表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/190

2-4 特訓!

 囲炉裏の側から見る泉の景色は格別だ。幻想的で美しく、夢心地になれる。嫌な現実を忘れるには最高の場所だろう。おかげでなんとか吐き気も収まってきた。

 ハナナちゃんは目下、昼食の準備中である。“掃除屋”と呼ばれる巨大アリを解体している真っ最中なわけだ。

 巨大アリが作り物ではなく、本物の生物だと確証を得たくて、ハナナちゃんに頼んで解体作業を見学していたのだが……。

 やはり『宇宙人解剖ビデオ』すらまともに観れないようなチキン野郎には、難易度が高すぎた。

 解体時の生々しい臭いや音、それにグロテスクな内蔵を見ているうちに、たちまち気分が悪くなり、口を押さえながら退散することに。

 見ていられたのは僅かな時間だったが、確信を持って言える。間違いなくあれは生物だ。少なくともゴム人形などではない。それだけ分かれば十分だろう。

 ハナナちゃんの手際の良さも見事だった。

 完全にプロの手口だ。相当数の巨大アリを解体してきたのだと、素人目にも分かる。

 しかしその解体技術は、15~6歳の女の子が一人で完成させた独自の技術だろうか? そんなわけねーよな。

 巨大アリの解体方法はすでに確立されていて、それを先人から学んだからこそ、若いハナナさんでも解体できたのだと思う。

 例えば、日本のアニメ漫画文化を思い起こして欲しい。

 日本独特の二次元表現は何時生まれたのだろうか? 戦後間もなくか? 違うね。

 江戸時代には“浮世絵”があった。平安・鎌倉時代にまで溯れば“鳥獣戯画”がある。

 それら熟成された独自文化が土台にあり、引き継がれてきたからこそ、その進化形として現在のアニメや漫画があるのだ。

 ハナナちゃんの熟練の技も、何世代にも渡る先人達の知識や経験が、引き継がれて来たからこそなのだろう。

 突如、関ヶ原近辺に巨大アリが発生! …という展開なら、現代日本が舞台でもあり得る話だ。

 だけど、巨大アリを食べる食文化が確立しており、生活の一部として溶け込んでいるとなると、現代日本も、過去の日本もあり得ない。

 改めて思う。間違いなく、ここは異世界なのだ。

 で? どうするよ?

 ……………分からない。

 なにしろ判断材料が圧倒的に足りてないからな。

 例えば私の立ち位置だ。

 私にしてみれば、ここは異世界であり、ハナナちゃんは異世界人だ。だけど、ハナナちゃん達この世界の住人にしてみれば、私こそが異世界人だ。

 異世界人たる私は、この世界でどう扱われる? 歓迎されるか? 迷惑がられるか? 駆逐対象で殺処分…なんてのもあり得る。

 異世界の概念が無いかもしれない。その場合は遠い世界から来た外国人か、頭のおかしい人として扱われるだろうな。あながち間違いではないが。

 私に判断材料を提供してくれる、またとない存在。それがハナナちゃんなのだが……。どうしよう。

 ハナナちゃんには助けられた恩もある。正直に正体を明かすべきだと思うけど、明かしても大丈夫だろうか。

 ……………

 ははっ♪ これじゃまるでプロポーズに迷ってる若者だな。

「ごめんなさい」されたら何もかも壊れてしまうから、告りたいけど怖くて出来ない! …みたいな。

 でもこっちの「ごめんなさい」は失恋どころか命を失いかねないんだよな。「異世界人殺すべし。慈悲は無い」って意味だから。

 ハイクを読む間もなく「サヨナラ!」と爆発四散しちゃったりするかも? 怖いなぁ。

 なんであれ、秘密を明かす時は腹をくくるしかないだろう。


 ところでハナナちゃんの“大事な話”だが、実はまだ決着していない。「慣れるまで特訓したい」のだそうだ。

 なので私の“大事な話”は後回しだ。考えをまとめる時間が出来たと思えばいい。それまでは情報収集に勤めよう。

 無理して世界情勢を探る必要なんて無い。身近な生活風景からだって、得られることは沢山あるものな。

 ちなみにハナナちゃんの言う特訓とは……

 第一に私を“オトっつぁん”と呼び慣れることであり、

 第二に私に“ハナナちゃん”と呼ばれ慣れることである。

 ………いや。いやいや。

 私だっておかしいとは思っているよ? そんな事のために特訓が必要なのかと思ってるよ? 実際、頭の中が“?”で溢れかえったくらいだ。

 だけどハナナちゃんが私を「オトっつぁん」と呼ぶとき、子供のように無邪気で無防備な笑顔になる。ハナナちゃんにとっての“オトっつぁん”が、いかに特別かが伝わって来る。

 そして私が「ハナナちゃん」と呼ぶと、顔を赤らめ困った顔になる。呼ばれ慣れていないのだと一目でわかるほどに、ほっぺたが赤い。そして凄くかわいい♪

 私にとっては大満足だが、ハナナちゃんにとっては都合の悪い事なのかもしれない。腹筋割れ系女子としての立場上、“オトコ女”と呼ばれ続けないと都合が悪いとか? もしかしたら異世界特有の儀式みたいなものとか? まあ知らんけど。

 なんであれ、本人が強く望んでいるのだ。どんな思惑があるにせよ、尊重するべきだろう。


「オトっつぁん、おまたせ~♪ さあ、飯にしようぜ♪」

 解体した巨大アリを載せた大皿を持って、ハナナちゃんが戻ってきた。長椅子にドンと置かれた大皿には、色こそ紫だが、美味しそうな肉の切り身が山のように盛られている。

 吐きそうになっていた私を気遣ってくれたのだろう。原形を留めているものはほとんど無い。

 唯一、足は原形を留めていたが、見た目がタラバガニの足に似ていたため、正気度が減少する心配はなかった。

「これは……どうやって食べるんですか?」

「新鮮だから生でもいけるけど、煮ても焼いても美味いんだぜ♪ せっかくだから色々試してみようか♪」

 そう言うと、ハナナちゃんは調理道具を取りに駆け出した。元気だなぁ。

 ハナナちゃんが戻ってくるまで、私はイメージ変換に努めることにする

 目の前の肉の山はグロテスクな巨大アリの成れの果てだ。しかし昨夜食べた乾し肉は美味かった。美味いけどグロい。グロいけど美味い。グロい…。グロい…。確かにグロい…。だけど……美味い!!!

 よし! ヨダレが出てきたぞ! これならいける!

 すると「持ってきたぜ、オトっつぁん♪」と、ハナナちゃんは鍋と調理用の鉄板を持って戻って来た。

 囲炉裏は二つ並んで設置されているので同時に使える。つまり、二つの調理法を同時に楽しめるわけだ! 最高か!

 問題は山積みだけど、今はとにかく生き延びよう。そのためにも腹ごしらえだ!

更新遅れてごめんなさい。

書かなきゃならないことがいろいろありすぎて、まとめるのに手こずってしまいました。

そして答え合わせはまだ始まらないという……(><)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ