23-4 せいぎのめがみさま ~信徒編4~ 人影
ミカゲルが目蓋を開けると、真っ青な空と、逆向きのおねえちゃんが見えました。
「ああよかった♪ ミカくんがなかなか目を覚まさないから、お姉ちゃん心配しちゃったよ」
どうやらディケーが膝枕をしてくれているようです。
ミカゲルは身体を起こすと、辺りを見回します。
あれれ? ここ、どこだっけ?
そこは丘の上にある野原で、麓には町が見えました。丘の中央には大きな岩が鎮座していて、岩の側に二人の人影が立っています。
子供と大人の男子。見覚えのある背中。ロズワルドとヘルメスでした。
ロズワルドは何かを試すように、岩に向かって小石を投げています。コン、コンと、軽い音が続きますが、時々ズゴンッ!と重い音が響きました。
振り返ると、すぐ後ろにディケーが座っています。ミカの視線に気付くと微笑みで返してくれます。
ディケーの側にはサンドイッチの入ったバスケットが置かれていました。お昼が楽しみです。
ディケーの背後には林があり、その奧には雪を被った山脈が見えました。雄大な景色です。
そうだった。みんなでぴくにっくにきたんだよ。
再びロズワルドを見ると、今度はぴょんぴょんとジャンプしています。そこでヘルメスがロズワルドに話しかけた途端、ロズワルドは軽々と岩を跳び越えてしまいました。
これにはミカゲルもビックリです。夢でも見ているのでしょうか? 夢?
そういえば…… どうしてボクはねていたのかな?
ミカゲルは思い出します。
ロズワルドとかけっこしたこと。
負けそうになった時、ディケーの応援が聞こえたこと。
「ミカくん頑張って~~~~~!!」
その瞬間、ロズワルドが、ディケーが、ヘルメスが、世界中の何もかもが、一斉に動きを鈍らせたこと。
生まれて初めてロズワルドに、かけっこで勝ったこと。
ミカゲルはそれが嬉しくて、思わずディケーに飛びついたこと。
その途端に世界中の動きが戻って、ディケーと一緒に転がって……
記憶はそこで途切れていました。
「ごめんね、おねえちゃん! ころんじゃった? いたかった?」
「あはは、ミカくんは優しいね♪ 大丈夫だよ〜。お姉ちゃんは頑丈だから♪」
そう言ってディケーは、ミカゲルをギュッと抱きしめてくれました。
ミカゲルも負けじとギュッとしますが、腕が短くてディケーの背中まで届きません。
それがミカゲルには、もどかしくてしょうがありませんでした。
あれ? だれ?
ふと人の気配を感じたミカは、ディケーの肩越しに背後の林を見ます。
人影でしょうか? 木々の間に、何か見えたような気がしました。
「おっ! 起きたかミカ!」
声のする大岩に振り返ると、ロズワルドが手を振っていました。
「ちょうどいい。今からオレを応援してくれ。あ、ねーちゃんはいらないぞ。今はミカだけだ」
応援? 何を言っているのかよく分かりませんが、ミカは言われるままに声を出します。
「がんばれ〜。がんばれにいちゃん〜」
「気のない応援だなぁ。ま、それはそれで良し。そのまま応援しててくれよ!」
そう言うと、ロズワルドは大岩の回りをグルグルと走り出しました。
「がんばれ~。がんばれ~」
何周か回ると、息を切らしたロズワルドが、おねだりしてきます。
「今度は……ねーちゃんも……一緒に……」
「はいはい。ロズくん頑張って〜〜〜〜」
「がんばれにいちゃん〜」
「よっしゃ〜〜!!」
さっきまで息も絶え絶えだったロズワルドは、突然元気を取り戻すと、目にも見えぬ早さでグルグルと走りだしました。まるで大岩を中心に竜巻が起きているようです。
目を見張るような光景でしたが、ミカにはそれ以上に気になることがありました。先程感じた人の気配です。木々の間に見えた気がした人影です。
ミカゲルは振り返り、背後に広がる林を見ます。
人影が……近づいていました。