表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/190

23-9 せいぎのめがみさま ~信徒編9~ 死んだらどうなる

「なあ姉さん、その人は……もうずっと火傷を負ったままなのか?」

 正直、ロズワルドがここまで取り乱すとは予想外でした。

 幽霊が怖いはずのに、酷い火傷から悲劇を察して、今では彼女のために泣いている。

 優しくていじらしい自慢の弟です。

「ねえ、もういってもい〜い? ぼく、はやくおばちゃんのブローチをみつけてあげたいの」

 一方で、まるで動じないミカゲルも予想外でした。

 ですが今、幽霊となった彼女の役に立とうと一生懸命です。

 ロズワルドとは方向性こそ違いますが、ミカゲルもまた、優しくていじらしい自慢の弟です。

「ロズくん立てる? 話の続きは歩きながらしましょう」


「人が死ねば、冥府の国へと旅立つことになる。最初こそ死んだ時の姿だけど、冥府に行けば、好きな時期の自分にもどれるの。あどけない赤ちゃんの頃でも、やんちゃな幼年期でも、恋に焦がれる思春期でも、最も輝く青年期でも」

「生きた長さだけ、選択肢も増えてお得ってことか。逆に子供の頃に死ぬと、もう大人の姿にはなれないんだな。でも、いくら選択肢が増えるからって、年寄りの姿になる人なんているの?」

「冥府で自分の子や孫を出迎える時、若い姿で再会しても困惑させるだけでしょう?」

「ああ、なるほど。相手に合わせて姿を使い分けられるってことね」

「互いに当時の姿になって思い出話に花開かせることも出来るし、互いに最も輝いていた年齢になって、親子や師弟で真剣勝負をすることだって出来るの」

「ああ、確かに。互いにすでに死んでいるから、これ以上死ぬこともないもんね」

「聞いた話によると、冥府ではハデス様主催の武闘大会が度々行われてるそうよ。レジェンド級の英雄や剣豪達が時代を超えて、現役の姿でぶつかり合うんだって。数々の名勝負が生まれているらしいよ」

「そりゃすげぇや。死後の世界も案外悪くないんだな」

「恐れるようなものじゃないと思うよ。ただ、何かをやり遂げたり、長生きしないと、得られる特典も少ないから、ロズくんも精一杯生きてちょうだいね♪」

「やれるだけやってみるよ。最期は『我が人生に悔いなし』って感じで、笑いながら死んでやるさ」

 ディケーは一度ミカゲルを見て、視線をロズワルドに戻します。

「でも……、この世に大きな未練があると、幽霊になって留まってしまう。姿も死んだ時のままで固定されるから、霊感の強い人には恐怖の対象にしかならない。更に悪い事に、多くの霊がこの世に留まれば、悪霊化して不幸を呼び寄せてしまうの」

「良い事なんて何も無いんだな」

「だから除霊師なんて職業もあるのだけれど、彼らの多くは手口が強引だから、反発して幽霊側も反発して抵抗する。当然荒事へと発展して最悪死者も出てしまう」

「ミカの場合はどうなのさ」

「ミカくんの場合は、とても優しくて平和的だよ。霊の訴えに耳を傾けて、未練や無念を解消してあげるのだから。霊の彼女も満足して冥府へ旅立って、美しい姿も取り戻せるよ。だからと言って、荒事が無い訳じゃないけどね」

「それはどういうこと?」

「霊の無念が『誰かに殺されたこと』なら、その犯人に然るべき罰を与えることがミカくんの使命になるの。もちろん今は身の丈が合ってないから大丈夫だよ。でも、ミカくんが成長すれば、いずれそうなる。それが"アベンジャー"なのだから」


 ミカゲルは会話に参加せず、前を黙々と歩いていました。右腕は相変わらず不自然に掲げたままです。

「ところでミカ、お前は何処に向かってるんだ?」

「わかんない」

「わかんないって…どういうことだよ」

「おばちゃんがこっちだって言うから…」

「レディゴーストの御心次第ってことかよ」

 ロズワルドは、だんだんミカゲルが心配になって来ました。本当に大丈夫なのでしょうか。

 進む道も徐々に細くなり、人里から離れて山へと向かっているようです。

 やがて道が開けたかと思うと、小さな山小屋が現れました。どうやら目的地のようです。

「ここでブローチを探すのか?」

「うん。たぶん」

 見たところ、可もなく不可もなく、といったところでしょうか。金持ちの別荘でもなければ、低所得者の掘っ立て小屋でもない、程々の造りです。

 ロズワルドは真っ先に小屋へ近づき、ドアをノックしますが、反応はありません。

「誰かいませんか〜〜〜!」

 やはり反応はありません。留守でしょうか? それとも使われていない?

 何気なくドアを引くと、簡単に開きます。それと同時にむせ返るような臭いがロズワルドの鼻を刺激します。

「ちょっと待てっ! 二人とも来るんじゃないっ!」


 血の臭いでした。

ふと、丹波哲郎の『大霊界』を思い起こしながら書いてましたw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ