20-8 せいぎのめがみさま ~放浪編8~ 唯一の希望
ここまで読んでくださった皆様なら、とっくにお気づきでしょう。はい、その通りでございます。
なんとロズくんの正体は! "ルリルリ"の酒場で飲んだくれていたロズワルドした!
そしてミカくんの正体は! "リトル・ヘルヘイム"で行方不明になったミカゲルだったのです!
ところが二人は、あと一週間で天命が尽きる…。つまり死んでしまうと言うのです。
皆様はきっとこう思ったに違いありません。
「駄目だスネーク! 未来が変わってしまった! タイムパラドックスだ!」と…。
ですが皆様、ご安心ください。これは正史であり、タイムパラドックスも起きません。
天命が尽きるはずの二人の少年に、何が起きたのでしょう?
そしてディケーの選択とは?
さあ、"ルリルリ"編とのミッシングリンクを埋めていきましょう!
その日は宿屋に泊まり、一夜が明けました。
朝早く目を覚まして厠へ行ったディケーは、その帰りに突然背後から声をかけられます。
「ディケー姉さん♪」
「ひゃっ!? な、な、何? ヘルメスくん? 脅かさないでよ! 心臓が止まるかと思ったじゃない!」
「すみません。このタイミングでないと、男の子達抜きで話が出来ないと思いまして」
慌てて振り返ったディケーは、目を赤く泣き腫らしておりました。どうやら夜通し泣き明かしていたようです。
「もしやと思って引き返してきたのですが、やはり知らないんですね」
「知らないって、何を?」
「我々神々は、人の天命を書き換えられるんですよ」
「えっ? それって…」
「男の子達の寿命を、人並みに延ばす程度なら、ディケー姉さんにだって簡単にできるって事です」
「ま、まじでっ!?」
「まじも大まじです。って…やっぱり知らなかったんですね」
「初耳だよっ! 一体どうするの!」
「そう興奮しないで……と言っても無理な話しですね。しょうがない。場所を変えましょう」
そう言ってヘルメスがディケーの手を取ると……
突然足下の感触が無くなり、宿屋の廊下は消え失せ、周囲は真っ青に変わります。そこは人の身では耐えられぬ空虚な世界。高度1万メートルの上空でした。
空気は凍て付くように冷たく、息苦しく、足下を見ると壮大な景色が広がっています。先程までいた宿屋は、真下に見える小さな町にあるのでしょうか?
「どうです姉さん。美しいでしょう♪ 素晴らしいでしょう♪ 神々だけの世界です」
「ステキな景色だけど、のんびり眺めていられる気分じゃないよ」
「分かりました。では、内緒話を続けますね」
「お願い」
「運命を司る三女神に会って、男の子達の天命を確かめてきた。昨日、そう話したと思います」
「うん。覚えてるよ」
「実はですね、男の子達の天命は、一年前に尽きていたのですよ」
「えっ!? ……で、でも二人は…」
「はい。二人は今も生きています。それは何故か? ディケー姉さんが二人の天命を引き延ばしたからです」
「えっ!? ……で、でも私は何もしてないよ?」
「何をおっしゃいます。二人と一緒に旅をしたじゃないですか。姉さんが二人と一緒にいる事を望みました。女神自らが二人の保護者になったのですから、モイライも強引な手は使えません。仕方なく天命を先延ばしにしていたのです」
「そんな事で、あの子達を救えたの!? だったら……」
「誤解しないでほしいのですが、これはあくまで天命の先延ばし。緊急措置にすぎません。姉さんの保護下から離れれば、その瞬間に男の子達の天命は尽きるでしょう」
「まさか! それって、もしかして……。私がオリュンポスに帰った瞬間って事?」
「はい。『一週間後に天命が尽きる』とは、つまりそう言う意味なのです」
「そんな……そんな……。だったら……お父様の……神王ゼウスの命令なんて聞けないよ!」
「はい。優しい姉さんならきっとそう言うと思ってました。ですが神王の命は絶対ですし、モイライの皆さんも困っています。このままじゃいけないんです。その点は分かってくださいますよね」
「……………」
分かっていても受け入れられません。受け入れられるわけがないのです。かと言って抗うことも出来ません。
ディケーは黙ってうつむく以外、何も出来ませんでした。
「ところがです!!」
彼女の苦悩を察してか、ヘルメスは一際明るく声を上げます。
「全てが丸く収まる、素晴らしい方法があるんですよ!!!」
ディケーはハッとして顔を上げます。
「そ、そうだよ! 天命を先延ばしにするんじゃなくて、書き換える方法があるんだよね!」
「そうです。とても簡単な方法があるんです♪」
「私が何をすればいいの!? どうすればあの子達を助けられるの? 焦らさないで教えてよ!」
「男の子達を、ディケー姉さんの信徒にするんですよ」
「わ、私の…信徒? そんなことで天命を書き換えられるの?」
「はい。信徒にして加護を与えるだけです。ねっ♪ 簡単でしょう?」
「確かに簡単かもしれないけど…… 私、信徒にした事なんて一度も無いんだよ。上手く出来るかな」
「その点は大丈夫です。全力でサポートしますから」
「ありがとう、ヘルメスくん。だけど……あの子達を私の信徒にして、正義の信徒にして…、本当に良いのかな…」
「ただの人間として死なせてあげるのも、優しさだとは思います。でも、そっちは選べないのでしょう?」
「うん…。絶対に無理……」
「だったら腹をくくりましょう。どんな過酷な未来が待ち構えていたとしても、死ぬよりマシだと割り切りましょう。それで嫌われても、恨まれたとしても、全て受け入れましょう。他に方法はないのですから」
分かりやすい例えを挙げるなら、……そうですね。
これまでただのアルバイトだった子を、正社員として再契約する。…と言うのはどうでしょう?
幼い子供を正社員として雇い入れようって言うのですから、ディケーが躊躇するのも当然と言えます。
給与や福利厚生が充実する反面、責任も重くなるわけですからね。
さて。
信徒の福利厚生が加護や天命の書き換えだとしたら、信徒の重い責任とは一体なんなのでしょう?
正義の信徒の重い責任とは………?
プライベートで立て込んでいて、執筆が遅れました。続きを待っていてくれていた方ごめんなさい。
そして今回も終わらせられませんでした(><)
我らがティケーたんのお話はもうちょっと続きます。