20-2 せいぎのめがみさま ~放浪編1~ だからディケーは人が好き
オリュンポスでは、神々の誰もが神王ゼウスの娘だと知ってます。ですから酷い目に遭わされません。ハブられるだけです。
ですが下界では、人々の誰もがゼウスと娘だとは知りません。女神の力を見せない限り、ディケーはただの幼い美少女でした。
ですから、初めて下界に降りた時の心細さは、並大抵ではなかったでしょう。
ところが……
ディケーが心細く下界を彷徨っていますと、まるで引き寄せられるように人間が現れました。老若男女にかかわらず、です。
最低でも一人は「放っておけない」と心配する者が現れて、ディケーの保護者になろうとするのです。旅の道連れになろうとするのです。中にはスケベ心丸出しの思春期ボーイや、あからさまな犯罪者もいたでしょう。しかし大半の人々は、ディケーに好意的でした。
恐らくは、神々の誰もが持つ"魅了の力"が働いたのだと思われます。しかし、彼女は正義の女神です。過度な美貌など持ち合わせてはおりません。どうやら人間社会に溶け込める程度の、程よい美しさ、可愛らしさが、逆に功を奏していたようです。
接し方も世代ごとに違いました。老人はディケーをかわいい孫のように。中年は我が子のように。十代後半の青年は大切な妹のように扱いたがりました。何故ならその多くは過去に、かわいい孫を、我が子を、大切な妹を亡くしていたのです。独り彷徨うディケーが、死んだ孫と、我が子と、妹と重なり、放っておけなくなってしまうのです。
ただ、十代前半の思春期ボーイだけは違います。彼らはディケーと、友達以上恋人未満な関係になりたがるのです。
本当は特別な関係にはなりたいけど、踏み込むだけの度胸は無いみたいな、そんな甘酸っぱい感じです。
そしてどういうわけか分かりませんが、思春期ボーイがと旅をしている時に限り、"ラッキースケベ"イベントが頻発するのだそうです。
分からない方に説明しますと、"ラッキースケベ"とはガングワルドの専門用語の一つです。何らかの事故により、意図せず性的に興奮してしまう状況が発生してしまう現象を言います。
代表的な例は、以下の三つでしょうか?
1)突然の強風で好きなあの子のスカートがめくれてしまう。
2)好きなあの子がいると気付かずにドアを開け、着替えや入浴中の姿を目撃してしまう。
3)うっかり転んだ際に、好きなあの子まで巻き込んでしまい、おっぱいを触ってしまったり、唇が重なってしまう。
意外にも、ディケーはまんざらではなかったようです。オリュンポス時代は幼かったからか、あるいは父ゼウスの威光が強すぎた為か、男神から異性として扱われた事がそもそもありませんでした。(もしかしたら美男美女だらけの神々の間ではブス扱いだった?)ですから思春期ボーイの言動はどれも新鮮で、心がときめいたそうです。
もっともそれが事故だとしても、相応の罰はしっかり与えていたようですが……。
結果として、ディケーの下界での放浪期間は、軽く千年を越えました。
その間には、辛いことも、悲しいことも、沢山ありました。酷い目にも遭わされたかもしれません。
ですがそれ以上に、素晴らしい出会いが沢山ありました。素晴らしい想い出を沢山もらいました。人間は短命ですから、百年と経たずに別れが訪れますが、想い出の中で永遠に生き続けてくれる……。
だからディケーは寂しくありません。
だからディケーは人間が、人類が、大好きなのだそうです。
執筆時間が取れなかったので、ここで一旦切ります。