1-2 出会いはテンプレのように…?(2/3)
2018.06.06 誤字修正しました。
……あ、あれ?
いない! 女神ちゃんがいない! 腹筋割れている系女子は何処だ?
ちょっと目を離した瞬間、先ほどまで泉の中央にいた女神ちゃんが消えた。
辺りを見回しても誰もいない。もしやと思い空を見上げたが、月夜が綺麗なだけでやはり誰もいなかった。
幻覚だったのだろうか? 昔から今に至るも、一貫して異世界ファンタジーものが大好きだから、幻想的な泉の情景を観ているうちに、うら若き娘が沐浴しているような妄想が浮かんで、本当にいるような気がしてしまった……とか?
いやまて! あんなにはっきり見えていた女神ちゃんが幻覚なら、私は今、相当ヤバイ状況にあるって事だぞ! 何か幻覚系の麻痺毒を気付かぬうちに摂取したか。彷徨っているうちに精神が崩壊して発狂したか。もしくはとんでもない何かだ。一体何が起きている? わからん。全然わからん!
と、とりあえず岸に上がろう。思ったほど冷たくはないけど、まだ三月の下旬だ。このままだと風邪を引いてしまう。力が入らない足を叱咤し、何とか立ち上がり、岸に向かった……その時だった。
「だっしゃ~~~~~~~~!!!!」
突然何かに右足首を掴まれたと思った瞬間、大きなかけ声と共に、私は後へ投げ飛ばされる。ああ……なるほど……潜ってたのね。水底が浅かったから盲点だった。
ゆっくりと宙を舞いながら私は見た。水も滴る美少女が、雄叫びを上げながら両手を天高く掲げている様を。その美しくも勇ましい姿は戦闘民族アマゾネスを彷彿とさせる。
私は走馬燈のように、古いCMを思い起こすのだった。
だっだーん。ぼよよん ぼよよん… 嗚呼、何もかもが懐かしい…
私は勢いよく仰向けに転倒したものの、背負っていたリュックのおかげで水没せずに済んだ。しかし、起き上がれない。身動きが取れない。アマゾネスな女神ちゃんが間髪入れず、私の胸元を踏みつけてきたのだ。どこぞの業界ではご褒美かもしれないが、ノーマルな性癖である私には不条理な暴力だった。
アマゾネスな女神ちゃんは、私の眼前に刃物をちらつかせながら凄んでくる。
「てめぇ、何モンだ。どうやって泉に入ってきた! ケッカイを破るとかタダもんじゃねぇな! マドーシか? ドレーガリにでも雇われたか? 黒幕はどこのどいつだ! この前ぶっ潰したゴートー団か! 鼻っ柱を折ってやったキゾク共か! オーガのヤツらか! おい! 黙ってないで何か言え!」
可愛い顔をしているが凄み慣れている感じだ。多分、眼前のナイフもハッタリではないだろう。殺すと決めたら迷わず殺す。そんな風に感じた。
しかし、矢継ぎ早に聞いてくる上に、聞き慣れないキーワードばかりで何の話をしているのかサッパリ分からなかった。答えたくても答えようが無い。となると、選択肢は一つだけ。この場は謝るしかない。謝って乗り切る以外にない。
「いや、あの、すみません! ごめんなさい! …へ?」
その時だ! 私は大変な事に気付いてしまった。これはマズイ! このままじゃヤバイ! 一刻も早く彼女に知らせないとっ!
「うわあああああああっ!!! ちょっとちょっと!」
驚いて情けない悲鳴を上げる私。背後に不審者が居ると思ったのだろう。アマゾネスな女神ちゃんは慌てて周囲を見渡す。しかし私達二人以外、泉のしばには誰も何も居ない事が確認できただけだった。
「脅かしやがって! 誰もいないじゃないか!」
「違うからっ! そうじゃなくてっ!」
「違うって…じゃあなんだよ」
「だからっ……」
状況を説明する。
私は今、彼女に胸部を右足で踏みつけられている。立ち上がれないため、不本意ながら下から見上げざる負えない、情けない状況だ。
彼女は勇ましく、左足を軸にして水底に立って身体を支え、踏みつけるために右の膝関節と股関節を曲げ、右足の裏を私の胸元に押しつけている。そしてより重心を安定させるため、股関節を前方に曲げるだけでなく横に広げている。
光源は月明かりのみなので、月明かりが届かなければ当然影になる。ところがここは泉である。水面が鏡のように月明かりを反射するため、影の闇も薄くなる。
そして彼女は今、一糸まとわぬ姿である。二つの小ぶりな膨らみは、都合よく隠れているにもかかわらず……だ。
おわかり… いただけただろうか……
「見えてるからっ! 丸見えだからっ! BDでも修正待った無しだからっ!!」
「あぁん? なんだそのびーでぃーって。意味わかんねーよ。っていうか、なんで目をつぶってるんだ? 話があったら目を見て話せや」
「だからっ! 大切なところがが満開になんだってば!」
「え? あぁ? ああー…」
ようやく気付いてくれたようだ。しかし、彼女の反応は意外なものだった。
「それがどうした?」
「え? えええっ!? いやっ、いやっ、だからっ! 年頃の若い子がこんなオッサンの前でそんな姿でいちゃいけないんだよっ!!」
「ああ? 誰が決めたんだ、そんなこと」
「誰がって……」
そういや誰が決めたんだろう。PTAかな? それとも宗教法人? 人権団体? 放送法? わかんないや。
「そこらの小娘みたいに恥じらえば満足か? 得物を落として無防備になって、泣き叫べば大喜びか? 生憎だが、水浴び中の襲撃なんて日常茶飯事さ! 全部撃退してるけどなっ!」
そ、それはつまり……。頻繁に覗き被害に遭っていたのか? そして繰り返し覗かれているうちに、裸を見られる事に慣れちまったのか!? くそっ、色々と察してしまった。可哀想に……。だとしてもだ。この状況は看過できない。
「と、とにかく服を着て! 服を着てください!」
「何言ってんだ? ヒヒオヤジならスケベ心が大歓喜だろ。もしかしてテメー、ホモか?」
「いいから着ろっつってんだろうがっ!!! 目のやり場に困るんだよっ!! うが~~っ!!!」
気がつけば怒鳴りつけていた。目前にちらつく切っ先も、丸出しの観音様も、何もかも忘れ、私は聞き分けのない女神ちゃんにぶちキレていたのだ。
しばしの沈黙とにらみ合いが続いて、最初に動いたのは……
「…ったく、モモカねえみたいな事言いやがって…。わかったわかった。着りゃぁいいんだろ。着りゃぁよぉ!」
意外にも女神ちゃんが折れたのだった。
悪態をつきながら私を右足から解放すると、背中を見せながら岸辺に上がり、側の茂みへと向かう。
美しい…お尻だった……。
はっ!!!
何をやってるんだ私はっ!! 見とれてる場合かよっ!!
美尻なんてどうだっていいだろっ! いや…どうでも良くはない。大事な事だ。うん、大事。……なのだが、今はそれどころではない! 一歩間違えれば命のピンチだったのだ! なのに、命乞いするどころか挑発するとか、アホじゃねーのか私っ!
茂みは女神ちゃんの肩くらいの高さだったが、しゃがんだのか女神ちゃんが見えなくなる。恐らく服や荷物を置いてあるのだろう。
あれ? これはもしかしてチャンスなのか?
伝承によると、女の子は準備に時間がかかると言われている。しかも女神ちゃんは泉に潜ったばかり。ずぶ濡れの身体を拭き、たっぷり水を吸った髪を乾かさないことには、服だって着られないだろう。昔の偉い人は言いました。三十六計逃げるに如かず! この待ち時間を利用して逃げよう。出来るだけ遠くへと……
今夜は夜勤なので、予約掲載設定を試してみます。2018年4月14日2時に無事掲載されますでしょうか。