23-3 せいぎのめがみさま ~信徒編3~ 声援昇圧
「変な感じだな。胸の中にねーちゃんがいるみたいだ」
ロズワルドは、自分の胸に手を当てながらつぶやきます。
「それと…なんだこれ? ミカから何か感じるんだけど…。これは何?」
「ぼくもにいちゃんから、なにかかんじるよ」
「それは二人が私の信徒だからだよ。同じ神を信仰する信徒は、互いに存在を感じ合えるの」
「へぇ。つまり、信徒同士は引かれ合うってやつか」
「信徒同士は存在を隠せないから、例えば、コッソリ部屋を抜け出しても、側に信徒がいればすぐに気付かれてしまうわ。逆に、信徒を偽って近づく人がいてもすぐに偽物だって分かる。どのみち当面は、貴方たち以外を信徒にする気は無いから、互いの居場所を確かめるのに役立つと思うよ」
「つまり、ミカがはぐれて迷子になっても、探し出せるのか。そりゃ、ありがたい」
「じゃあ、にいちゃんとかくれんぼしても、すぐにみつけられるんだね。あ……でも、すぐにみつかっちゃうのか」
私も地上に戻ったら、二人に会いにいくからね。何処にいても必ず。
心の中でつぶやくディケーでした。
「うーむ。いや、確かにありがたい能力だけどさ、これって"加護"じゃないよね?」
「えへへ♪ やっぱりロズくんには分かっちゃうか〜」
「そりゃ分かるよ。絆が深まるだけで、正義とはまったく関係無いもの。早く本命が知りたいな。やっぱりあれなの? 変身とかしちゃえるの?」
ロズワルドは期待に目を輝かせます。
「ああ、ごめん。ガッカリさせて申し訳ないけど、そういう方向じゃないんだよ」
そもそも三種の神器は、テミスお母様から餞別にいただいたものです。審判も、裁きも、"アストライア"への変身も、ディケー自身の能力ではないのです。残念ながら加護には反映させられませんでした。
「ちぇっ、ねーちゃんにはガッカリだよ」
「うっせぇわ」
「で、実際の所、どんな加護がもらえるわけ?」
「私があげられる"加護"は3つよ。静かなる訴え、"クワイエット・コンプレイン"! 砕けぬ刃、"アンブレイカブル・ブレイド"! そして声援昇圧、"エール・ブースト"!」
「………そりゃ、また………厨二心をくすぐられるネーミングだねぇ」
「でしょっでしょっ♪ 一生懸命考えたんだからっ♪」
「別に褒めてないけど」
「あ、そう…」
「肝心の能力はどうなのさ。名前負けしてないんだろうね?」
「名前負けはしてないと思う。多分、悪い意味で…」
「そっか〜。悪い意味でか〜。うん、分かった。大丈夫だよねーちゃん。覚悟なら出来てる」
「ううう、ごめんね」
だんだん空気が悪い方へ向かっているのを察したか、そこにヘルメスが割って入ります。
「まあまあまあ! 東洋のことわざにも『腹が減っては軍は出来ぬ』とあるではないですか。話の続きは朝食の後といたしましょう!」
遅い朝食を終えた、神と女神と二人の男の子は、宿屋でお昼のお弁当を作ってもらうと、町外れの野原へピクニックと洒落込みます。もちろんただのピクニックではありません。加護を実際に体験してもらうための勉強会…もしくは実証実験でしょうか。
「"砕けぬ刃"は"静かなる訴え"と連動しているから、今は使えない。"静かなる訴え"は3つのタイプがあって、確定して定着するまでに時間がかかる。だけど"声援昇圧"なら、すぐにでも体感できるよ」
「具体的にはどうするのさ?」
「そうねぇ。じゃあ、かけっこしましょう」
「はぁ? かけっこ?」
「そう。ロズくんとミカくんでかけっこするの」
「でもおねえちゃん、ぼく、はやくはしれないよ」
「大丈夫だよ、ミカくん。お姉ちゃんが応援するからね♪ ロズくんにだって負けないよ」
「はぁ? オレがミカにかけっこで負ける? そんなことありえねーし」
「ふっふっふっ♪ それはどうかな〜。何しろ女神様の応援だよ〜。ミカくんも元気百倍間違い無しだよ〜」
「へ〜、自信満々じゃん。じゃあ見せてもらおうじゃないか。ねーちゃんの加護の凄いところをよ!」
ロズワルドとミカゲルのかけっこ勝負。
二人は50メートル程離れ、そこからゴールのディケー目指して全力で走ります。
「よ〜い、ドン!」
ディケーがかけ声と共に上げていた手を振り下ろすと、二人は一斉にスタートします。
先行したのはロズワルド。大人げなくも全力疾走です。
一方でミカゲルも必死ですが、走るのが苦手なようで、ロズワルドとの距離がどんどん広がっていきました。
早くもロズワルドは残り10メートルを切り、ゴール寸前です。そろそろ頃合いでしょう。
ここでディケーはミカゲルに声援を送ります。
「ミカくん頑張って〜〜〜〜〜!!」
その瞬間でした。
ロズワルドがあと一歩でゴールしようとしたその時、ミカゲルがゴールしていたのです。
呆気にとられたロズワルドでしたが、その直後、更に思いがけない展開を目撃します。
勢い余ったミカゲルがディケーに激突し、二人はそのまま車輪のように、野原をクルクル転がっていってしまったのです。
「うわああああああ!! ねーちゃん!! ミカ〜〜!!!」
ロズワルドとヘルメスが慌てて追い掛けると、二人は10メートル程先で目を回していました。とりあえずは無事のようです。
これがディケーの1つ目の加護。
応援や声援をおのが力とするユニークスキル、"声援昇圧"でした。