23-5 せいぎのめがみさま ~信徒編5~ 声援昇圧2
そろそろ頃合いと思い、ディケーはバスケットから水筒と、人数分のカップと小皿を出し、小皿にはクッキーを並べます。
あれ? ミカくん?
ディケーの左隣に座っていたミカゲルは、何か気になるのか、ずっと背後の林を見つめていました。
ディケーも振り返りますが、林には精々小動物がいる程度で、特に危険はなさそうです。
ミカゲルが気になるのは、小さな翼をパタパタとはためかせ、一生懸命に飛ぶ青い小鳥でしょうか。
それとも……もしかして、2つ目の加護が覚醒した?
「そろそろ休憩しよう」
ヘルメスの提案にロズワルドは同意し、大岩を離れるとトボトボと戻って来ます。疲れているのでしょうか?
「お疲れ様。どうだった?」
ディケーはカップにお茶を注ぎ、戻って来たロズワルドに手渡しました。
「うん。大体分かったよ」
ロズワルドはディケーの右隣に座ると、お茶を一気に飲み干し、浮かない顔でカップを見つめていました。
ディケーはすかさず水筒のお茶をつぎ、クッキーの小皿を側に置いて、ロズワルドの様子をうかがいます。
ユニークスキル"声援昇圧"。
ディケーが考案した加護の中でも一番の出来だと、ディケーは自負しています。
はたしてロズワルドの評価はいかに?
正義には力が必要です。何故ならば、力無き正義に耳を貸す者などいないからです。故に正義の加護には、力を授けるスキルが不可欠でした。
しかし、実際に力を授けるとなると、解決すべき2つの問題が浮上します。
1つ目は、行使する力の"正しさ"を、いかにして裏打ちするか。
2つ目は、その"正しさ"が過ちだと判明した時、いかにして制止するか。
ディケーが地上を放浪する中で、出した1つの答え。それが人々の応援や声援。すなわち"エール"でした。
行使する正義が正しければ、それを支持する人も多数いるはずです。信じる心や応援や声援を力の源とするなら、過ちを犯す危険も少ないのではないでしょうか?
ですがもし、行使する正義が間違っていたとしたら? 加護を受けた者が力を暴走させたら? いかに制御すればよいでしょう?
簡単です。応援が力の源なのですから、応援を止めればいいのです。さすれば、すぐに無力化できます。少なくとも"正義の暴走"による最悪の事態は阻止出来るでしょう。
正しき者に力を授けるが、過ちを犯すならただちに阻止する。これが正義の加護、"声援昇圧"の理念でした。
「ねーちゃん」
「うん」
「これってさ…」
「うん」
「メチャクチャヤバイな」
「それは…褒め言葉?」
「もちろん褒めてるよ。応援を力になんて面白い能力だし、実際凄い。でも同時に、危ぶんでもいる」
「そ、そうなんだ…」
クッキーを1つ食べ、ロズワルドは話を続けます。
「一見すると、能力を底上げするサポート魔法に似ているよね。応援も詠唱を簡略化したようなものだし。だけど魔法じゃないからマナは使わず温存できる。これはメリットだね。反面、応援し続けないと能力は持続できない。理念からすると仕方ないけど、デメリットになる可能性もある」
「うん。そうだね」
「凄いと思ったのは汎用性の高さだよ。魔法使いのサポート魔法って、戦闘などの限定的な状況で、限定的なステータス強化に特化してるよね。だけど"声援昇圧"は、応援するだけで如何なる状況にも対応できる。走るならスピードやスタミナが強化。石を投げるならパワーや命中精度が強化。ジャンプするなら脚力や柔軟性が強化される。多分、料理や掃除のような、日常系スキルも強化されるんじゃないかな。病気の治りも早くなりそうだし、早食いとか、我慢比べみたいなことでも、それに応じたスキルが強化されそうだ」
「そうだね。早食いなんて想定してなかったけど、いけると思うよ」
ロズワルドの聡明さに、ディケーはいつも驚かされます。本当に10歳の少年なのでしょうか?
「問題なのは、一人では何の役に立たないとこだね。試しに自分で自分を応援してみたけど、まったく効果がなかった。この能力を使うためには仲間が必要だ」
「でも、ロズくんは独りじゃないでしょ?」
「確かにオレにはミカがいる。実際ミカに応援されて、雀の涙程度ではあるけど、確かに効果が出たよ。あれってつまり、信徒同士が励まし合えば、互いに力が湧き上がるって事だよね。腹が減っても、寒さに震えても、疲れ果てて歩けなくなっても、互いに励まし合うことで、もうちょっとがんばれる。少なくとも野垂れ死には避けられる。オレとミカが慎ましく生き延びるには、十分過ぎる効果だよ。でも、……それは"声援昇圧"の本質じゃない」
「うん、確かにそうだね」
二人には末永く仲良しでいてほしい。天寿を全うして欲しい。それは姉としての切なる願いです。
しかし、"声援昇圧"は本来、正義の為に使うべきもの。兄弟愛のためではないのです。
「ねーちゃんの信徒になる以上、オレは正義の為に戦わなくちゃいけない。そうだろう?」
「うん、そう。その通りだよ。もっとも……」
ディケーは目を伏せ、申し訳なさそうにつぶやきます。
「2つ目の加護が覚醒すれば、イヤでもそうせざる負えなくなっちゃうんだけど……ね」