通り魔法を使う人の事だよ。そして魔道士はね、魔法を作る人の事」
魔法使いはゲームを遊ぶプレイヤーで、魔道士はゲームを開発するプログラマーって所か。なるほど、確かに混同しちゃいけないな。
つまりは、おたくな落書きで溢れたメモ帳のせいか。魔法陣の図案とかで勘違いされた?
でも、箇条書きとか読めば魔法とはまったく関係ないってくらい分かりそうだが…。
などと考えていると、うなだれていたハナナちゃんの目に、再び輝きが戻る。
「で、でもオトっつぁん、読み書きは出来るんだろ? だったらやっぱり魔法使いだ!」
読み書きが出来れば魔法使い? それってつまり……
「あの…ハナナちゃん?」
「な、なに?」
「ハナナちゃんは…魔法使えるの?」
「何言ってるんだよ! アタシは小太刀使いの冒険者だよ! 脳筋だよ! オトコ女だよ! だから使えなくても平気なの! 暗記とか苦手だし」
つまりもハナナちゃんは、読み書きが出来ないのか。
それは世界的に見るなら不思議なことではない。むしろ日本の識字率の高さがおかしいのだ。
なにしろ江戸時代の頃からダントツに高かったからな。貧しい町人ですら読み書きできる国なんて、当時の海外にはどこにも無かった。
ネットで知った情報だが、“Victoria”という海外の歴史シミュレーションゲームでは、『明治維新イベント』はチート扱いなのだそうだ。
それまで非文明国扱いだったのに、『明治維新イベント』が発生した途端、突如文明化を達成してしまう。
ゲーム的にはあり得ない躍進ぶりに「明らかにおかしい! チートだ!」と叫ぶ外国人プレイヤーが数多くいたのだとか。
でもしょうがないよね。事実なんだし。江戸時代の日本人の学力の高さを知っていれば、チートではないことは明らかなのだけど。
まあ、それはそれとして…
「あの…ハナナちゃん」
「な、なに?」
「読み書きできるだけで、魔法使いになれるのですか? 本当に?」
「そりゃそうだよ。だって魔法紙や魔道書が読めるじゃん」
「それだけで魔法使いになれるとは思えないのですけど…」
「そりゃ確かに“正式な魔法使い”になるには修行やらコネやら色々必要だけどさ、冒険者やってる魔法使いは、大半が資格を持ってないモグリだから♪」
ああ、なるほど…。つまり“自称魔法使い”って事なのね。
自称マンガ家、自称芸術家、自称小説家、自称評論家。確かに名乗るだけなら誰だってできますわな。ハッタリが苦手な私にはとても無理だけど。
ハナナちゃんが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「オトっつぁんってさ、もしかして魔法を知らないの?」
「いや、知らないわけではないのですが。でも、見たことはないです」
「魔法の無い国か…。そういえばどこか遠くに、魔法が封じられていて一切使えない国があるって聞いたことあるけど」
「それかどうかは分かりませんが、私の国は“日本”と言います。知ってますか?」
「どっかで聞いたような気がするんだけど……わかんないや♪」
やっぱりここは日本じゃないんだな。そしてハナナちゃんは日本人ではない。
でも「聞いたことがある」とはどういう事なんだろう。
もしかして、私以外にもいるのだろうか? この世界に来てしまった日本人が……