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23-7 せいぎのめがみさま ~信徒編7~ ミカはいずこ

 気がつけば、ミカゲルは消えていました。

 ついさっきまでディケーの傍らにいたはずなのに…。

「ミ、ミカくん!?」

 ディケーは慌てて立ち上がり、周囲を見回しますが、何処にも見あたりません。

「ミカくん! どこ〜〜〜!!」

 返事はありません。

 近くに隠れているのでしょうか?

 気を失って倒れているのでしょうか?

 何処かへ行ってしまったのでしょうか?

 それとも……拐かし?

「お、お、お、落ち着くのよロズくん!」

「いや、ねーさんが落ち着け」

 ディケーはすっかり動揺していました。寂しがり屋で、いつもくっついて離れたがらないミカゲルが、独りで何処かへ行ってしまうなんて、決してあり得ない事だったのです。

 しかもミカゲルは、ついさっきまで傍らにいました。何故いなくなった事に気付けなかったのか? そのせいで、もしミカゲルに何かあったら…。己の迂闊さに、ディケーは狼狽せずにいられなかったのです。

 しかしロズワルドは冷静でした。

「なにをパニクってるんだよ、ねーさん。オレとミカは何だ? 正義の女神様のたった二人の信徒だろ? 信徒とは心が繋がってるんじゃなかったっけ?」

「はっ!? そ、そうだったねっ!」

 ディケーは目を閉じ、ミカゲルを探ります。

「よかった! 見つけた! でも中年女性が側にいる! 手を繋いで一緒に歩いてる!」

「中年のおばさんと? ってことは……誘拐された?」

「ミカくんは可愛いからね。拐かしたくなる気持ちは分からないでもない」

「まったく、あの年増キラーめ」

「だっ、誰が年増だ〜〜〜〜〜〜っ!!」

「いや、ねーさんは年増どころじゃねーだろ。見た目は幼女だけど」

「幼女でもないやい!!」

 ですが分かりません。その女性が誘拐犯だとして、どうやってミカゲルを連れ去ったのでしょう。

 あるいはミカゲルが自主的に付いていったのでしょうか。だとすれば、どうやって誘い出したのでしょう。

「とにかく追い掛けて捕まえよう! ねーさん、ミカのいる方向はこっちで合ってるよね!」

 ロズワルドには、はっきりミカゲルとは分かりませんが、正義の信徒同士であれば方向くらいは認識できます。

「うん。間違い無いよ」

「じゃあ、先に行って捕まえてくる!」

「お願いね!」

 ディケーはロズワルドを見送ると、広げた食器類やお菓子を仕舞おうと、バスケットの側に駆け戻ろうとします。

 するとヘルメスがそれを制しました。

「片付けは任せて、ディケー姉さんも行ってください」

「えっ! でも、12柱の貴方に雑用なんて頼めないよ」

「いいから行って! ミカくんには、きっとディケー姉さんも必要です! すぐに追いつきますから!」

「……わかった。ごめん、ヘルメスくん。頼みます!」

 ディケーもロズワルドの後を追って駆け出しました。



 ミカゲルはすぐに見つかりました。独りで道形を歩いています。

 気になったのは、ミカゲルが不自然に右手を上げ続けていることでした。

 しかしディケーの話していた中年女性は、どこにも見あたりません。ロズワルドに気付いて逃げてしまったのでしょうか。

「おーいミカ!」

 ロズワルドが呼びかけると、ミカゲルは歩みを止めて振り返ります。

「あ、にいちゃん」

「何やってんだよミカ! 黙って独りで行くなよ! 心配するだろ? ………お前、独りぼっちはイヤじゃなかったのか?」

 するとミカゲルはキョトンとした顔で、こう言いました。

「ひとりぼっちじゃないよ? だってにいちゃんともねえちゃんとも、こころがつながってるもん。ちっともさびしくないよ?」

「そ、そうなのか」

 どうやら信徒としての絆を、すでに実感しているようです。もしかしたらロズワルド以上に加護を使いこなせているのかもしれません。

「何で独りで行っちゃうんだよ! 心配するだろ!」

「だって、おねえちゃんと、だいじなおはなししてたでしょ?」

「邪魔しちゃ悪いと思ったのか」

 ミカゲルはうなずきます。

「そうか。そりゃ悪かった。だけど出かけるならせめて一声かけてくれ。話の腰を折ってもいいから」

「うん、わかった」

 ロズワルドは念のため、辺りを見回します。しかし誘拐犯は見あたりません。すでに逃げ出してしまったのでしょう。

「じゃあ、戻るぞ。ねーさんがメッチャ心配してるからな」

「それはダメだよ」

「ダメって…どうして?」

「おばさんがね、こまってるの」

 おばさん? 誘拐犯のことでしょうか?

「困ってるって、何が?」

「たいせつなブローチをなくしちゃったの。だからぼく、いっしょにさがしてあげないといけないの」

 なるほど、人の良さに付け込んできたか。ロズワルドは理解しました。ましてや今のミカゲルは正義の信徒です。助けを求められれば手を差し伸べずにはいられなかったでしょう。

「それでミカ、そのおばさんは何処にいるんだ? 別行動なのか?」

 ロズワルドの問いに、ミカゲルは困惑しながら答えます。

「なにをいってるの? ここにいるでしょ?」

 そう言ってミカゲルは、不自然に上げる右腕を見ました。

 ロズワルドは、何を言っているのかサッパリ分かりませんでした。

 ミカゲルが見上げた方向には誰もいません。

 一体何を見ているのでしょうか?

 しかし、何気なく見たミカゲルの右手に、違和感を感じます。

 気になってよく見てみると、右手の皮膚が妙な具合に凹んでいるのです。

 まるで、何か柔らかいものを押し当てたように。

 それは……、それはまるで………


 見えない何かに手を握られているようでした。

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