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23-8 せいぎのめがみさま ~信徒編8~ "アベンジャー"

「はあ、はあ、やっと追いついたよ〜 ……って、二人とも何やってるの?」

 少し遅れて合流したディケーでしたが、彼女を待っていたのは、不自然に右手を上げるミカゲルと、硬直したまま立ち尽くすロズワルドでした。

「おねえちゃん、かってにおでかけしちゃってごめんね」

 小さな弟が気まずそうに謝ります。

「そうだね。次は一言残してちょうだい。…それはそうと、大きなおとーとくんはどうしちゃったのかな?」

 ロズワルドがぎこちなく振り返ります。その顔は恐怖で引きつっていました。

「ね、ねーさん…」

「ロズくん顔が青いよ? どうしたのさ?」

「と…」

「と?」

「透明人間が……現れた!」

「とーめいにんげんって……何言ってるのよ。現れないのがとーめいにんげんでしょ?」

「だって痕跡残してんだよ! 現れたも同然じゃん!」

 そう言ってロズワルドはミカゲルを指さします。正確にはミカゲルの右手を。

「痕跡って……んっ?」

 ミカゲルの不自然に上げた右手に現れている、不自然な凹みを見て、ディケーは全てを察します。

「あ〜。あ〜〜〜。そっか〜。ミカくん、それ引いちゃったか〜」

「な、何? どういう事だよ!」

「大丈夫だよロズくん、とーめいにんげんじゃないよ。ただの幽霊だから♪」

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 彼はスクリームクイーンのような悲鳴を上げながら、全力で逃げます。幽霊が苦手とは、意外な弱点です。

「大丈夫だよロズくん! 怖くないよ! もし悪霊だとしても、今はミカくんの保護下にあるから安全だよ!」

 なんとか10メートル先で踏み留まっていたロズワルドは、5メートルまで戻って来ます。

「一体全体、どういうことだってばよぉっ!! ミカがどうしたって?」

「ミカくんはもう、"静かなる訴え"が覚醒してたんだよ。だから幽霊が見えて、話を聞けるようになったの」

 ロズワルドは更に1歩近づいて問います。

「幽霊が見える能力って…、それって"デストロイヤー"タイプなの? それとも"セイバー"タイプ?」

「どっちとも違うよ。ミカくんが手にしたのは3つ目のタイプ、"アベンジャー"だから」

「アベンジャー? ってことは、正義の復讐者ってこと? 具体的にはどんな能力なのさ」

 ロズワルドは更に1歩近づきます。

 好奇心が恐怖心を上回ったのか、その顔に恐れはもうありませんでした


「ロズくんは人が死ぬとどうなるか知ってる?」

「死者の国に行くんだろ?」

「そう。ハデス叔父様が支配する冥府の住民となるの。だけど、未練や無念が強すぎると、地上の世界に留まってしまうの。それが幽霊ね」

「未練や無念が、幽霊を生み出すって事か…」

「だから幽霊の話を聞いて、未練や無念を晴らす手伝いをするのが"アベンジャー"の、つまりミカくんの使命になるの」

「それって除霊ってやつだろ? 除霊師やら坊主やらエクソシストやらと、どう違うのさ?」

「結果は同じかもしれないけれど、やり方は違うんじゃないかな。そうだなぁ……」

 ディケーは少し考えて話を続けます。

「例えば、神出鬼没の殺人鬼がいたとする。証拠を残さないため、人の手で捕らえるのはまず不可能。だけど、殺された犠牲者本人から直接話を聞けるなら? 犠牲者を生き返らせることは出来ないけれど、犯人を倒すことで無念を晴らしてあげられる。安心して冥府へ旅立てるようにしてあげられる」

「代わりに復讐をしてあげる。…だから"アベンジャー"なのか」

「それが名付けた理由だけど、本当に復讐をするかどうかはミカくん次第ね。ちなみに、今の状態でミカくんに触ると、その間だけ幽霊が見えるようになるよ」

「えっ!? マジでっ!?」

「うん。マジで」

 ディケーはそう言うと、ミカゲルの頭を撫でながら、ミカゲルの右手の更に上を見ました。

「あ………」

「え? 何? どうしたの?」

「ちょっと質問だけど、ロズくんって紳士?」

 思いがけない質問に、ロズワルドは困惑します。

「どうだろう? ゲス野郎ではないつもりだけど」

「そう……。私はロズくんの好奇心を押さえつけるつもりはないよ。けれど、もし彼女の姿を確かめたいなら、顔は見ないであげて。お化粧が崩れていて、殿方に見せられる状況じゃないのよ」

 そう言うとディケーは「見たければどうぞ」と言わんばかりにミカゲルから距離を置きます。

 今やロズワルドに恐怖心は無く、押さえられないほどの好奇心で溢れていました。しかも危険が無いと来れば、幽霊を見ない手はありません。

 しかし、ディケーはロズワルドに紳士たることを望んでいます。幽霊の御尊顔は気になりましたが、姉の期待に応える方が好奇心を上回りました。

 ロズワルドは足下を見ながらミカの頭に触ります。幽霊に足があるのか、それを確かめるだけでも意義があると思ったからでした。


「……ロズくん、大丈夫? ロズくん?」

 ロズワルドはディケーの問いに答えず、俯いたままでした。もはや幽霊は見ていません。拭っても拭っても、涙が溢れて止まらず、目を開けていられなかったのです。

「ひでぇよ。ひどすぎるよ。何でこの人は、こんな目に遭っちまったんだ……」

 足下を見るだけでも分かる酷い火傷。焼け焦げてボロボロの着衣。周囲に漂う焦げ臭い匂い。あまりにも惨めで、憐れで……

 そんなロズワルドをミカゲルは、不思議そうに眺めていました。

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